ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第111回ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞 受賞インタビュー

(C)NHK

藤本有紀

予想外の展開になって自分で驚くこともしばしばでした

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で脚本賞を受賞した感想を教えてください。

大変うれしく、ありがたく思っております。脚本そのものには反省点が多々ありますが、スタッフ・キャストの皆さんの力で完成度を高めていただきました。


本作は「ちりとてちん」(2007~2008年、NHK総合ほか)以来の連続テレビ小説ですが、前回と今回の違いはどこにありましたか? 藤本さんにとって“朝ドラ”を執筆するのはどんな経験でしょうか?

「小さな人間の大きなロマン」と私はよく表現しますが、連続テレビ小説はそれを実現できる絶好のステージです。毎朝15分の「おはなし」があり、それが週単位で展開し、さらに半年単位で大きな物語のうねりが生まれます。「ちりとてちん」を書いたことで、毎朝15分というささやかな時間の積み重ねが生み出す膨大なエネルギーを実感することができました。そして「カムカムエヴリバディ」はその上で構想することができました。

今作の題材はラジオの英語講座でした。外国語は同じ単語に、同じフレーズに、何度も繰り返し出会うことによって身に付いていきます。それと同じように、連続テレビ小説では伝えたいメッセージを何度も繰り返して、視聴者の皆さんの心の奥深くに届けることができます。こうした貴重な、特別な機会を二度も頂けたことに感謝しています。


審査員や記者から「100年にわたる物語を緻密に組み立て、散りばめた伏線をきっちり回収した構成力」が高く評価されました。脚本はどのように構成していったのでしょうか?

全てを計算し尽くして書いているわけではありません。むしろ予想外の展開になって自分で驚くこともしばしばでした。

「ラジオ英語講座はいつから存在するのか」。それがこの題材を扱うに当たってもっとも知りたかったことでした。そして「『英語講座』は、1925(大正14)年、つまり東京放送局が本放送を開始してわずか1週間後にはじまり、1941(昭和16)年12月8日、真珠湾攻撃の朝まで放送があった」という一文に出合った瞬間に、3世代、100年の物語の着想を得ました。ほぼ同時に“On The Sunny Side Of The Street”(編集部注:ルイ・アームストロングが演奏し歌った曲)を、シリーズを通したモチーフの一つとすることも決めていました。

ラジオ英語講座に加え、和菓子、野球、ジャズ、時代劇といった要素を物語に組み込むつもりであることは、かなり早い段階でスタッフの皆さんにお伝えしていました。それに反応してチーフ演出の安達もじりさんがそれらの要素を軸にした年表や資料を作ってくださり、全体を構想する上で大きな助けになりました。


3人のヒロインを始め、登場人物がみな生き生きしていて実在の人物のようだと評判でした。キャラクターはどのように作っているのでしょうか?

「登場人物設定」を箇条書きにしても、私の場合、その人物がまったく見えてきません。たとえば安子(上白石萌音)と稔(松村北斗)の往復書簡で構成した回があります。手紙の文面を書こうとすると、2人がそれぞれどんな日常を送っているのか、何を見て何を思い、どんなふうに相手に伝えようと思うのかを熟考しなくてはなりません。そうした中で少しずつキャラクターが深まっていきます。

そして、キャラクターを深めることは、同時に物語を深める作業でもあります。「安子と稔は互いに思い合っているが、双方の親に反対され一度は別れる。しかし、やがて許しを得て結婚する」と構想はしていても、なぜ、どのようにして2人が結ばれるのかは決めていませんでした。「ひさ(鷲尾真知子)が杵太郎(大和田伸也)の初七日に作ったおしるこ」を介して金太(甲本雅裕)と千吉(段田安則)が会話をし、結婚が許される展開に至って初めて「だから安子は稔への手紙の中におばあちゃんのおしるこについて書いてくれていたのだ」と私自身が気づかされる。そういう繰り返しで紡いでいきました。


最後のひなた編でひなた(川栄李奈)がマスクをしていたのが印象的でした。スタート時に考えていた構成と変更になったところはありますか?

ありますが、社会情勢を鑑みて何かを変えるということはしていません。キャラクターが育っていくうちに自然と変わります。


3代の物語だからこそ描けたことはありますか?

100年というと大河ドラマで描くよりも長いスパンですので、歴史ものを書いている感覚もありました。この物語はフィクションですが、年表の奥や隙間に見え隠れする市井の人々の暮らしや思いを描くうち、本当にこんな人たちがいたかもしれない、いるかもしれないと思えました。

安子とるい(深津絵里)とひなたの物語は、ある人にとっては「私と娘と孫の物語」で、またある人にとっては「母と私と娘の物語」で、また別のある人にとっては「祖母と母と私の物語」です。100年の歴史のどこかに自分がいて、その命、その営みは脈々と受け継がれてきたもので、これから先も続いていくもの。そういうメッセージを届けることができました。また、100年の物語だったからこそ、さまざまな時代の家族や友情や恋の形を描くことができ、そしてそれらを昭和、平成、令和を代表するすてきな役者さんたちが巧みに表現してくださいました。脚本家冥利(みょうり)に尽きる経験でした。

(取材・文=小田慶子)
カムカムエヴリバディ

カムカムエヴリバディ

朝ドラ史上初の3人のヒロインによるハートフルコメディー。昭和・平成・令和の時代を、ラジオ英語講座と共に歩んだ祖母、母、娘3世代の女性の物語。ラジオで英語を聴き続けることで、夢への扉を開いていく姿を描く。脚本は大河ドラマ「平清盛」(2012年、NHK総合ほか)などを手掛けた藤本有紀によるオリジナル脚本。

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