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【連載】三浦瑠麗が「夫婦」のあり方について問う新連載「男と女のあいだ」がスタート #1 夫婦は何のためにあったのか

2024/07/31 18:00


結婚についてはこれまでいろいろな所で語ってきたし、考えてきた。だがその多くは、結婚生活を通じて考えた「後付け」である。22歳で結婚したわたしに経験値があったわけでもなければ、深い考えもない。ただ親を見ていて、結婚というのは相手に尽くすことであり、子どもが生まれればその子に尽くすことであるという漠然とした考えはあった。そのかわり、親からの独立と自由が手にできるのだと。
若くして結婚するというのは、魔除けにもなった。面倒くさい事態に巻き込まれないこと。誤解されないこと。そう考えてみると、たしかにわたしの結婚には自衛の意味が大きかったような気がする。親に頼らず自分で奨学金を借りて留年したうえで、好きな大学院に進むこと。異性に煩わされないこと。そのときのわたしはというと、未ださまざまな後遺症を抱えていた。思春期特有の母親への感情的な依存、性被害をめぐるトラウマ、そこからくるしばしば衝動的な行動。その意味で、夫はわたしにとって安全な波止場であると感じたのかもしれない。

そして21年が過ぎた。そのあいだにさまざまな楽しみを共にし、支え支えられ、子どもを二人生んで一人を育てた。その子がわたしの人生の意味の大半を占めている。子の父親である以上、この人を選んだ後悔というものはない。わたしのことが好きなのだということに疑いはなかったし、妬み嫉みなどで足を引っ張ることもなかった。むしろ仕事を積極的に応援してくれたことを感謝している。趣味が家庭的なわたしにとって家事は苦ではなかったし、ちょっとした話し相手としてもいい人だ。ただ、目の前に要求を抱えている人がいると、わたしはどうしてもそこに応えようとしてしまう。



わたしは人生ではじめて、親とも夫とも離れて1年以上を暮らしたのだった。途中、わたしの妹が加わっていた時期もあった。女性だけの生活というものをはじめて経験した。こういうものなのか、とわたしは思った。なんと譲り合いと思いやりに満ちていることだろう。5人を産み育てた実家の母の教育だけでなく、わたし自身が年の離れた妹のことも娘のことも、そのように育てたのだった。わたしが育った家では、誰かが立ち働いているときに進んで腰を浮かして手伝おうとしない人はほとんどいなかった。

束縛するというのではない。もちろん世間にはつれあいを束縛する男性もたくさんいるだろう。けれども、元夫はさほど強い束縛をしなかった。会食に出ていこうが、異性と二人で飲みに行こうが自由だったし、わたしもそれを当たり前のものと思っていた。わたしも相手の行動を束縛しようとは思っていなかった。ただ、そのかわりもっと大きな前提が彼の中にあったのだということには気づかなかった。
それをわたしは、わたしの人格に対する、あるいは判断力に寄せられた人間としての信頼そのものだと解釈していたのだが、それだけではなくて彼はわたしを自分の肌身の延長線上にあるものと思っていたのだろう。信頼という価値判断も介在はしていようが、単に自分の一部である、という。わたしの愚かしさは愛情ゆえでもある。事件とは直接関係なくとも、甘やかしたことが良くなかったのかもしれないとも思った。妻を自分のものであると思いすぎて、自分とは異なる人格をもつ人間として見られない人にしてしまったのではないか、と。

逆に、わたしは彼を自分の一部だと思っていたのか。そんなはずはなかった。むしろ男性というのはわたしにとって理解しがたい他者であり、何くれとなく満たしてあげる対象であった。自分の一部に尽くすことはしない。それこそが、別居して気づいたものの見方の違いであった。

三浦氏が子どもと飲んだというレモンジュース
三浦氏が子どもと飲んだというレモンジュース本人提供写真
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三浦瑠麗
1980年、神奈川県茅ヶ崎生まれ。山猫総合研究所代表。東京大学農学部卒業後、同公共政策大学院及び同大学院法学政治学研究科修了。博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て現職。主著に『シビリアンの戦争』『21世紀の戦争と平和』『孤独の意味も、女であることの味わいも』などがある。2017(平成29)年、正論新風賞受賞。

X(旧Twitter):https://x.com/lullymiura
Instagram:https://www.instagram.com/lullymiura

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