コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、漫画家・ヒメミコさんによる『モンスターアンドゴースト』をピックアップ。
暴力的な青年とまったく正反対な存在の幽霊による人間愛が注目を集めた本作。作者が8月25日に本作をX(旧Twitter)に投稿したところ、10.1万件を超える「いいね」が寄せられ話題を集めた。この記事ではヒメミコさんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについて語ってもらった。
暴君と恐れられる青年を変えたのは…初めて自分を理解してくれた幽霊との純愛を描く本作
人と関わることが苦手で力も強かった青年・戸純椿(ことんつばき)はこれまで他人と暴力沙汰になることが多く、新しい高校に転校しても初日から先輩に目をつけられ喧嘩を売られるほどだった。さらには血をにじませながら教室に入ったことで、クラスメイトからは不良扱いされて距離をおかれてしまう。
いつも見た目や噂ばかりが先行し誤解を受けやすい椿が、これまでの過去を思い出し絶望しながら帰っていると、路地裏で女性が困っているのが見えた。不良たちを暴力でいなし、いつも通り不器用な人助けをした椿が家に帰ると、不思議な現象が起こる。
夜眠っている椿はいきなり誰かに襲われるような感覚を覚えた。金縛りに遭いながらも「殺しても死なねえぞ、俺は」と脅す椿だったが、そこにいたのは透き通るような美しさをした幽霊だった。椿が喧嘩をしていた路地裏で人を助けようとして殺されてしまったという幽霊・勇樹兜(ゆうきかぶと)は、本当は女性を救うために喧嘩をし、ちゃんと女性を助けた椿が格好良すぎて憑いてきたらしい。
話しているうちに同じ高校の同級生ということが分かった兜は「椿君、オレも一緒に学校行きたい!」と言い学校にまで憑いてくるようになった。人助けの方法が不器用なだけという椿の本性を理解していた兜は、椿に優しい言葉をかけ続けた。
そんなある日、椿はバスケ部の助っ人として誘われる。はじめは「こんなまともな場所は俺の居るところじゃない」と思っていた椿だったが、兜の勧めによってバスケに参加すると新しい景色が見え…。
不器用な優しさがいつも裏目に出てしまう孤独な青年・椿が自分を理解してくれる幽霊と出会い、心を溶かしていく様子を描いた本作。リアルとファンタジーを掛け合わせた美しい世界観も話題を集め、X(旧Twitter)上では「一気に惹き込まれた」「鳥肌が立ちました」「絵が綺麗でキャラが良すぎる」「久しぶりに尊いものを摂取したやばい」「世界観に引き込まれました…!」「男の色気がすごい」「最強にカッコいいな」など多くの声が寄せられ反響を呼んでいる。
こだわりは「綺麗な線を描き過ぎないこと」作者・ヒメミコさんへのインタビュー
――『モンスターアンドゴースト』はどのような発想から生まれたのでしょうか。創作のきっかけや理由があればお聞かせください。
本作は「他人に理解されないモンスターヤンキーが顔の良い高校生幽霊に理解される話」という一文を添えてSNSで一話を公開させて頂いたのですが、まず自分の得意分野として「現実に少しの奇跡がある」というお話にしようと思いました。
完全なファンタジーではなくリアリティのみのお話でもない、私達が現実を生きながらこんなことがもしも起こったらと考えられるような世界です。主人公はとにかく自分の「好き」を詰め込んだキャラクターに。私は日本の心霊現象や幽霊といったものにとても恐怖を感じていたので怖くなくなるように居てくれたらめちゃくちゃ元気が出る幽霊を相手役にしました。個人的に作者の自分自身が渇望しているテーマである程魅力的に描けると思っています。
私に今一番眩しく見えるものは「たった1人でも自分を理解しどんな時でも味方で居てくれる存在」だったのでそんな自分自身が感じている渇きを満たせる作品を描こうと思いました。闇深い発言みたいになってしまいましたが、多くの人が求めていることではないでしょうか。
――本作をX(旧Twitter)に投稿後、10.1万を超える「いいね」が寄せられ話題となっています。今回の反響について、ヒメミコさんの率直なご感想をお聞かせください。
率直に言うと「よく2ページ目をクリックしようと思ったな」です。
最初のポストへ載せる画像は1枚にしなければ表示されにくくなってしまうというXの仕様変更により最初の1ページのみで投稿しなければならなかったのですが、その1枚目がセリフも無く顔も見えない人間が血を流して路地裏で倒れている最高に不穏な絵だったからです。
