ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第111回ザテレビジョンドラマアカデミー賞最優秀作品賞 受賞インタビュー

(C)NHK

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」

世の中で“カムカム現象”が起こっているんだなという実感がありました(制作統括・堀之内礼二郎)

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で作品賞を受賞した感想を教えてください。

制作統括・堀之内礼二郎:3世代のヒロインの100年にわたる物語で、苦労した分、愛情もたくさんあり、賞をいただけたのは、本当にうれしく名誉なことだと思っています。「まんぷく」(2018~2019年、NHK総合ほか)を制作した後、3年がかりで作りましたが、スタッフや出演者、関係者はもちろん、視聴者の皆さんのコメントやメディアの記事も盛り上げてくださり、みんなで作った作品という感覚です。
「カムカムがあるから楽しく朝を迎えられる」「日々の活力になっている」という反応もいただき、世の中で“カムカム現象”が起こっているんだなという実感がありました。

制作統括・櫻井賢:私は脚本の藤本有紀さんと「夫婦善哉」(2013年、NHK総合)「ちかえもん」(2016年、NHK総合)で組んだこともあり、安達監督から声を掛けられて制作に参加しました。最初は「ちょっとお手伝い」というつもりでしたが、結構がっつりでしたね(笑)。皆さんが想像している以上に大変なドラマでしたので、こうして評価していただくと、スタッフ、キャストともに報われますし、次への糧になります。キャストを代表して主演女優賞を上白石萌音さん、助演男優賞を松村北斗さんが受賞したのも、とてもうれしいことです。

演出・安達もじり:演出担当としても作品賞受賞はうれしいです。カムカムという一つの世界を作ることに真摯(しんし)に向き合ってきた結果、評価を頂けた。半年間続く長いドラマですが、すごいスペクタクルがあるわけではない。小さいけれど肌触りのある世界を、皆さんがご近所に住んでいる一家の物語のように寄り添いながら見て、愛していただけたのがうれしかったです。


審査員や記者からは「3人のヒロインというのが画期的で、交代していくことで半年間飽きなかった」という評価が多く寄せられています。

安達:ラジオ英会話講座を題材にし、その100年近い歴史で積み重ねてきたものを描くというのは、脚本の藤本さんが「ちりとてちん」(2007~2008年、NHK総合ほか)を書いた後、次に“朝ドラ”を書くなら…とずっと温めてこられたアイデア。堀之内と一緒に執筆をお願いしに行ったときに、そのアイデアを聞き、どういう仕掛けで作っていったらいいかと相談しました。ヒロイン像についてもほぼ藤本さんのアイデアです。それを相談しながら整理し、3人のヒロインがつなげていく“ファミリーストーリー”にすると決めました。

ただ、本当にそれでいいのかという議論はしましたね。これまで基本的には一人のヒロインを半年間見守り続けるという形でやってきた中、「ヒロインが途中で代わると感情移入できないのでは」という意見もありましたし、実際に制作がスタートしてからも、一つ一つの過程でいろいろな難しさに直面しました。

櫻井:大変でしたが、NHKにとって連続テレビ小説というのは重要なコンテンツ。今回、チャレンジをしたことで新しい見られ方の手応えを得たのは、すごく大きいですね。


安子編のヒロインであり、主演女優賞を受賞した上白石萌音さんの演技はいかがでしたか?

安達:萌音さんは笑顔がすてきで、物腰が柔らかく、それでいて非常に壮明な人。「安子編」の撮影が始まったとき、「このドラマはどうなっていくんだろう」と誰もが手探り状態の中、座長としてしっかり立ち、作品のベースを作ってくださいました。この物語と安子という人物をとても愛し、「台本が大好きで、毎日読んでいます」とおっしゃっていましたね。戦争のシーンでも、本当にしんどい局面をしっかりと安子として生きてくださって、撮影しながら何度も萌音さんの演技に心を動かされ涙していました。

櫻井:萌音さんって、(劇中で)しゅうとめにいじめられるなど、逆境になればなるほど輝くんですよね。芯の強い女性を演じ、あれだけの演技ができる人はなかなかいません。ただ、いつもと違うのは、放送が始まった時点で萌音さんは撮影終了していたので、反響が来ても現場にいないという寂しさはありました。

堀之内:「ひなた編」でも「安子編」で描かれた場面と響き合う構造にしていたので、その意味でも「安子編」が心に長く残らなければならない。最初に萌音さんが安子をとても魅力的に演じてくださったおかげで、「るい編」「ひなた編」に印象的につながり、作品全体を成功させることができました。


