言われてはじめてスゴさに気づく「プロ野球中継の神回」
「神回だけ見せます!」は、ただ懐かしのVTRを見て終わりではない。案内役の佐久間宣行による“制作側の視点”と、伊集院光が持つ“鋭い洞察力”も見どころのひとつだ。その2つが遺憾なく発揮されていたのが、シーズン2で配信された「プロ野球中継 巨人–中日・伝説の神イニング」(2000年)だろう。
2000年9月4日、東京ドームで行われた巨人-中日戦。巨人はマジック1で、ここで勝てば優勝なのだが、試合は0対4で中日がリード。そして迎えた9回裏、巨人の攻撃……という場面である。
結論から言うとこの試合、9回裏で巨人が5点を取り、劇的なサヨナラ勝ち&セ・リーグ優勝を決める。野球的には「神イニング」なのだけど、プロ野球中継的にも「神回」であることが2人の口から語られるのだ。
日本テレビのプロ野球中継は、カメラの数がとても多い。そして、そのカメラを切り替えるのは専門のスイッチャーではなく、ディレクター本人に任せるのが日本テレビの伝統なのだそう。ディレクターがカメラを切り替えることで、たとえばスタンドの大歓声→ベンチの長嶋監督→バッターボックスに立つ松井秀喜の顔アップ……と、「観客や監督が松井に期待をしている」という画を作り上げたりする。
それを知ってから「神イニング」の中継を見ると、そこかしこにこうした「演出」があることに気づく。佐久間&伊集院はそれをひとつひとつ拾い、その意図を汲み取るのだ。12台あるカメラの使い分け、松井秀喜のガッツポーズをアップでとらえた理由、江藤が満塁ホームランを打ったあとに何をどの順番で映しているか……言われてはじめて、そのスゴさがわかり、震える。
シーズン2では他に、国鉄がJRに変わる瞬間を生放送で届けた「さよなら国鉄スペシャル」(1987年)、ベタホームドラマ回の「くりぃむしちゅーのたりらリラ~ン」(2006年)、伝説のテレビマン・井原高忠の金言が止まらない「ブラウンさん」(2001年)が配信されている。まだまだアーカイブはあるだろうから、末永くシリーズが続いてほしい。そして、他のテレビ局で眠る「神回」も見てみたい……!
文=井上マサキ