長年「若者のテレビ離れ」が言われ続ける一方で、最近ではTVerなど見逃し視聴が一般的になり、テレビ番組の話題がSNSでバズることもしばしば。テレビって、あらためてじっくり見たら色々おもしろい？なんと7年ぶりにテレビ番組を見るというライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載がスタートします。
なかなか名倉潤が映らない「ナニコレ珍百景」
ザテレビジョン様で連載コラムを書かせていただけるとのことで、それじゃあ何の番組を見ようかと考えたとき、居酒屋や薬局、友人の家なんかでふと目に入ってくるものじゃなく、自分の意思でテレビを見るという行為が、実に7年ぶりの実施であると気が付いた。そんなインターネット人間である私が、「ナニコレ珍百景ってまだやってんのかよ」と思わず鑑賞してしまうのも無理はない。テレビお久しぶりです。
早速TVerで5/29放送回を再生してみるとまず、オープニングというものが無くて驚く。画面の右下に『珍百景』というロゴがあるばかりで、後はひたすら視聴者から投稿された珍百景の羅列、そしてそれを受けたゲストたちのコメントに終始する。「あくまでも珍百景が主役である」という主張にも見えるようなこのストイックさ、色気のなさこそ、人気番組の貫禄といったところなのだろうか。
さらにこの番組は、名倉潤が映らない。スタジオには確かに名倉潤がいるはずなのだが、ほとんど画面に映ることはない。ワイプに現れたり、カメラがパンするときに一瞬映るくらいで、まともに名倉潤が映らない。ゲストたちと同じ列に座っている原田泰造は当然映りまくるし、堀内健は発言が多いためかそれなりに映る。しかし、名倉潤が映らない。声は聞こえているし、堀内健の隣にいることも分かる。しかし、画面に映らない。終盤、やっとアップで映ってくれたときの感動というのもひとしおであるが….。
さて珍百景の話である。気になったところで言えば1つ目の珍百景。京都府京都市左京区の狭い一角にお寺がありすぎるといった投稿で、案内看板に書かれた55軒ものお寺の名前を上からゆっくり映していくのだが、『26 忍性寺（にんしょうじ）』という表記の横に虫が止まっていた。結構硬そうな、「わっ、虫だ」という虫である。微動だにしておらず、もしかすると死んでいるのかもしれない。「わっ」という感じの虫がテレビに映った！と、自分でもよく分からない興奮に包まれながらもう一度見返してみると、それは虫ではなく、看板の傷であった。
興奮を返してくれと思いながら続けて見ていると、小学校に入学する妹のためにランドセルを作ったという兵庫県豊岡市の8歳の少年とその家族が画面に登場し、当時7歳の少年がどうして妹のランドセルを作るに至ったか、彼ら本人が自分自身を演じる再現VTRが映し出される。そのVTRでは、現在小学1年生である妹が、まだ小学校に入学していない1年前の自分を演じており、「1年生になったら何がしたい？」という父親の問いに、「ぬり絵とか、虹見れたらいいな」と返す。彼女は色の人間なのだと分かったところで登場した、兄が彼女に向けて作ったランドセルは、白に近いベージュをメインに、水色と金色の装飾が施された、上品この上ない色彩感覚を感じられる逸品であって、この兄妹の見る色というものに、大変興味が湧いたのであった。
そして番組も終盤、日本に3人しかいないと言われる職業、ウミウの捕獲に従事する茨城県日立市の男性が登場する。彼は、海上15m以上の断崖絶壁に建てられた小屋で、羽休めに来るウミウという保護鳥を、特別な認可をもって捕まえるのだが、その捕獲方法というのがやたらにアナログで興味深い。ウミウが羽休めに来るのをひたすら待ち、チャンスが訪れたら、小屋からゆっくりと棒を近づけ、足に引っかけて捕まえるのだ。その様子を、小屋の外に設置した固定カメラで映しているのだが、画面に映るのは、ウミウと棒、そして背景に広がる雄大な海だけだ。棒はゆっくりとウミウに近付いていく。これが映画やドラマだったら、その棒を操る人物の横顔が映ることもあるだろうが、ここではひたすら、ひとりでに動く棒と、野生のウミウとの心理戦が映し出される。捕獲に成功したのかどうかは是非TVerで確認していただくとして、この静かな攻防は、映像として大変魅力的なものであった。
「テレビは面白い」。元テレビっ子である自分には当たり前だった感情を懐かしく噛みしめながら鑑賞を終え、そういえば、名倉潤が画面に映りまくる番組はあるのだろうか、と検索してみると、ネプリーグが出てきて驚いた。まだやってたのか。名倉潤が見たいときはいつでもネプリーグを再生すればいいのだから、簡単な話である。
文／城戸
イラスト／犬のかがやき
この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。
