“キーアイテム”を巧みに生かす構成
例えば「シグナル」は長期未解決事件を追う推理サスペンスでありながら、キーアイテムを巧みに生かしたヒューマンドラマとしても胸を打つ。そのアイテムの一つが“壊れた無線機”だ。
警察のプロファイラー、パク・ヘヨン(イ・ジェフン)は、壊れた無線機から聞こえてくる声を耳にする。声の主は、15年前に失踪したイ・ジェハン刑事(チョ・ジヌン)。無線を通じてジェハンから事件の手がかりを教えられたヘヨンは、かつてジェハンの後輩で今は長期未解決チームのチーム長、チャ・スヒョン(キム・ヘス)と共に事件を解決していく。
ヘヨンとジェハンを結ぶ無線機は、壊れてもジェハンがお守り代わりに持っていたもの。ジェハンに淡い思いを抱いていた部下のスヒョンがこっそりスマイルマークのシールを貼ったそれが時を超えてヘヨンの手に渡り、3人をつないでいく。
無線機の交信の中で、ジェハンとヘヨンが共にスヒョンと顔なじみであることが分かるシーンも印象的だ。ヘヨンにとっては怖いチーム長だが、ジェハンにとっては弱くて半人前のかわいい新人。ヘヨンから「チャ・スヒョン刑事はチーム長です」と聞かされたジェハンが「チ、チーム長?あの半人前が? 車の運転もできないヤツがチーム長とは…驚いたな」と感無量で天を仰ぐ姿に、部下への愛情がにじむ。緻密に計算されたストーリーを下敷きに繰り広げられる人間ドラマが、キム・ウニ脚本の真骨頂だ。
霊を“信じない視点”が生むリアリティー
放送中の「悪鬼」でも、緻密なストーリーとリアルな人間ドラマが相乗効果を生んでいる。サニョンが1話で父から受け継いだ遺品の赤い髪飾りが、彼女を悪鬼うごめく恐ろしい世界へといざなっていく。
次々と人を死に追いやっていく悪鬼を“民俗学”の視点から追う、サニョンとヘサン。2人は、かつて地方に実在したおぞましい風習から、悪鬼になってしまった霊の正体に迫っていく。そして、オカルトを否定しあくまでも犯罪として事件を追うのがベテラン刑事ムンチュン(キム・ウォネ)と若手刑事ホンセ(ホン・ギョン)の刑事コンビだ。
霊の存在を信じない視点があることでストーリーにリアリティが生まれ、2組がそれぞれのやり方でたった一つの真実に向かっていく展開に、納得するやら驚かされるやら。7月21日(金)に配信される第9話では、その老刑事ムンチュンが悪鬼に狙われる。
「二十五、二十一」のキム・テリ、「サイコだけど大丈夫」のオ・ジョンセをはじめ、実力派俳優がそろったキャスティングも脚本の魅力を引き出す「悪鬼」は、韓国ではSBSで放送、日本ではディズニープラスのスターで独占配信中だ。
◆文=ザテレビジョンドラマ部
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