コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回はぬじまさんの『怪異と乙女と神隠し』をピックアップ。
街にあふれる怪異や謎の数々に書店員である主人公たちが立ち向かい解決していく様を描く本作。「やわらかスピリッツ」(小学館)にて連載され、2023年7月にはコミック第6巻が発売。さらに2024年4月からはTVアニメ化も決定しSNS上でも話題に。今回は本作の数あるエピソードの中から、作者が2023年7月13日にX(旧Twitter)に投稿して5.6万以上の「いいね」が寄せられ反響を呼んだ「幼い時にだけ行けた場所がある話」(第4巻収録)を紹介する。あわせて作者・ぬじまさんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。
口下手な少女に“喋る”方法を教えてくれた店員 古書店・玉心堂の謎とは
書店員として働く小説家志望・緒川菫子(おがわすみれこ)は、自身がまだ幼かった頃、極端に口下手だったことが原因で些細な誤解を生み友達とケンカをしてしまう。否定も謝罪もできずに黙り込んだ菫子は、涙を目いっぱい溜めると友達を手で突き飛ばし、その場から逃げ出す。走っている最中、ふとフェンスに穴を見つけて瞬時にそこを通り抜け、追ってくる友達をかわす菫子。塀を伝って渡り、細い裏道から出ると、そこには“玉心堂書店”と看板を掲げた一軒の古書店があった。
扉を開き中に入った菫子は、膨大な数の本に圧倒される。すると謎めいた雰囲気の女性店員が「早く扉を閉めな」「本に日差しは大敵なんだよお嬢ちゃん」と声を掛けてくる。慌てて扉を閉め、ずらりと並べられた本を眺めていると、先ほどの店員がグス、グスと泣く声を耳にする。大人が泣く姿を不思議に思う菫子に、店員は読み終わった本を手渡すと「奥のスペースで読んでみなよ」と言う。本なんて退屈するだけなのに…と乗り気じゃなかった菫子だったが、読み始めるとすぐに没頭し、あっという間に時間が過ぎていた。
読みかけの本を借りて帰った菫子は、次の日も玉心堂を訪れた。読み終わった本を返却し、別の本を手にすると何時間も読みふける毎日。言葉に浸り、文章に溺れることに夢中になっていたその姿を見て、店員は「もう大丈夫そうだね」と呟く。そして菫子がうまく喋れるようになる方法として、頭の中に原稿用紙を広げて言葉を並べてから読めばいい、と教えてくれるのだった。
彼女の助言どおりに実行した菫子はケンカしていた友人と喋れるようになり、翌日、お礼のため再度書店へと向かうことに。しかし、その日から20年経った現在に至るまで、菫子は書店に続く道を一度も見つけられなくなってしまった上、そこで読んだ本のタイトルも全て忘れてしまっていた。そんな玉心堂や謎の書店員の話を聞いた菫子の同僚・化野蓮(あだしのれん)は、ある逸話を思い出し…。
菫子が幼い時にだけ行けた不思議な書店のエピソードを描いた物語に、X(旧Twitter)上では「なかなか出会えない、不思議であったかい物語」「すっかり引き込まれた」「知らない場所を見つけた時のワクワクを思い出した」「古本屋さんの匂いがするような良いお話」「程よい怪異と気持ちの良いストーリーと謎が解ける爽快さ」「本屋行きたくなってきたなぁ」など多くのコメントが寄せられ、話題を集めている。
「古書店特有の魅力を感じてもらえたら」作者・ぬじまさんが語る創作の背景とこだわり
――4巻に収録されている『幼い時にだけ行けた場所がある話』を描いたきっかけや理由があれば教えてください。
「そろそろ短い話をやりたいですね」という事になり、捻り出した話だったと思います。
緒川菫子は比較的饒舌で言葉遣いに癖のあるキャラなのですが、その口調に抵抗感があるという感想も結構頂いていました。なので喋り方にも由来や理由があるんだと伝えられれば、もう少しキャラクターを受け入れてもらいやすくなるかと思い、菫子の幼少期を描くことにしました。
