ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第121回ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞 受賞インタビュー

(C)フジテレビ

宮藤官九郎

今年「不適切にもほどがある!」「新宿野戦病院」を書けたことは意味があったと思っています

「新宿野戦病院」(フジテレビ系)で脚本賞を受賞しました。2024年1月クールの「不適切にもほどがある!」(TBS系)に続き、今年2回目の受賞です。

ありがとうございます。「新宿野戦病院」は「不適切にもほどがある!」に続けて脚本を書きましたが、「不適切―」がなければ「新宿野戦病院」はこういう内容にならなかったし、「新宿野戦病院」を書くと決まっていなければ「不適切―」もああはならなかった。今年この2作品をやったのはすごく意味があるなと自分でも思います。
「不適切にもほどがある!」は昭和の教師・市郎(阿部サダヲ)がコンプライアンス意識の浸透した令和にタイムスリップする話、「新宿野戦病院」は歌舞伎町にある小さな病院を舞台に医師たちの奮闘が描かれていました。

「不適切―」の市郎は、今われわれが言葉にできないでいる、なんとなく流されて従ってしまっているようなルールに対して「本当にそれでいいのかな」と疑問を投げかける。一方、「新宿野戦病院」の日系アメリカ人の軍医ヨウコ(小池栄子)は「お金がない人でも医療が受けられる日本の制度は素晴らしい」と気づく。過去から来た人、遠くから来た人という違いはあるけど、やっぱり、「われわれが見えてないものが見える」という点は共通していると思うんですよね。


フジテレビの連続ドラマは「ロケット・ボーイ」(2001年)以来、実に23年ぶりで、宮藤さんがフジテレビ!という驚きがありました。

たまたま時間は空いてしまいましたが、「ロケット・ボーイ」でご一緒した河毛俊作監督が3年ぐらい前に「また何かやりましょう」と声をかけてくれて、ジャンルは何でもいいよ、と言うので、「まだ医療ドラマも法廷ドラマもやっていないんですよね」と答えました。河毛さんは「救命病棟」シリーズを手がけてらっしゃるし、医療モノをやるならフジテレビでというのはいいかなと思いました。そしたら、河毛さんが「新宿野戦病院」といきなりタイトルを出してくれたので、驚きましたね。


タイトルは河毛監督の発案だったんですね。

野戦病院って今時なかなか聞かない言葉だなぁと思いつつ、話していくうちに歌舞伎町の病院を舞台に「赤ひげ」(江戸時代の医師の物語)をやりたいんだな、と理解しました。たしかに歌舞伎町の今は、ひと昔前とだいぶ違うから、面白いんじゃないかと…。小池栄子さんが演じたヨウコ・ニシ・フリーマンの設定はそこから来ているんですよね。野戦病院だから軍医でネイティブ英語で、でも、英語ペラペラだと隙がなさすぎて面白くないから、日本語で話すときは岡山弁という…。


主演女優賞部門の投票で、小池さんには「もんげー岡山弁と英語のマシンガントークを成立させられるのは小池さんだけ」「岡山弁×英語のクセも強いが、意志の強さ、突破力など、小池栄子だからこそヨウコが魅力的に仕上がった」という意見が寄せられました。

実は小池さん、この役が決まってすぐ、家庭教師について英語を勉強していたんです。撮影現場には英語の先生も岡山弁の先生も、もちろん医療監修の人もいて、「医師はこういう場面だったらこういう言い方をする」というテキストまであるので、みなさんが想像する何倍も努力しているんですよ。でも、それを努力として見せないのがすごい。

なにしろ慣れない手術の演技をしながら英語と岡山弁でセリフを言うわけだから…。最初の顔合わせのとき、小池さんに「やめてくださいよ。もう、地獄ですよ」とも言われたけれど、実は、そうやって難しい課題をクリアすることが好きなのかもしれませんね。


第1話の手術シーンから最終話で手錠をかけられ連行される場面まで、ヨウコはヒーローのようなヒロインでした。

なんか、主人公に葛藤がないのが、今回はかっこいいかなと思ったんですよ。日本に来て出会った人たちをなんとかしようとして、免許持ってないのに手術しちゃったりして、周りがどんどん感化されていくんだけど、自分自身は何も変わらないまま、最後は立ち去る。葛藤とか悩みとか、超越している主人公がいい。それと対照的なのが、葛藤だらけのはずき(平岩紙)でした。

最終話でヨウコがテレビ中継に出て、感染症の犯人捜しや医療体制について、ものすごく真っ当なことを言うけれど、そこはもう物語の根幹のテーマだから、標準語で伝えたいなと。そこだけは『小池栄子』になっちゃっても致し方ないと思っていたんですよね。そうしたら、あくまでヨウコの標準語という演技を見せてくれたから、本当にどこまでも役のことを考えている人なんだなと尊敬しました。