その安子の老年期を歌手の森山良子さんが演じたのも、意外なキャスティングでした。

櫻井:そこはとても悩みましたね。視聴者の皆さんは萌音さんに愛着があるので、誰が演じても「安子じゃない」と思われかねない。一方で、安子が半世紀の間アメリカで日系人として生きてきたという空白の時間を埋めてくれる人でもなければならない。難しいキャスティングでしたが、不思議な巡り合わせで森山さんに出会えたんです。

お父さまがジョー(オダギリジョー)のようなトランペッターで、ルイ・アームストロングと写真も撮ったと聞いたときに、運命的なつながりを感じました。森山さんは、自分は女優ではないとおっしゃって、本当に大丈夫なのだろうかと悩みながらも引き受けてくださった。普段、英語は話さないそうで、数カ月前からトレーニングをしてもらいましたが、やはり、お父さまの影響で、子供の頃からアメリカン・ポップスが流れる中で育っただけあり、イントネーションなどの飲み込みが速い。日系人社会で生きてきた人のリアリティーをちゃんと表現してくださいました。


安子が名前を変えアニーとして生きてきたことは終盤まで伏せられ、視聴者もやきもきしました。

安達:実は第21週の時点で、はっきり「アニーは安子です」と示したつもりでした。アニーがひなたと話し「英語はあなたをどこか思いもよらない場所まで連れていってくれますよ」とかつて安子が言われた言葉を口にした場面で…。しかし、SNSなどですごい議論になっているのを見て「うわ、やばい」と焦りました(笑)。

堀之内:ネット上では“ミルクボーイ現象”と言われていましたね。視聴者の皆さんの間で「ほな、安子やないか」「安子とちがうか」というやりとりが連日行われて、こういう楽しみ方があるんだなと僕らもびっくりしましたね。

櫻井:脚本の藤本さんとも「アニーが出てきた時点で安子だと思われるだろう」と話し、演者が萌音さんではないというショックも含め、どうやって段階を踏んで受け入れてもらうか、そこは“カムカム5大難関”の一つでしたね。最終的に受け入れてもらえたのは、演出陣が台本を映像化する際に出した答えが届いたからだと思います。


2代目ヒロインの深津絵里さんは、10代から70代までのるいを演じ通しました。これだけ長い年代を演じるのは最初から決まっていたのでしょうか。

堀之内:当初からるい役は10代から最後まで演じていただける方にと考えていました。深津さんは何年もドラマに出ていなかったので、引き受けてくださるか自信はありませんでしたが、久しぶりに出るからこそのフレッシュさもある。そして何より、深津さんご自身が本当に魅力的だったので駄目元でお願いしました

安達:オファーした時、深津さんはロングヘアでした。どうやって年齢を経ていく表現をするか、かなりの時間をかけて議論しました。深津さんはエンターテインメントとして楽しめるビジュアルを、その時代の表現も含めてやりたいと考えてらっしゃって、髪をだんだん短くしていくことに。そして、最後に生き別れた母・安子と再会するとき、るいはどんな心境なのかと考え、ショートヘアになって幼い頃に負った額の傷を見せることによって、自らにかけた呪縛を解いている姿を安子に示すという最後を目指すことにしました。


深津さんの繊細な演技が絶賛されました。安達さんから見た魅力はどんなところに?

安達:ちょっとした感情や動作、全てにおいてちゃんとした表現をしてくださるので、極端に言えば、深津さんのワンショットだけ撮っていれば成立してしまうぐらい。自然と深津さんのカットが長くなっていきました。本当に背中だけのたたずまいでも、その背中が素晴らしい表現をしているんですよね。


るいがクリスマス・コンサートで「日向の道を(On The Sunny Side Of The Street)」を歌う場面は、深津さんは練習してから臨んだのでしょうか。

安達:そうですね。るいがどういう心境であの歌を歌うのかは、最終的には台本を見ないと分からないので、それが決まる前から、上手に堂々と歌うパターンを想定して練習することにしました。しかし、練習が始まると、作曲家の金子隆博さんが「深津さん、めちゃくちゃ上手いじゃないですか」とびっくりしたほど、すばらしい歌声でしたね。


3代目ヒロイン、ひなた役の川栄李奈さんも英語のセリフをかなり練習したのでは?