既存の作品にも男性的な文語調で喋る女性キャラは割と多く、元来そんなキャラが大好きだったので文語調女性キャラがなんでそんな喋り方なのか、もう少し現実的に納得できるラインに着地させて普及したいという願望の産物です。
なんか低俗なきっかけで申し訳ありません。
――本作をX(旧Twitter)に投稿後、5.6万以上の“いいね”が寄せられ話題を集めています。今回の反響について、ぬじまさんの率直なご感想をお聞かせ下さい。
よもやここまで多くの人に読んで頂けるとは思っておらず、大変感謝しつつも同時に驚いています。割合としては感謝1:驚き4ぐらいでしょうか。ちょうど美味しいハイボールの黄金比ぐらいですね。
頂いた中で多かったのは「語彙力・言葉を増やすためにも、やっぱり読書って大事だよね」という読書好きの方々からの感想で、同好の士から賛同が得られたのは素直に嬉しかったです。加えて「自分も会話する時に頭の中で文章を書いている」という方が結構な数居られて、「自分だけじゃなかったんだと知れて嬉しかった」と言って頂けた際には描いて良かったと痛感しました。
そんな中でも特に印象に残ったのが「現在進行形で上手く喋れず苦労している。今からでも菫子のように変われるだろうか」という感想で、「きっと変われると思いますよ」とお返事したのですが、果たしてどうなったのか。良い方向に転がっていると良いなぁ。
――菫子の幼少期の不思議な体験を描いた本作では、玉心堂の存在や“書籍姫”の逸話がとても興味深かったです。本作を描く際にこだわった点や「ここを見てほしい」というポイントがありましたら教えて下さい。
作中のように、本が所狭しとみっちみちに積まれている古書店特有の魅力というか魔力のようなものってありますよね。匂いや薄暗さ、独特な狭さ、奇妙な静けさ。居心地の良さ。
そんな古書店の魅力が感じられたら良いなと思い描いていました。多分読んだ方のそれぞれに、似たような思い出の古書店みたいなものがあると思うので、自分の中の玉心堂はあそこかな?なんて思いながら読んで頂けると嬉しいです。
――登場人物の繊細な表情描写をはじめ、大量に並べられた本などシーンごとの背景の緻密な描き込みも印象的です。ぬじまさんが作画の際にこだわっている点や特に意識していることはありますか?
細部までじっくり見られると雑なのがバレるため、細部まで意識が向かないでくれるよう毎回祈りながら描いています。
人物の作画だけでいうと、キャラクターがそれぞれ別人であると感じられるように体格や肉付き、目の描き方などに差異をつけて描き分けるようにしています。理想としては、目や足元、手だけみたいに体のパーツだけの描写ですぐに誰か分かってもらえるぐらいになると良いなと思ってやっているのですが、なかなか難しいです。
また純粋な作画ともまた少し違うんですが、コマの枠線の描き方やコマの外の余白。フキダシ、ページのめくりみたいな、マンガの機能自体を利用したギミックが見つけられないかなと模索しています。
――コミック第6巻が発売され、2024年4月からのTVアニメ化も決定した『怪異と乙女と神隠し』ですが、あらためて本作の見どころを教えていただけますか。
オカルト系の作品の割にあまり直接的に幽霊や怪物のようなものは出ないので、怖がりな人でも安心して見られるかと思います。また他作品ではあまり取り上げられないような、マイナーでニッチな伝承や怪異がちょくちょく出てくるのでその手の話が好きな方も楽しんで頂けるかと思います。
あとキャラ同士の何気ないシーンでの掛け合いこそ一番気合入れて描いてるといっても過言では無いので、何気ないシーンを楽しんで頂けたら幸いです。
今後の展望としては、また趣味丸出しのキャラを色々出して、似たような性癖の人をニヤリとさせられたら良いなと思っています。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へメッセージをお願いします。
ストーリーをちゃんと見せる連載は初めてなので、とにかく話をちゃんと全うして完結出来るよう頑張ります。
今後も適度にキャラに酷い目に合ってもらいつつ、幸せな結末に辿り着けるよう見守っていただけると嬉しいです。