コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、塩野ネリコさんの創作漫画『天使を飼う』をピックアップ。
学校に突然“天使”が落ちてきたことから始まる物語が話題を集めている本作。7月4日に作者がX(旧Twitter)に投稿したところ、4.1万以上の「いいね」が寄せられた。この記事では塩野ネリコさんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。
落ちてきた天使の目的とは…読者の予想を裏切る展開に「胸が苦しくなる」
ある日、女子生徒たちは学校の校庭に天使が横たわっているのを見つける。物珍しそうに眺めたり、つついたりする生徒がいる中、男子生徒の浅木晴哉だけは「怪我してる?痛くない?」と天使を気遣う言葉を掛けていた。
担任からの知らせを受けて駆けつけた校長は、天使保護庁に連絡することに。しかし、天使庁の者たちは「落ちてきた意味を尊重してここに置くことをお勧めします」と言い、天使は晴哉たちの教室で飼われることになるのだった。
晴哉には長いこと入院している母親がいた。そのため、放課後は友達からの遊びの誘いも断って病院へとお見舞いに通い続け、家では母の代わりに家事をして過ごす毎日。さらに母が入院してからというもの、父は仕事がより忙しくなり晴哉と一緒に過ごす時間も減っていた。
そんな中、クラスの参観日があることを知った晴哉の母は体調が優れないながらもなんとか一時帰宅させてもらい、晴哉のクラスを訪れる。多くの父母に見守られながら晴哉たちの合唱が始まると、突如、教室の隅にいた天使の見た目が変化する。その後、誰も想像していなかった衝撃かつ恐怖の展開が待ち受けていて…。
選んだ者に“施し”を与える天使と病気の母をもつ晴哉。二人が出会ったことで起こる出来事が、作者独自の不思議な世界観で描かれている本作。読者の予想を裏切る展開と読んだあとに考察したくなるストーリーも話題を集め、X(旧Twitter)上では「すごい作品に出会った」「なんとも悲しいような、ほっとするような不思議な話」「天使とは、って色々考えさせられる」「考えると胸が苦しくなる」「残酷描写があるけど綺麗…」などのコメントが寄せられ、大きな反響を呼んでいる。
「“なにが善で、なにが悪か”はっきり答えの出ない作品にしたい」作者・塩野ネリコさんが語る創作の背景とこだわり
――『天使を飼う』はどのような発想から生まれたのでしょうか。創作のきっかけや理由があれば教えて下さい。
映画化もして一時期話題になった「豚を教室で飼って最後に食べる」という「命の教育」に着想を得ました。教室で飼うモノが異形の使者だとしたら面白いのではないかと思い、アイディアを膨らませました。
――本作をX(旧Twitter)に投稿後、4.1万を超える「いいね」が寄せられ話題となっています。今回の反響について、塩野さんの率直なご感想をお聞かせ下さい。
特殊な設定でグロテスクな表現も含まれるので、こんなに多くの方に読んでいただけるとは思いませんでした。
作中のモチーフや天使の行動について、たくさんの考察も寄せられて嬉しかったです。制作時に考えていたことよりも深く広がりのある考察もあり、「こんな風に読んでもらえたんだ」という驚きがありました。どの解釈が正解というものではないので、私の作品を通して読者の方それぞれの感想が生まれたのは本当にありがたいことだと思います。
「作品に触発されて久しぶりに絵を描いた」というコメントには、描いてよかったという気持ちでいっぱいになりました。
――本作を描く際に特にこだわった点や「ここを見てほしい」というポイントがありましたら教えてください。
「なにが善で、なにが悪か」はっきり答えのでない作品にしたいと思って描きました。
愛情深い親であっても、時に子どもを縛る枷にもなります。子どもが子どもらしく生きられないという、ヤングケアラーの問題も意識しました。天使がとった行動が本当に晴哉にとっての救済だったかどうかは、正解のない形で作品を終わらせたので、読んでくださる方のなかで思いを巡らせていただければ嬉しいです。
――本作の中で特に思い入れのあるシーンやセリフはありますか?理由やエピソードと共に教えてください。
まず、冒頭の校庭に天使が倒れているという場面のインパクトを描きたかったです。
花や虹を使った晴哉と天使の交流は、美しく可愛らしく描きたいと思いました。
天使の「変身」の場面は、それまでの雰囲気とのギャップや不気味さが出るように演出を考えるのが難しかったです。
――塩野さんは創作漫画以外にも、小説や一枚絵など独自の世界観溢れる作品を多く生み出されていますが、創作全般においてのこだわりや物語を創る際に特に意識している点がありましたら教えてください。
自分が美しいと感じ、表現したいと思ったことは、たとえ特殊で背徳的であっても作品にしたいと思っています。ひとりでも作品に心動かされる人がいれば、表現者として救われます。
『天使を飼う』ではヤングケアラーのことを描きましたが、こういった社会的な問題をどのように描いていくかは今後の課題でもあります。
幻想的で非現実的な世界観の中にも、自分が見聞きしたことや、考えたこと感じたことを注ぎ込み、血肉の通った作品にしたいと思います。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へメッセージをお願いします。
『天使を飼う』をご覧いただき本当にありがとうございました!技術を磨き表現の幅を広げ、さらに良い作品をお届けできるように頑張ります。
宣伝になってしまいますが、FANBOXで定期的に絵日記を投稿したり、SUZURIでグッズを販売も行っているので、漫画以外の活動も楽しんでいただけると嬉しいです。