ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第111回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞 受賞インタビュー

撮影=石塚雅人

松山博昭、品田俊介、相沢秀幸

菅田さんがすごかったのは、言葉の届き方(松山博昭監督)

「明暗の対比が美しい映像」や「生きているように見えた人が死んでいたなど、人間心理を計算した演出」が評価され、監督賞を受賞しました。感想を教えてください。

ありがとうございます。テレビドラマの世界でディレクターが注目されることは少ないので、選んでいただけて光栄ですし、うれしく思っております。映像を褒めていただけたのは、密室などの1シチュエーションでの展開が多かった中、セットにしてもロケにしても、どうやっていい画にするか、そして変化をつけていくかを各スタッフが考え、クオリティーを上げるために必死に頑張ってくれたおかげです。

撮影はロケが多かったのでしょうか?

メインの撮影は2020年の12月から2021年の2月まで。茨城や千葉などでロケをしました。整(菅田将暉)の部屋は外観も室内も実際にあるアパートです。警察署の外観や内部もロケ。前倒しのスケジュールだったのでスタジオが空いておらず、横浜の倉庫にセットを立てて撮った場面もありますが、セットなのに騒音はするし寒いし、キャストの皆さんは大変だったと思います。最後に第6話、第7話を撮影したときにやっとフジテレビの湾岸スタジオに入ることができ、みんなで「こんなに快適なのか」と言い合ったぐらいでしたから。


通常の連続ドラマではチーフ監督が11話中4話ほどを演出しますが、全12話中9話分(うち共同演出1話)を監督したのは、大変だったのではないですか?

通常は放送と追い掛けっこで、1話撮影したら編集に入るので、何人かのローテーションで撮らなきゃいけないんですが、今回はクランクイン前に台本が全部できていましたし、放送は1年後で編集は後回しにできたので、それだけ現場にいられました。結果、前倒しに撮影できて良かったなと…。普段は、台本を作って撮影の準備をして実際に撮影して、編集してポストプロダクション(音声処理や映像効果)をやってと、無茶なスケジュールで作っているので、その全てのプロセスにちゃんと集中できる方法でやってみると、とても効率的ですし、スタッフの働き方改革としてもこうあるべきだと思いましたね。


放送の前に全て撮り終えておく。それがドラマの作り方として理想的だということですね。

大義名分として「連続ドラマは視聴者の反応を見ながら内容を変えていくべきだ」とずっと言われてきたんですよ。しかし、実際にはバラエティー番組のような生放送ではなく、反応が出てきた頃には大半を撮り終わっているものなので、それならクランクインするときに結末までの設計図を持って入る方が圧倒的にメリットがあると思います。第3話の終わりでその後に整が経験していくことを予告編のように見せましたが、そういうこともできて宣伝もしやすいですし。


菅田将暉さんが主演男優賞を受賞しました。菅田さんの演技はいかがでしたか?

最初に原作漫画を読んだときには、ものすごい言葉の情報量だと思いました。漫画はページをめくって戻ることもできるけれど、文字のないドラマの場合、この情報量が視聴者の方に届くのかなという不安がありました。その上で菅田さんがすごかったのは、言葉の届き方。菅田さんが言葉の意味一つ一つを徹底的に考え抜き、自分の中で完全に咀嚼(そしゃく)した上で、言葉を発してくれました。菅田さんが整としてしゃべるときは言葉が完全に可視化されているから、聞く人にもその景色が浮かぶ。受ける側とのコミュニケーションが取れる言葉を発信してくれて、この難しい作品において圧倒的に助けられたなと思います。


改めて菅田さんはどんな俳優さんだと思いましたか。

俳優には、理屈を考えて論理的にお芝居する人と、理屈はめちゃくちゃだけどパッションあふれる演技をする二つのタイプの方がいますが、菅田さんはその両方を兼ね備えている珍しい人ですね。演技や作品についての理論もちゃんとしているし、本番となればパッションを持ってそれを実現できる。自分の持っている理屈に負けない強さがあるというか、右脳と左脳が両方発達していると言ったら失礼かもしれないけれど、本当になかなかいない人だと思います。


原作漫画のエピソードの順番を入れ替えた構成は、どうやって考えていきましたか?

