コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、自分の“やりたいこと”に自信が持てない女性の物語『クラスで2番目に絵が上手かった女の話』をピックアップ。
作者である宮繭子さんが2月19日に本作をTwitterに投稿したところ、1万以上の「いいね」が寄せられ反響を呼んだ。この記事では、宮繭子さんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについて語ってもらった。
就職のために絵の道を諦め…夢を追い続ける難しさと一歩踏み出す勇気描く
高校3年生の川崎美雪は、クラスメイトで友人の木下ユミに劣等感を抱いていた。学校内で絵の上手さを評価され常に1位を取る木下は、卒業後も絵の道に進むことを決める。一方で、いつも“2番目”の川崎は母親から美大へ進むことを強く反対される。“やりたいこと”を否定された川崎は、これから自分がどう生きるべきかわからなくなっていた。
卒業を控えた冬、“将来の夢”がテーマの作文を書けずにいた川崎は、同じクラスで野球部の夏目と教室で居残りをすることに。互いに漠然とした将来の姿についてを話していると、夏目から「俺好きだよ 川崎の絵」と言葉をかけられる。川崎は、その言葉に驚きつつも内心救われたような気持ちでいた。
卒業後それぞれが異なる道へ進む中で、やりたいことを諦めて企業に就職し事務員として働く川崎。しかし、絵から離れた“何も無い”生活を送る日々に、生きていることへの虚しさを感じていた。「辞めたい」と思う感情と現実の間で葛藤していると、ある日の夢に学生服姿の夏目が現れる。懐かしさからそのことを木下に伝える川崎。しかし、木下からは夏目が先月亡くなったことを聞かされ…。
3人の男女の人生を通して、“やりたいこと”を追い続けることの難しさと葛藤する心の内を繊細に描いた本作。Twitter上では「刺さりすぎて痛い」「涙腺にきた」「心臓を鷲掴みにされました」「めちゃくちゃ泣いた」「なんだか心が軽くなりました」「何か頑張ったことのある人の心に響く素敵な漫画」「“後悔してもいい”の言葉にすごく救われました」など、物語に共感した読者から多くのコメントが寄せられ反響を呼んでいる。
“読んだ人の行動や価値観に変化を起こせる作品”を目指して 作者・宮繭子さんが語る創作背景とこだわり
――『クラスで2番目に絵が上手かった女の話』を創作したきっかけや理由があればお教えください。
最初は漫画賞の応募用に描き始めたのですが、途中で面白いのかわからなくなってしまい、描き途中になっていた作品でした。その後、コミティアに参加することになったときに「コミティアに参加する方や、創作する方に刺さる内容にしたい」と思い、今作を完成させました。
――将来への不安や劣等感から絵を描くことを諦めてしまう川崎と、同じく将来について悩むクラスメイト・夏目、そしてクラスで絵の上手さを評価され絵の道に進んだ木下、それぞれのキャラクターに込めた思いをお教えください。
川崎は夢を追いかけることも諦めることもできずにいて苦しんでいて、そんな人は今この現実世界にもたくさんいるのではないかと思います。自分も川崎と同じ思いをした日々があったので、川崎は私のことだ、というコメントが寄せられたとき、自分と同じ人がいた!とうれしくなりました。
夏目は良くも悪くも川崎にとって呪いのような存在として描きました。「俺好きだよ/川崎の絵」という言葉がなければ、川崎はここまで引きずらなかったと思います。でもその言葉がなかったら、ベランダから這い上がることもできなかったと思います。呪いだけど最後には救いとなるように描きました。
木下は川崎とは対照的な存在として描きました。夢を追いかけることができ、川崎にとっては眩しい存在だと思います。でも木下は木下で順風満帆でハッピーなわけではなく、個展が赤字だったり、無意識に相手を傷つけて避けられてしまったり…。誰か1人が特別な存在で、何も問題がなくて、というのではなくて、必ず全員に「弱さ」があるように意識して描きました。
――宮繭子さんが本作を描く上でこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントがあればお教えください。
主人公の変化です。裏設定なのですが、川崎を「悲しい時に笑う人」として描いていました。その川崎が最後に「ちゃんと悲しい時に泣けて、うれしいときに笑うことができる」ようになっています。もしよかったらその点にも注目して読んでくれたら嬉しいです。
――本作の中で、宮繭子さんにとって特に思い入れのあるシーンやセリフはありますか?
ベランダから飛び降りるシーンとその前後が好きです。ネームではもっとコンパクトに、ページ数も少なくして画面に何コマも詰め込んでいました。近年では短い漫画が流行っているので、少しでも短くしなきゃ、と思っていたのですが、夏目を亡くした喪失感を感じてもらいたかったのと、ページ数は多くなってもいいから納得のいく作品にしようと思い、今の形になりました。こんなに長くなってしまったのに、多くの方に読んでもらえて有り難いです。
――宮繭子さんはこれまでに『苦手だった中学の親友と再会する話』や『女装が趣味のお父さんと高校野球球児の息子の話』など、“将来の夢”や“人間関係”にまつわる物語を多く描かれていますが、創作活動全般においてのこだわりや特に意識している点はありますか?
これは私の夢なのですが、「読んだ後に読んだ人の行動や価値観に変化を起こせたらいいな」と思いながら、漫画を描いています。現実的に考えて途方もなく、大それた夢だと思うのですが、少しでも読んだ方の感情やこれからの時間が、プラスの方へ作用してくれたらと思っています。難しいのは重々承知なのですが、私自身が感じた、愛する漫画家先生達が見せてくれた漫画の可能性を自分も表現できたら、と思っています。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
読んでくださって見つけてくださって自分はとても幸運だと思います。ありがとうございます。これからも片隅にいられたらうれしいです。またお会いできるように、次はもっと上手に描けるように頑張ります!