要素的に苦手な方も多いのではないかという大分印象のよろしくない絵だと思います。大抵の人はSNSで流れて来た画像をパッと見てキャラの顔に惹かれたり何か興味を持てるシーンやセリフが目に入ったりして先をタップするのではないでしょうか。にも関わらず様々なジャンルを超えて本当に色々な方がその不穏の先へ進み「いいね」をしてくださったのはどうかしてるなと思っています。
アングラな作品をお好きな方がアングラな作品にいいねしたわけじゃないんです。先へ進むと少年誌や青年誌のようなテンションでハートフル青春してる漫画だからです。しかも私にとってデビュー作を初めて流す機会だったので見てもらえなきゃ大打撃の一発勝負でした。本当に命が助かりました。どうかしてくださってありがとうございます。
――本作はキャラクターの表情や感情が良く伝わる劇画調タッチの画についても読者から注目を集めています。本作を描くうえでこだわった点や意識した点があればお聞かせください。
青年誌や劇画のような絵とは本当によく言われるのですが私が愛している主人公を魅力的に描くには線が多い方がカッコ良くて、逆に幽霊の方は線を減らして綺麗目に描いています。画面によってはまた違った印象も持って頂けるのではないでしょうか。
こだわりとしては「綺麗な線を描き過ぎないこと」です。最近はデジタル技術の発達で綺麗な線をいくらでも描けてしまうので味気なくて、作家の味が残ると良いなと思って描いています。よく見ると雑な線なのになぜかまとまって上手い画面に見える、そんな味のある絵を描いていきたいです。
こだわりとしては作中の「光」や「温度」を感じて頂ける画面を作ることです。漫画は白黒というイメージがあるかと思いますが、漫画はこうという表現にとらわれず映像的な魅せ方等をしても楽しいと思っています。キャラクターたちが生きているこの世界の光や温度、空気感を感じて頂けたら嬉しいです。
――本作はヒメミコさんにとってデビュー作とのことですが、特に思い入れのあるシーンやセリフがあればお聞かせください。
それまで誤解され敬遠されてきた主人公が幽霊の影響で今までと違うことをして周囲の見る目を変えます。恐れられていた顔を隠す長い髪をあげて登校したり、バスケでダンクを決めるシーンです。
先に書かせて頂いた「渇望」が初めて潤う瞬間なので私自身とても気持ちが高揚して体温が上がる瞬間でした。又、幽霊の兜が皆に誤解されても黙っている主人公椿の代わりに言いたいことを言って本人以上に怒ってくれるシーンも好きです。
自分以上に自分のために怒ったり泣いたり喜んだりしてくれる存在がそこに居てくれたなら個人的にとても救われると思っています。
――今後の展望や目標についてお聞かせください。
この作品を満足いくまで描けたら良いなと思っています。商業の辛い所は私がどんなに楽しく描いていようと売れなければ終わる所なので。描きたいことを全部描いて最高のハッピーエンドを彼らにあげられたらと思います。
目標というか憧れや夢を言うのであれば、私1人では実現出来ないメディア化等の作品展開の機会を頂けたら嬉しいです。何せ今私が1番ハマっているのは自分の漫画なのでキャラに声が付いたり動いたりこの世にリアルな人間として爆誕したり、そんなことが実現すれば普通に一読者の推し活テンションで最高に興奮します。推しの供給が欲しいんです。自分で描くしか無いので。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
思ったより読者の皆さんの反応が熱くて面白いです。私は自分が楽しくて好きな漫画を好きなように描いているだけなのですが、狂ったように毎日作品やキャラのことをポストしてくださる方が居たり
作品について語るためだけのアカウントを作ってくださる方も居たりして驚いています。1人じゃないって楽しいですね…!一緒に楽しんでくださる方が居ると私もさらに筆が進みます。
女性だけじゃなく男性の読者さんも多く居てくださるので、ジャンルにとらわれず1話を見て面白いと思ってくださった方はぜひこれからもご一緒に楽しんで頂ければ幸いです!
作品の今後としてはこれからどんどん恋愛模様も進んで行きますし、それだけじゃなく様々な事件が起こったり人が人を変えたり、主人公の椿君にはどんどんカッコいい所を魅せて最強の男になってもらおうと思っています。
意外なことが起こることだけが漫画の面白い所ではなくて、こうなって欲しいなという期待をストレートに叶えるのも私は最高に気持ちの良い所だと思っています。作品の中で起こる奇跡が現実の皆様の希望になりますように、これからも応援よろしくお願い致します!!