ドラマを作るときは、大前提として可能ならばシリーズ化したいという狙いが常にあります。「ミステリと言う勿れ」は原作漫画がまだ完結していない中、今回がシーズン1になるならばどこにクライマックスを持ってこようかと話し合い、整とライカ(門脇麦)の別れをピークに持っていこうと考えました。そのときはまだ原作でもライカの秘密は明らかになっていない段階でしたが、原作者の田村由美先生に話の流れを聞き、そこからの逆算で作っていきました。


ライカとの別れが描かれた後、第11話と最終話は、我路(永山瑛太)が妹の死の真相を追うエピソードになり、主人公である整の出番が少ないという大胆な試みでした。

シリーズ構成を組み立てるときから最後は我路の話で終わろうと決めていました。我路は準主役とでも言うべき存在なので、キャスティングではとにかく“腕が立つ”方にお願いしたいと思って、瑛太さんに。僕は瑛太さんとは「ヴォイス~命なき者の声~」(2009年、フジテレビ系)などで仕事したことがあり、天才的な方であることは分かっていたので、引き受けてもらった時点で大丈夫だと。ただ、最後がスピンオフになるという相当イレギュラーな構成なので、視聴者の皆さんがどういうリアクションをするんだろうという不安はありました。最後はもう、放送してみなきゃ分からないと開き直りました(笑)。


第11話と最終話で、十斗役に北村匠海さんをキャスティングした理由は?

実写で女装して女性に見えるには原作の設定よりも少し若く、なおかつ整った顔立ちであることが必要。かつ、凶悪犯を演じているのを見たいのは誰かとキャスティング会議で話したとき、真っ先に北村匠海さんが候補に上がり、「なかなか難しい話だろうけど、お願いしてみよう」とオファーしたら、幸運にもご快諾いただけたという経緯です。ご本人も犯人役が初めてで、やってみたかったと言ってくれました。実際に撮影に入ってからも前向きで、いろいろな意見も言ってくれ、僕も演出して楽しかったですね。


松山さんがこれまでの監督作と違って新しく挑戦したこと、達成したことがあれば教えてください。

「ライアーゲーム」(2007年・2009年、フジテレビ系)や「鍵のかかった部屋」(2012年、フジテレビ系)など、これまでの演出作は密室劇が多かった。いわゆる一幕ものでセット内で撮影するという条件は今回も同じですが、一番違うのは、人物をほぼ動かさなかったこと。

セットのみの撮影ですと絵変わりしないし、人物が動かないとカット割りが単調なものになってしまうけれど、第3話で整が「日本のサスペンスドラマっていきなり刑事が歩きだしたり…」と言うセリフがありましたよね。本当にそうなんですよ。画や間を持たせるためにそうするんですけれど、原作にもあるそのセリフを使っている以上、やっちゃいかんなと(笑)。

だから、第1話の取り調べ室や第5話の病室も人物はほぼ動いてない。第5話は撮影当日まで小日向文世さんがぐるぐる動けるような仕掛けや小道具をセット内に用意したけれど、止めました。自分としては挑戦だったなと思いますが、そういったシンプルな演出が成立したのは菅田さんを始め、演者の方の言葉とお芝居が強かったからです。


世帯視聴率2桁をキープし、TVerなどでの見逃し再生回数が4000万回を超えました。これはNetflixなどの動画配信サービスでもなかなか達成できない数字ですね。

昔に比べて地上波の力は落ちたと言われますが、それでもまだ“マス”の力は大きいなというのを実感しました。これまでテレビ放送を見る層とネットを見る層は違うと言われていましたが、この作品はデータ見る限りその両方の層に届いたようで、テレビマンとしてはうれしいですね。今後もこういう届き方をするものを作っていたらいけたらいいなと素直に思います。

(取材・文=小田慶子)
ミステリと言う勿れ

ミステリと言う勿れ

田村由美の同名漫画を菅田将暉主演でドラマ化。天然パーマで、カレーを愛する大学生の久能整(菅田)が淡々と自身の見解を述べるだけで、事件の謎や人の心を解きほぐすミステリー。整は、社会で「当たり前のこと」として流されていることに常に疑問を持ち、膨大な知識と独自の価値観による持論を展開していく。

第111回ザテレビジョンドラマアカデミー賞受賞インタビュー一覧

【PR】お知らせ