ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第111回ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演男優賞 受賞インタビュー

(C)フジテレビ

菅田将暉

ここから10年、できる限り整くんを演じさせてもらえたら…

「ミステリと言う勿れ」で主演男優賞を獲得しました。感想を聞かせてください。

ありがとうございます。正直ホッとしています。ある意味、「3年A組―今から皆さんは、人質です―」(2019年、日本テレビ系)よりも大変な現場で、やはり原作のイメージが強い中で受け入れてもらえるかなというプレッシャーを感じ、第1話が放送された日は眠れなかったぐらい。ちょうど月曜はラジオの生放送もあったので余裕がなく、ラジオが終わってから見ました。
皆さんの反応はいろいろな意味で怖かったですね。撮影したのは放送の1年以上前でしたが、その間もずっと不安はありました。


撮影中に「このドラマは大丈夫だ」と思える手応えはありませんでしたか?

自分のことは客観的に見られなかったけれど、第6話で早乙女太一さんと岡山天音くんが現場入りした時は安心しました。漫画を読んで「井原香音人は早乙女太一さんがやってくれたら」という希望は話していて、もう一人の“カエル”こと下戸陸太も非常に大事な役なので、「大好きな天音がやってくれたらな」と思っていました。ビジュアルも含め、自分が考えた最高のキャスティングが具現化された瞬間だったんです。原作を膨らませていくことはやりやすく、原作をまだ読んでいない方を楽しませられるという自信がありましたが、原作ファンのためにはイメージに忠実な回があったほうがいい。それが第6、7話で初めて生まれた感じでした。


今回、投票した審査員、記者から「淡々としたたたずまいで演技の幅を見せた」「顔の筋肉を動かさないでセリフをバーっとしゃべるのがすごい」という評が寄せられました。

漫画では淡々と言葉を繰り出すんですが、それを一言一句、実写で再現しようとすると、難しい。元々演劇的な作りなので、舞台のように演じれば伝わるなとは思ったけれど、ドラマの場合アップの映像で表情が動かないとロボットみたいになっちゃって、伝わるものも伝わらない。そこをどう演じるかというのが課題でした。そんな中、原作者の田村由美先生にお会いしたら、先生の話し方が本当に整くんそのもの。先生は笑ったりはしゃいだり早口になったりもするけど、基本的には落ち着いていらっしゃるので、整くんの見え方としては淡々としていていいのかな、と。「田村先生と漫画の整くんの半分半分ぐらい」というのが演技プランになりました。


「僕は常々思うんですが」と整が理屈を語りだすところはどう演じましたか?

整くんがしゃべり出すと、不思議な空気になるんですよ。周りの人はひたすら「うんうん」と聞いていて感情を揺り動かされていく。それが続くと、整くんが神のように絶対的な存在になっちゃうので、これは違うなと…。あくまでも自然な流れで会話した中で相手にとっての気づきがあるというのを、いかにナチュラルにやっていくかというところが一番の戦いでした。だから、しゃべり出すタイミングで照明が変わったりクラシック音楽が流れたりする演出をやり過ぎるとしつこいのでは、という相談を松山博昭監督としました。


整の生い立ちはどう理解していましたか? 胸に虐待の跡のようなものがあり、「大人なんだからダンゴムシになっちゃダメだ」と言ってトラウマを抱えているような場面もありました。

実は、僕らは田村先生からまだ漫画に描かれていないことも聞いているので、自分で膨らませたというより、先生が描きたいと思っているところを教えてもらって、それとなく伏線を張っていったという感じですかね。だから、今回のドラマではそれを回収せずに終わっている。整の内面については、第5話から出てきたマルクス・アウレリウスの「自省録」が大きな手掛かりになりました。これは価値観を揺さぶられる結構怖い本で、それを一つの読み物として楽しんでいる整くんというのは末恐ろしい。「僕には絶対たどり着けない領域だな」と思いました。いや、でも本当にすごい本ですよ…。皆さんにも一度「自省録」を読んでみてほしいですね。僕はずっと家の本棚に置いておくつもりです。


印象に残っているシーンはどこですか?

1年ほどタイムラグがあったので、撮影時にはなかったものが放送時には漫画になっていて、「ああ~」と思ったことも。ドラマでは一貫して整くんは泣いてないんですよ。他人の人生とか体験について語るシーンが多い中、唯一、第10話でライカ(門脇麦)とお別れするシーンだけは自分の体験になっている。そこを演じながらすごく込み上げてくるものがあって、「これ、やばいよな」とか思いながらも、何とか我慢して終わったんです。でも、その後に発売された漫画を読むと、整くんがうるうるして自嘲気味に「ちょっと泣きそうになったんですけど」と言い、ライカと2人でフフッと笑うシーンがあり、「うわ、これやりたかったなぁ」と思いました。


整にとってライカとはどんな存在だったのでしょうか?

