ユニークすぎる「香美マスク」もすべて、“広瀬香美ショー”に必要な演出
――番組の中では「香美マスク」のインパクトが強烈な印象でした。あのアイデアは、栗原さんと広瀬さんどちらからだったのでしょうか。
あれは僕が「やりましょう!」と言ったんですが、きっかけは広瀬さんの「とにかく歌声を重視して審査したい」という意見でした。歌声だけで決めるなら、できるだけ余計な情報はそぎ落としたいと考えて、実は応募動画も【顔出しなしでOK】という条件にしたんです。
「新時代の歌姫発掘オーディションと言っても、やっぱりルックスが大事なんでしょ」と思われる人も多いですから、あえて応募条件に「顔は映さなくていいです」と書いたんですよ。容姿は一切関係なく、年齢の上限も設けない。イギリスのスーザン・ボイルさんみたいな年齢の方が応募してくれたらいいなと考えていたので。
本番の収録では、どうやって撮影すれば良いだろう?と試行錯誤しました。僕は広瀬さんと挑戦者の間に“パーテーション”を立てる案を考えたんですけど、広瀬さんが「自分と挑戦者の間の空間を、歌声でどう響かせるか」を見極めたいという考えがあり、ボツに…。だったら、いっそのこと「マスクを付けるのが良いのでは?」と思って、広瀬香美さんの顔から型どった“香美マスク”を提案したという流れです。
挑戦者はマスクをしながら歌うことになるので、マスクの軽量化や口元のフォルムなど、実は、時間とお金をかけて研究し尽くした完成品なんですよ。でも、番組スタッフには「マスクを付けたら全員同じ顔に見えるので、映像的にもたない」とか「表情が見えないと感情移入できないので、マスクは外したほうが良い」という意見が多かったんです(笑)。
普遍的に“感性に訴える”番組は、海外でもヒットする
――栗原さんが、強く印象に残ったシーンはありますか。
広瀬さんらしい雰囲気が一番出ているのは、第1話と第2話のラストで即興でピアノを弾いているシーンです。アレこそが、広瀬香美さんだと思います。
ステージの真ん中で歌姫候補に向かってしゃべっているのは広瀬香美さんですし、挑戦者と1対1で対峙しているのも広瀬さん。挑戦者たちが帰ったあとに「なぜあの人を落としたんですか?」という質問に答えてているのも、番組終わりの「疲れたわ~!」と言ってるのも広瀬香美さんです。そんな中、番組のラストでスタッフのために「お疲れさまでした」とピアノを弾きながら歌っているシーンが一番、広瀬さんっぽくて、広瀬さんの“素顔”が見られると思っています。
テレビ番組は幅広い年齢層に観てもらうために万人向けに作ります。誰もが理解しやすいようにナレーションを入れたり、テロップを入れたり、丁寧な番組作りが必要です。ただし、この『歌姫ファイトクラブ!!』はHuluという有料サブスクでしか見ることができないオリジナルコンテンツです。「よく見ていれば、分かるはず」という大前提で、あえて“余計な説明はしない”という演出をしました。地上波の番組のように、テロップがガチャガチャ入ると、せっかく見せたい広瀬香美さんと歌姫候補の表情劇が見えなくなってしまうので、できるだけテロップは入れませんでした。コレも『¥マネーの虎』と同じ演出方針です。
僕がつねに意識して、毎回作ろうと目指している番組は、“感性”で見られる番組です。見たらなにか強烈に印象に残ったり、その後、何かしら行動を起こさせる作品。見てすぐに忘れてしまうような番組ではなく、いつまでも記憶に残る番組。一番の理想は、子どもの頃に番組を見たことがきっかけで、将来良い方向へ導くことができる、人生に影響を与えるようなコンテンツを目指しています。
番組は世界観を作ることも大事なんですけど、老若男女を問わず“感性”で見られるのが大事なんです。僕は「なんか面白いんだよね」「なんか気になるんだよね」という感覚を与えられる番組が良いものだと思っているので、つねにそういう番組を作ろうと心掛けています。
例えば、人の琴線に触れる、人間が本来持っている普遍的な欲求を満たす番組。そういう番組は日本だけでなく海外でもウケるので、どの国の人でも見たら面白いと思ってもらえる…ということを、いつも考えています。