多彩な役を見事に表現する実力派
類まれな演技力は、その後、多くの作品で発揮されていく。
4人のアフリカ系アメリカ人の女性が人生を見つめていく姿を描いた「ため息つかせて」(1995年)では、ホイットニー・ヒューストン演じる主人公の親友で、11年連れ添った夫から突然離婚を切り出される女性。話を聞いた直後、夫の私物を車に詰め込んで火をつけるというなかなかのワイルドさに驚かされるが、青天の霹靂ともいうべき出来事への不安感がにじんでいて、やがて1人の男性との出会いで変化していく様子を緩急ある演技で見せる。
ほか、映画だとメリル・ストリープと共演した「ミュージック・オブ・ハート」(2000年)で荒れた小学校の校長、「ミッション:インポッシブル フォールアウト」(2018年)でのCIA長官など。ドラマでは、3作目からレギュラー出演するアンソロジーシリーズ「アメリカン・ホラー・ストーリー」では、魔女の宿敵でブードゥー教の女司祭に扮(ふん)したシーズン3の「魔女団」(2013-2014年)と乳房が3つある両性具有の役だったシーズン4の「怪奇劇場」(2014-2015年)では優れたドラマに与えられる「プライムタイム・エミー賞」(リミテッド・シリーズ/テレビ映画)の助演女優賞候補にもなっている。
ヒューマンものから怪奇ものまで実にさまざまな役を表現する中で、印象に残るのがバセットのまなざしだ。時に怪しさを、またある時は高貴さや優しさ、はかなさを。役によってさまざまな表情をまなざしに宿している。
最近では、映画「ブラックパンサー」(2018年)の続編「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」(2022年)で先代国王の妻で、息子の死後に王座を継いだラモンダの心情が現われた瞳に引き付けられた。国を率いる使命を果たしつつも、娘がさらわれて「私は家族を全員なくした」と痛切な叫びを含めた演説は、瞳とせりふ回しにより痛いほどにその思いが伝わって来た。
同作で「第80回ゴールデングローブ賞」最優秀助演女優賞を獲得し、アカデミー賞助演女優賞も続くかと期待されたが、こちらは受賞ならず、ファンの間で落胆が広がった。
ただ、2024年1月に授賞式が開かれた、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーによる第14回ガバナーズ賞で栄誉あるアカデミー賞名誉賞に輝き、その実力が認められた。
強き警察官を演じるドラマの新シーズンがスタート
気高い女王に続いて、日本でバセットの演技を堪能できる新作がドラマ「9-1-1 LA救命最前線」だ。1998年にスタートしたシーズン1からバセットは主要キャラであるロサンゼルス市警の巡査部長アシーナ役で出演。
市民などから緊急通報ダイヤル「911」に寄せられた情報をもとに、事件や事故の現場にいち早く駆け付ける。事故で混乱する現場にいる人々を誘導し、事件を起こした犯人と対峙(たいじ)する。アシーナの優しさと強さを、バセットはまた瞳に宿す。市民だったら頼りたくなる雰囲気は、まさに当たり役だ。
6月5日から始まったシーズン7では、アシーナが結婚4年目を迎えた夫で、ロサンゼルス消防118分署の隊長ボビー(ピーター・クラウス)と新婚旅行として乗った豪華客船でテロに巻き込まれてしまうことに。ハラハラドキドキする展開の中で、実は子どものときからのトラウマが発覚するなど、アシーナの強さだけじゃない、人間味ある一面も浮かび上がらせている。
この時代、年齢や見た目のことを言うのはナンセンスだと承知の上で65歳とは思えないバセット。アクションもまだまだ期待できそうで、さらなる活躍が望めるはずだ。
「9-1-1 LA救命最前線」は、ディズニープラスのスターで全シリーズ配信中。独占配信中のシーズン7は、毎週水曜に1話ずつ最新話を更新(全10話)。
◆文=ザテレビジョンドラマ部
https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/9-1-1/
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https://www.disneyplus.com/ja-jp/movies/black-panther-wakanda-forever/
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