やっぱりライカは特別ですよね。ライカにとっても整は探していた人だし、整くんにとっても、我路くんと同レベルで大切な、本当の意味で会話ができる人なんでしょうね。この世には家族でも恋人でも男女でもないけれど大事な人っているので、きっとそういう相手。出会うべくして出会った、ある意味、ロマンチックな関係だと思います。


犬堂我路役の永山瑛太さんとは、これが初共演になりましたね。

本当に感謝しかないというか、我路が瑛太さんじゃなかったらどうなっていたかなと思うと怖いですね。ずっと見てきた先輩で、会いたかった人でもあり、整くんの我路に対する気持ちみたいな感じ。お芝居って、自分で用意しておかなきゃいけないものが多いから、撮影現場に行って相手からもらえるものがあればあるほど楽しい。瑛太さんからはたくさんのものをもらいました。僕もそうですが、撮影全体を見て「ちょっとこういうふうに変えたいんだけど」と、アイデアを出してくれる頼もしい共演者でもありました。


風呂光聖子役の伊藤沙莉さん、岡山天音さんとは11年前の月9「大切なことはすべて君が教えてくれた」(2011年、フジテレビ系)で高校のクラスメート役でした。今では皆さん、メインどころになりましたね。

そうですね。ちょっと感動しました。2人とも、あのドラマのときから目立っていたし、あいつすごいなと思い、刺激も受けていたので。11年前、高校生役のオーディションを受けたスタジオでお芝居しているとやっぱり感慨深くて、天音や伊藤さんと「当時はこんなこと言っていたけど覚えている?」というような話をしました。天音には「あのときは髪の毛が整くんみたいにモジャモジャだったけど、もうしないの?」とか(笑)。


第5話に出演した小日向文世さんがインタビューで「菅田さんは若いのに監督に意見を言っていてすごい」とコメントしていました。何を相談したのですか?

そのときは演出というより撮影の段取りについてですね。小日向さんのようにゲストで来てくださる先輩に気持ち良くお芝居してもらえるように、リクエストを出させてもらいました。本来、口を出すべきではないかもしれませんが、もしそこを演じるのが自分だったら困るよなと思うことについては…。ただ、そうするのが正解かどうかは僕もいまだに分からないんです。


今回、監督賞を松山博昭さんらが受賞しました。漫画原作ものを数多く手掛けてきた松山さんの演出はどうでしたか?

松山さんは通常のドラマではありえないぐらいの本数を演出しているので(編集部注:12話中8話分)、本当に大変だったと思います。また、現場で僕がいろいろ提案するので、面倒くさいことがいっぱいあったと思うんですけど、松山さんは前日がどんなに大変でも、今日はもう忘れているみたいな顔をしていて、その粘り強さに僕らは救われていました。また、殺人事件が起こるドラマって、ちょっとした矛盾が大問題になるし、見た人に「犯人はこっちから逃げれば良かったのに」というようにツッコまれると恥ずかしい。だから、松山さんはその裏設定をとても真剣に考えていましたね。


前回の受賞時は「大変な状況であるテレビドラマにもまだ可能性があると思った」と話してくれましたが、「ミステリと言う勿れ」は視聴率が好調で、TVerなどの見逃し視聴でも新記録を作りました。作品が成功したという手応えはありましたか?

僕は今29歳で、自分が子供の頃、テレビドラマで見ていた人たち(主演俳優たち)の年齢になっているので、勝手な使命感でどの作品でも「頑張んなきゃな」と思うし、今回もやれることはやったけれど、まだまだ先輩たちには届かないなと…。反響も大きかったし、こうやって賞も頂けたけれど、両手を広げて「やったー!」という感じではないですね。でも、放送中、映像業界の方からはたくさん連絡をいただきました。「普段あんまりドラマ見ないんだけど」みたいな方も多かったので、良かったなと思います。


どんな感想が届いていましたか?

友達のお子さんが小学校高学年で「テレビに張り付いて見ているよ」と言われました。それで、実際に会ったとき、子供たちが照れくさそうに感想を言ってくれたり、真剣にいじめについて語ってくれたり…。整くんが疑問を投げ掛ける、つまり原作の田村先生が作品に込めた問題提起が一番面白いところで、それをドラマにして多くの人に届けると、教育的な意味も出てくるというか、それは「3年A組―」も同じでしたね。僕の出る作品はやっぱりそういう方向になるのかな。整くんという存在を通して「こういう場合、どう思う?」という問い掛けをし、見る人とディスカッションできた感覚はありました。


続編が期待されています。最終話で我路から「一緒に来てくれない?」と言われ「どこへ?」と答えたラストシーンはどんな気持ちでしたか?

それはもう、続きをやるつもりでした。続ける前提で伏線を張って終わったし、僕は続けたい。もちろん、田村先生と相談しながらですけれど、まだドラマ化していない原作のエピソードが溜まったらできるのかなと…。年齢的にもとりあえず40歳ぐらいまではできるのではと思っていて、ここから10年、できる限りやらせていただけたらと勝手に考えています。

(取材・文=小田慶子)
ミステリと言う勿れ

ミステリと言う勿れ

田村由美の同名漫画を菅田将暉主演でドラマ化。天然パーマで、カレーを愛する大学生の久能整(菅田)が淡々と自身の見解を述べるだけで、事件の謎や人の心を解きほぐすミステリー。整は、社会で「当たり前のこと」として流されていることに常に疑問を持ち、膨大な知識と独自の価値観による持論を展開していく。

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