一番大変だったのは、松本人志という天才の発想を具現化すること
――では、制作統括として初めて手掛けた番組は?
「『松本人志のコント MHK』('10、'11~'12年NHK総合)です。松本人志さんとはいつかお仕事したいとずっと思っていたんですが、そんな中、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)が松本さんを追いかけることになり、せっかくだからコント作りに密着したい、という話になり、じゃあNHKで松本さんのコント番組を作ろう、という話が出てきて。そんな風にして決まった企画なんです」
――松本さんとの共同作業はいかがでしたか?
「一番大変だったのは、松本人志という天才の発想を具現化すること。例えば、ロケで使うアパートの候補をいくつ見せても、松本さんは自分のイメージと合わない限りOKを出さない。一方で、美術セットや衣装など、過去の蓄積があるNHKだからこそ可能なことを、僕の方からいろいろ提案しているうちに、少しずつ頼ってくださるようになりました。結果的に、台本作りの段階から現場での演出まで、コント制作の全てをご一緒できてうれしかったです」
――シリーズを通して、特に思い入れが深いコントは?
「『大改造!!劇的ビUFOアフター』(※宇宙人一家の依頼を受けて、松本演じる匠がUFOを改築するというリフォーム番組のパロディーコント)ですね。あんなふうにカットをいくつも積み重ねて撮影するコントは初めてだったんですが、以前在籍していた広島放送局でのドラマのプロデュース経験が役に立ちました」
――では最後に、今後どのような番組を作っていきたいですか。
「やっぱりネタ番組を作って、若手芸人の活躍の場を提供し続けたい。先ほど『オンバト+』の話をしましたが、要するに僕は、『爆笑オンエアバトル』('99~'10年NHK総合)以降、15年間続いた“オンバト”シリーズの最後のチーフプロデューサーなんですよ。バナナマン、おぎやはぎ、アンジャッシュ、タカアンドトシ…。“オンバト”は、今テレビの最前線で活躍する芸人さんたちに、世に出るきっかけを提供し続けた。でも今や、そういった役割を持つ番組が、視聴率が取れないという論理でなくなりつつある。“オンバト”を終わらせてしまった者の義務として、次世代を担うお笑いのスターを輩出できるような番組を作り続けていきたいし、そういうテレビ界の土壌を開拓し続けないとダメだと思っています。さすがに“テレビの開拓者”というのは恐れ多いけど(笑)。
その意味では、今も『バナナマンの爆笑ドラゴン』(NHK総合)の『竜の隠し玉』という若手芸人コーナーでは、とにかく攻めた人選を試みていて。やはり、テレビのスターはテレビでしか育ちませんから。お笑いに限らず、テレビはいつの時代も新たな才能を見つけ、そして育てるメディアであるべきだと思います」