10月13日(金)からリアル×オンライン一体型台湾映像フェス「TAIWAN MOVIE WEEK(台湾映像週間)」が開催されるなど、近年注目を集めている台湾映画・台湾ドラマにWEBザテレビジョンも注目。今回取り上げるのは、2022年に台湾で公開されて大ヒットし、同年7月にNetflixで配信されるや日本でも「今日の映画TOP10」でランキング1位を獲得し、非英語映画世界ランキングでもTOP10入りを果たしたホラー映画「呪詛」。「台湾の映画史上でもっとも怖い!」「見終わったのに、まだ怖い。むしろ見終えたあとの方が怖い!」と世界中を震え上がらせた。もともと続編の制作やゲーム化が取りざたされていた本作だが、8月22日に監督であるケヴィン・コーが「PCゲーム制作中」として開発段階の映像をポストしたことで、再び注目を集めた。怖いのに目が離せない、「呪詛」のストーリーと見どころの紹介、そして、本作がもたらした“恐怖”について考察する。
視聴者に感染する、"禁忌に触れてしまった恐怖"
「呪詛」は、台湾のアカデミー賞とも称される金馬奨で劇映画作品賞など13部門にノミネートされた。まさにその年の台湾映画を代表する大ヒット作なわけだが、気軽に誰にでも視聴をおすすめできる作品ではない。
主人公のルオナン(ツァイ・ガンユエン)は、かつて恋人たちと一緒に「超常現象調査隊」を名乗って動画配信チャンネルを運営していた。そして、怪奇スポットを撮影しようと踏み入れた山奥のいわくありげな村で、禁忌を犯して呪われてしまう。
もうこれだけでめちゃくちゃ怖いのだが、さらに6年後、当時お腹にいた娘のドゥオドゥオ(ホアン・シンティン)にまで呪いが降りかかったと知ったルオナンは、娘を助けようと必死で助けを求める―、というのが物語のあらすじだ。
過去と現在で時系列が行き来しながら話が進んで行くなか、ルオナンはドゥオドゥオの呪いを解くため協力をしてほしいとカメラを通じて観客にしきりに呼びかけてくる。この映画は、フィクションの物語をあたかもドキュメント映像のようなタッチで見せるモキュメンタリーというスタイルをとっていて、この映画全体を通して登場人物が撮った映像という体裁になっているのだ。
ルオナンが何度もこちらに語りかけてくる仕掛けは、本物のYouTuberの配信映像を見ているかのような錯覚と没入感を生み出す。フィクションと現実の境目があいまいに感じられていくという意味では、劇場で見るよりも自宅で1人でNetflixの配信を見るほうが、より背筋がヒヤリとするはずだ。彼女の感じる恐れや切迫感がダイレクトに伝わってきて、まるで一緒に禁足地に足を踏み入れ、禁忌に触れてしまったかのような没入感と恐怖を与えてくるのである。
ケヴィン・コー監督が「呪詛」の着想を得た“おぞましい事件”とは
「呪詛」監督のケヴィン・コー氏は、台湾の高雄市で実際に起きた怪奇事件から本作の着想を得たと明かしている。
あまりにおぞましく、いまだ謎が残る事件のため、あらましだけを説明するが、家族6人全員が神がかりを自称し、自傷をしたり、互いに暴力をふるいあった挙句、長女がろくに食事をとらなかったことを要因とする多臓器不全で死亡したという事件だ。
事件発覚当初、家族は「長女は邪霊に取りつかれて死んだ」と主張し、家のなかは赤い線香が吊るされていたり、符咒(魔除けの札のようなもの)が貼られていたりと、異様な様相だったという。くだんの家族が事件前まではごく普通の家族だったという点に、何ともいえない恐ろしさを感じる。
宗教が絡んでいるなどいくつかの共通点はあるが、「呪詛」にこの実話をもとにしたという印象はまったく感じない。あくまでも、この事件にインスパイアされただけのようだ。ただ、「下手に踏み込んで知りすぎてしまうと、恐ろしいことが起きるのでは…」と“本能が警鐘を鳴らしてくる感覚”を、「呪詛」からも高雄市の事件からも強く感じる。禁忌や怪奇には近づかず、禁忌のままにしておくべきなのだろう。