9月15日に公開となる菅田将暉主演の映画「ミステリと言う勿れ」。昨年、フジテレビ系で放送された連続ドラマも好評だった本作の魅力と映画で注目すべきポイントを紹介する。
本作は、「BASARA」「7SEEDS」など、数々の名作を世に送り出してきた田村由美による同名漫画の実写版。天然パーマがトレードマークの主人公・久能整(菅田)が膨大な知識と独自の価値観による持論を淡々と述べ、さまざまな事件の謎と関係者たちの心を解きほぐしていく新感覚ミステリーだ。
もともと、整は大学の教育学部に通う普通の大学生だった。友人も恋人もいないが、一人でカレーを作り、快適に暮らしている善良な市民である。しかし、ある日、身に覚えのない殺人事件で容疑者となり、警察署で取り調べを受けることに。結果的にそれは真犯人に仕組まれたものであったが、持ち前の観察眼と洞察力で事件の真相を解いたことで、風呂光(伊藤沙莉)・池本(尾上松也)ら若い刑事たちから頻繁に相談を持ちかけられるようになってしまう。
こう説明すると、何やら刑事顔負けの主人公が事件をスカッ!と解決していく物語に思えるが、そうではない。謎解きの面白さはもちろんあるけれど、事件の真相が明らかになっても爽快な気分にはならず、むしろ言いようのない切なさに襲われることの方が多いのだ。
例えば、第1話では整をしょっぴいたベテラン刑事の薮(遠藤憲一)が真犯人であることが明らかに。薮はかつて、ひき逃げ事件によって妻と子供を亡くしており、独自の捜査で車の持ち主を突き止める。それが、整とは高校からの同級生である寒河江だった。薮は刑事でありながら彼を殺害し、また整を犯人に仕立て上げたのである。
こうした復讐を動機とした事件はミステリーやサスペンスにはありがちで、大体は愛するものを理不尽に奪われた犯人の思いが最後に明らかとなり、視聴者の涙を誘う展開となる。だが、そこで終わらないのがこのドラマの最大の魅力。薮は愛する家族のために復讐に人生を捧げた……といえば、聞こえはいい。しかし、実際の彼は家庭を顧みない男性で、妻と子供の死に目にも駆けつけなかった。
「それほど大事だった刑事という仕事も、復讐のためなら捨てられるんですね」と指摘する整。彼が放つ言葉は一切容赦がなく、少しでも家族をないがしろにしている自覚がある人なら、きっと心をえぐられることだろう。さらに、寒河江が車を貸した先輩が実は轢き逃げの犯人だったという事実が追い討ちをかける。
「真実は一つなんかじゃない。二つや三つでもない。真実は人の数だけあるんですよ。でも、事実は一つです」
整が事件に巻き込まれる形で突き止めるのは一つの事実だが、同時に事件に関係した人の数だけある真実も見せてくれる。その真実は時に残酷で、時に温かい。薮には金持ちのぼんぼんで苦労知らずに見えていた寒河江は、先輩たちに逆らえない状況にいたかもしれないし、仕事優先で息子の参観日にも出なかった薮には「こんな年寄りが父親では恥ずかしいだろう」という思いがあった。人の心こそ最大のミステリー。本作はそう教えてくれる、ミステリーの皮を被ったヒューマンドラマなのだ。
また本作の見どころは、ゲストの豪華さ。事件の関係者を演じる俳優たちは実力派揃いで、毎回心を揺さぶる名演技を見せてくれる。
例えば、先ほどの薮を演じた遠藤憲一。もし自分が整のように無実の罪を着せられたとして、彼に取り調べを受けたら自白してしまうだろうと思わせるような高圧的で威厳のある刑事像を体現した。一方で、家族に対しては真正面から向き合えなかった薮の不器用な一面や弱さが伺えるラストの慟哭は涙なしには見えない。
整が入院先の病院で出会うライカを演じた門脇麦も話題に。金髪でどこか謎めいた雰囲気を漂わせるライカ。整とはどこか感性が似ていて、二人は友情とも恋愛ともとれない関係を深めていくが、のちにライカは解離性同一性障害を患う千夜子という女性が生み出した別人格であることがわかる。同一人物であって、同人格ではないという難しい演じ分けを見事にこなし、さらにはライカの哀しみと深い愛を見せた門脇に視聴者からは絶賛の声が相次いだ。
もっとも重要な役目を果たしたのは、永山瑛太だ。彼が演じたのは、第2話で弟たちとともにバスジャック事件を起こす犬堂我路。連続生き埋め殺人事件の被害者となった妹・愛珠(白石麻衣)を殺した犯人を探している我路は、基本的に無表情だが、対峙する相手によってさまざまに“色”を変える。そこで生きてくるのが、永山の目の演技だ。罪を犯した者たちには冷たい視線を送る一方で、整とはどこか共鳴し合っており、彼と話す時にはいつも穏やかな微笑みを携えている。
他にも小日向文世、柄本佑、早乙女太一、岡山天音、佐々木蔵之介ら豪華俳優陣が一見不可解で、実は誰の心にもある闇を照らし、視聴者を物語に引き込んだ。
また、そんな彼らを主演として率いてきた菅田将暉の演技にも触れざるを得ない。菅田が演じた整は原作通り淡々とした口調で表情もさほど変わらないが、周囲とのやりとりではわずかに感情を見せる。そこから溢れ出てくる整の人間味が、このドラマを多くの人が見やすいものにしていたように思う。原作からかけ離れすぎず、でもそのままなぞるわけでもない。実写化作品における手本のような役作りを見せてくれた。
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