もうひとりの主人公、ポルシェ乗りの美容皮膚科医・高峰享(たかみね・とおる)を演じた仲野太賀さんはいかがでしたか? 宮藤さんの作品では「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系)の山岸ひろむ役で注目され、「季節のない街」(2023年制作)にも出演していました。

「虎に翼」(NHK総合ほか)では優しいだんなさん役、再来年の大河ドラマでは主人公。好感度がどんどんアップしているから、「ここらで一回好感度を下げて、お茶の間を不安にさせておいたほうがいいんじゃない」と、本人にも言いました。

だから、金持ちのボンボンの医者役をやって、いけすかない感じを見せてほしいなと言ったら、本当に見る人が「うわー、むかつく」と思うように享を演じてくれたので、すごかったですね。ちょっと「山岸」のときに戻ったような感じでした。


終盤の急展開も評価されました。2025年の近未来、コロナのような感染症が発生し、パンデミックになり、歌舞伎町から風俗の客やパパ活をする女の子がいなくなり、病院に感染者を受けいれて、まさに「野戦病院」の様相になるという…。

最初に河毛監督と打ち合わせしたとき、「最終的にコロナのクラスターみたいなものが発生して、本当に野戦病院みたいになるのはどうかな」と言われ、書く頃にはさすがに落ち着いてるだろうと思ったら、そこからコロナが5類(季節性の感染症)になるまで結構時間がかかったから、「現段階でドラマにするのは、どうなんだ?」という意見もあったけれど、でも、やれないことはないと思ったんですよね。4年前のパンデミックを作品にすることで、みんなで共有できたらと思いました。

もちろん、コロナでつらい思いをした人もいっぱいいるから、そこをどう描くかということも慎重に考えました。橋本愛さんが演じた舞が象徴的で、今まで自分がNPOで尊敬されつつ頑張ってきたことが、パンデミックになると全部裏返る。路上売春する人たちに何度「やめなさい」って言ってもやめなかったのに、感染症が起きたら、あっさりやめて、街から出て行くという虚しさ。それは金持ちも貧乏人も命の危険にさらされ平等になったからで…。その平等が「いい平等」じゃないからだと思うんですけどね。

実は撮影スケジュールの都合もあって、舞の物語は当初の予定から変更したんですが、それが功を奏した。あたかも最初からそう決めていたかのように、撮影条件を乗り切る。30代の頃のように、まだそういうことができるなという自信にもなりました。


現在、立て続けに作品が放送・公開されています。「季節のない街」は山本周五郎原作、「終りに見た街」(2024年テレビ朝日系)は山田太一作品のリメーク、そして映画「サンセット・サンライズ」(2025年1月17日[金]公開)は楡周平原作ですが、昭和のクリエイターや文化を令和の世に伝えようと意識しているのですか?

昭和生まれといっても、終わりの方しか知らないんですけどね。ただ、気がついたら50歳を超え、視聴率のコア層(13~49歳)に自分が入っていない。すると、その年齢層の文化に合わせることはできないけれど、その人たちが新鮮だと感じるものは、まだ作れると思って。

それで「不適切―」は、「みんな知らないだろうけど、こういう昭和の文化があったんだよ」とドラマにして残しておいて、それで新鮮に思ってくれる若い人がいたり、懐かしいって思ってくれる人がいたりと、それぞれ響いてくれればいいなと思いました。

山田太一さんの「終りに見た街」は、歳を取ると「あのドラマは面白かったよね」という昔話ばかりになるけれど、いまやサブスクで昔の作品そのものを見られるわけだから、自分が関わることでどう変化させられるかを模索しました。

戦争経験がない人間の戦争の怖がり方、反戦という意識をどう持っていくべきなんだろうとか、そうやって台本を書きながら考えることが「バトンをつなぐ」って言うと、きれいごとになっちゃうけど、自分というフィルターを通すことで変化していくのも、またいいんじゃないかなと…。


やはり使命感みたいなものもあるわけですよね。

まぁ、ちょっとはあるのかもしれないです。結局、今、ドラマが週に何十本も放送されている中で目立とうと思ったら、それしかないんですよね。なんかキラキラした恋愛の話とか僕には書けないですし。そこに入れないから、もう違う色を出すしかないなぁと。それで今たまたまこういう感じになっていますね。

(取材・文=小田慶子)
新宿野戦病院

新宿野戦病院

小池栄子と仲野太賀がW主演を務める、“緊急医療”エンターテインメント。ある日、新宿・歌舞伎町にたたずむ病院に、アメリカ国籍の元軍医、ヨウコ・ニシ・フリーマン(小池)が現れる。彼女は美容皮膚科医で、港区女子と派手に生きる高峰享(仲野)の生き方に変化をもたらしていく。脚本は宮藤官九郎が手掛ける。

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