今世紀で最も成功を収めているシンガーソングライターの1人、エド・シーラン。大スターとしてではなく、そんな彼の1人の人間としての実像に迫るドキュメンタリー「エド・シーラン:THE SUM OF IT ALL」が5月3日に配信された。タイトルは簡単に言えば、「合計」という意味。これまで『+』『×』『÷』『=』といったアルバムを出してきた彼は、この自叙伝的ドキュメンタリー映像で一つの集大成に踏み切ったのであろう。(以下、ネタバレを含みます)
4部構成のドキュメンタリーに
内容は「LOVE(愛)」「LOST(喪失)」「FOCUS(焦点)」「RELEASE(解放)」の4部に分かれていて、尺はそれぞれ30分ほど。「エド・シーランの魅力はライブにあり」と考えるファンには近年のアリーナ公演の模様が(熱狂的な観客の反応込みで)楽しめるのが何よりの喜びとなるだろうし、少年時代のカラー映像が挿入されているところにも、いかにも「新時代のミュージシャン」という印象を受ける。エド・シーランは1991年生まれ。5年早く生まれていたら、こんなに豊富なフッテージが残されていただろうか。
赤毛で小柄であることは、彼にとってコンプレックスだったようだ。加えて吃音でもあったという。それはエミネムのラップをまねしていくうちに直り、圧倒的な自信のもとに、シンガーソングライターとしての活動を始めていく。他の人が1日1回ライブをやるのなら、俺は3回やる。レコード会社や業界人がチェックしに来るのを待ってなんかはいられない。SNSを駆使してどんどんこっちからアピールしようじゃないか。今となっては当たり前の現象となったバイラルヒット(SNSや口コミなどで爆発的に広まる)――エド・シーランはその重要性に着目した最も初期の存在に数えられるのかもしれない。
大成功も…好事魔多し
しかも彼は周囲にも恵まれていた。中でも、いち早く才能を後押しした「SBTV」(オンラインのR&B/ヒップホップ・プラットフォーム)の創設者であるジャマル・エドワーズとの厚い交流はこの「THE SUM OF IT ALL」のクライマックスの一つ。だが、ジャマルは2022年に早過ぎる死を遂げた。さらに最大の理解者であろう妻に腫瘍ができ、あろうことか自身は著作権侵害の件で訴えられてしまう。「夢は口にすればかなうと信じてる」と語り、順風満帆としか思えないキャリアを積み重ねてきたエド・シーランの日常に、大きな影が差した。(つい先日、エドの勝訴となった)
以上の事柄は、ドキュメンタリー収録当初には予想もしていなかったことだっただろう。「THE SUM OF IT ALL」は元来、もっとシンプルなサクセスストーリーを描いた作品になっていたはず。
それでもアーティストは創作を続けるしかない。5月5日に発売されたばかりのニューアルバム『-(サブトラクト)』の制作過程、およびその中のナンバーを中心にいち早く披露した教会コンサートの場面は、さらなる高みへと向かおうとする彼の姿をすべての視聴者に感じさせるはずだ。
「エド・シーラン:THE SUM OF IT ALL」は、ディズニープラスで配信中。
◆文=原田和典
https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/ed-sheeran-the-sum-of-it-all/
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