安達:川栄さんはオーディションでひなた役に決まってから収録が始まるまで1年ぐらいの準備期間がありました。その間ずっと英語のレッスンをこなし、台本ができると、英語のセリフの細かいニュアンスまで表現できるほど精度を上げてくださいました。

櫻井:そうなんですよ。ものすごい努力をしているのに、決して人には見せない。撮影スタジオの前室でスタンバイしているときも、台本を確認しているのを見たことがありません。

堀之内:まさに侍のようでしたね。

櫻井:本当にそう。かっこいいんです。ひなたは何をやっても三日坊主で、人生ずっと低空飛行という人。その魅力を等身大で演じてくれる人を選ぶのは難しく、オーディションの最終選考は人気と実力を兼ね備えた女優さんが集まり、ハイレベルな決戦になりました。その中で、既にこれだけのキャリアがありながら、オーディションに向かってくる川栄さんの気迫にはみせられるものがあり、堀之内と演出の安達が決断。いい選択だったと思いますね。


安子とるいの再会は50年後。ひなたは40歳を過ぎてから海外留学をし、父親のジョーは30年ぶりに音楽活動を再開します。人生をやり直すのに遅すぎることはないというメッセージを感じました。

堀之内:脚本の藤本さんは、登場人物の一人一人にちゃんと人生があるということをすごく大事にしながら物語を作られています。僕ら制作チームもその思いにすごく共感し、大事にしてきました。どんな人生にも価値があるし、いくつになったってやり直すことができるんだというポジティブな思いを毎朝の物語で描くことで、多くの方々に希望を届けられたらと願いながら“朝ドラ”を作ってきました。ひなたは最後まで結婚しませんが、ハッピーエンドとして描いています。「ひなたの道を歩けば人生は輝くよ」というメッセージを受け取って、ご覧になっていただいた多くの方々に幸せな気持ちになっていただけたのなら、制作者の一人として最高にうれしいです。


脚本賞を受賞した藤本有紀さんの魅力はどんなところにありますか?

櫻井:藤本さんはテーマを雄弁に語る人ではないので、僕たちが台本に込められた意味を読み取りながら作っていく。おそらく藤本さんの中でも始めからかっちり物語ができ上がっているわけではなく、台本に書く何倍ものシーンを作ってから取捨選択し、つなげていっているんですよね。豊かな物語にするために想像を絶する労力を使っていると思います。

このドラマは、ヒロインが何らかの職業を目指すというような視聴の手掛かりがほとんどなく、PRするのが難しかったのですが、それでも最後まで見続けてくれる人たちがたくさんいたことは、けっこう驚きではあります。そして、算太(濱田岳)が死ぬ前に語ったことや、勇(目黒祐樹)の妻・雪衣(多岐川裕美)が告白したことは、やはり年月を経ないと言えない。人間関係の問題を時間が解決してくれるということが、ここまで心にしみるシーンになる藤本さんの描写はすごいと思いました。

また、このドラマに出てきたラジオや映画、テレビ、音楽というメディアから私たちは日々、影響を受けているし、それによって運命が切り開かれることもある。そこの描き方もリアルでしたね。藤本さんは目的に向かってまい進するみたいな描き方をせず、いろいろな等身大の人生に寄り添う物語を書ける人だと思います。

安達:そうですね。藤本さんは物語のために人を動かすということをしない。いろいろな人が交錯するからこそ物語が生まれていくという作りに、ずっと徹しています。そこにちょっと俯瞰(ふかん)の目線があるので、登場人物が本当に愛おしく、面白おかしくも見えるんですよね。これぞ上質の喜劇だと感じさせてくれる、なかなかいない作家さん。人間を描き切る力は本当に圧倒的で尊敬しています。しかし、その脚本を実際に撮るのは非常に難しく…。今回も演出チームは「藤本さんが描きたいのはこういうことなのかな」と考え、七転八倒して悩みながら、なんとか最後まで必死で作り上げたという感慨があります。

(取材・文=小田慶子)
カムカムエヴリバディ

カムカムエヴリバディ

朝ドラ史上初の3人のヒロインによるハートフルコメディー。昭和・平成・令和の時代を、ラジオ英語講座と共に歩んだ祖母、母、娘3世代の女性の物語。ラジオで英語を聴き続けることで、夢への扉を開いていく姿を描く。脚本は大河ドラマ「平清盛」(2012年、NHK総合ほか)などを手掛けた藤本有紀によるオリジナル脚本。

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