「刺さる人にはとことん刺さるものを作ろう」と完成したドラマ
――本作は、完全オリジナル作品ということですが、そもそもどのような経緯で誕生したのでしょうか?
大野:黒岩さんとお会いしたときに黒岩さんから「“全領域異常解決室”っていう組織がアメリカにあるんですけど、知ってます?」という話になったんです。
黒岩:2年前ぐらいに、「アメリカで未確認飛行物体(UFO)とかの異常現象に対応する組織を政府として立ち上げます」という記事を見て、面白そうだなと思ってたんです。「これをパッケージでやれないでしょうか?」と相談したときに、「いや、でも、神様の話もありますよね?」ってなって、「じゃあ、それ一緒にしちゃいますか」となって、なんとなくの塊が出来上がったのが始まりでした。
さかのぼると、 数年前に僕は伊勢詣をしたんです。そのときに、外宮から内宮までタクシーに乗せていただいたんですけど、その運転手さんが「途中に猿田彦神社があるからぜひ行ってください。そこに奥様の天宇受売命が祀られている佐瑠女神社というのがあるのですが、芸能の神様なんです」って言われたので、じゃあぜひって。
その神社で、いろいろなお話を聞いて、日本神話って昔からなんとなく知っているけど、深くは知らないなと。そこをちゃんとアカデミックにドラマでやるのはどうかと。最近、僕はテレビはアカデミックさが重要なような気がしていて。お勉強って言ってしまうと少しハードルが高いですが、そういう日本神話をモチーフにした学びがあるエンターテイメントを作ったら面白いんじゃないかと思ったんです。
今回の脚本のお話を最初にいただいたときに、「せっかくだったらあまり見たことがないドラマを作りたいですよね」と言ったら、フジテレビの方から「小野篁(おののたかむら)っていう神様になった人間がいるの知ってます?」って返ってきたんです。その小野篁がお祀りされている小野照崎神社というところがあるのですが、実は僕が毎年欠かさず参拝している神社で、奇遇だし縁を感じました。「では、僕も神様は面白いと思っていたので神様と神社でやりましょうか」という前段があったんですよね。
大野:そのため“神話”と“異常な現象”という、2つの莫大なリサーチが必要でした。
黒岩:最初から神様の話ですというのもできますが、中盤の第5話あたりからそういう話に持っていこうと計画しました。2012年に「O-PARTS~オーパーツ~」(フジテレビ系)というSFチックな4夜連続ドラマを深夜枠でやったんですよ。観てくださった方からの反応はすごく良かったのですが、やはり観客を選ぶんですよね。
そのときに、民放の地上波でオカルトをやることの限界と少し怖さを感じて。だから、「全決」は序盤は老若男女誰もが入りやすいパッケージにしておいた方が間口は広がるのかなと。その考え方で、1話完結型の事件ものにして、そこから神話に入っていくという構成になりました。
――広瀬さんの小夢役が、視聴者との橋渡しの役だとばかり思っていたら、まさかの神様(天宇受売命)かつ“全決”の室長だったことに驚きました。
黒岩:そこまで付き合ってくださった視聴者の皆さんには、「なんとなくおかしい」という違和感を抱かせておいて、それを第5話でひっくり返す。世界を反転させる。そうした方がいきなり1話で神を出すよりも、そこまでついてきてくれた視聴者の皆さんが、その後も最後まで同じ列車に乗り続けてくれる可能性が高いのではないかということで、こういう構成を選びました。ちょっとテクニック論になっちゃって…全然クリエイティブじゃないですね(笑)。
大野:打ち出し方に関しては、本当にすごくギリギリまで悩んで精査しました。第1話から神様って言ってしまったら、視聴してくださった方々が離れていってしまうんじゃないかという不安ももちろんありましたし、ファンタジーを地上波のドラマで描くことの難しさもあって。そこでまずは事件解決をエンタメとして楽しんでいただいて、その先にこんな奥行きがあったんだと知っていただいた方が、視聴者の方には2度楽しんでいただけるのではないかという結論に至りました。中盤からのゲームチェンジという意味でも大事だなと。
――一方でオカルトを期待して観始めた視聴者には、第5話まで引っ張るというのは結構長いようにも感じますが…。
黒岩:最初からオカルトを求めている視聴者の方もいらっしゃるのは分かっていたので、そういう方にはもの足りない部分はあったと思います。そこもあったので、オカルト要素も匂わせつつ、第5話まで展開していきました。 あとこの構成は、配信の存在も大きくて、最初からまた見直せるからっていうのもありますね。全体的にテレビは視聴率が取れなくなってきているので、いかに話題性を作るかも大事で。
だから、ドラマとして深さを求めるか広さを求めるかで、今回は深さでいこう、刺さる人にはとことん刺さるものを作ろうと。その考え方がみんなの共通にありました。オカルト要素を少しでも期待してくださっていた視聴者の方々には、第5話から待ちに待った展開になっているのではないかなと。1話だけで感動する物語ではないけど、長期的に見て楽しめる作りを選択しました。
大野:ある種、今回は連ドラだからこそ描けた作品だと思っています。SNSを筆頭にショートコンテンツが流行っている今、皆さんの日々の大事な時間を割いて見ていただくということは、とても貴重でありハードルが高いとも思っています。でも、この作品だったら回を追うごとにより楽しんでいただけるものになるのかなと。そういう点で、全10話の連ドラで描くからこそ意味のある作品になっているのではないかと感じています。
TCエンタテインメント
発売日: 2024/02/07