映画好きで知られるお笑い芸人・加藤浩次と映画ライターのよしひろまさみちが、1本の映画をじっくり語り合う「加藤浩次とよしひろのサンデーシネマ」（毎週日曜朝10:30-昼1:25、BS10）。7月20日(日)の放送では、1996年公開のパニック・スペクタクル超大作「ツイスター」が特集される。竜巻をテーマにした本作の裏には、数々の知られるエピソードがあった。予想外の制作秘話や今だからこそ響くCG論まで、映画の裏側に迫る濃密なトークが展開される。
竜巻を本物に見せる執念と、その先にある“伝わるかどうか”の本質
「ツイスター」製作の発端は、なんと災害研究のために作られた竜巻シミュレーション映像だった。これを目にしたスティーブン・スピルバーグが映画化に乗り出したという背景に、加藤は驚きの声を上げる。製作を支えたのは、「スター・ウォーズ」などを手がけた特殊効果および視覚効果の制作会社「ILM(インダストリアル・ライト＆マジック)」だ。
竜巻のシーンでは、風や煙、破片といった微細な粒子をCGで緻密に描写。当初は150カット程度の撮影予定だったが、悪天候の影響で多くのシーンが合成対応となったため最終的に300カットの撮影を要することに。制作費も9000万ドル超にまで膨張することになったものの、加藤も「そうなりますよね。これは仕方ない」と映像のクオリティーと費用感に納得の表情を見せた。
本作の中でも特に印象的なのは、竜巻に“牛”が巻き上げられるシーンだろう。実はこの映像、前年公開の「ジュマンジ」で使われたシマウマのカットを編集して再利用したものなのだとか。意外な事実に、加藤からは思わずといったようすで大きな笑い声が。CGの進化だけでなく、既存映像の巧みな使いまわしも製作の妙だと実感させられる。
また強風の再現シーンでは扇風機だけでは迫力が出ず、なんとジェットエンジンを使用。「音がうるさかっただろうな」という加藤の言葉通り、音を消す編集作業にも多くの時間とコストがかかったと言われている。そうした技術の積み重ねこそが、映像のリアリティに繋がっているのだろう。
加藤は「ここまで頑張って作っているというか、もういろんなことを駆使してやっているから、なんかリアリティーとか…なんかこう、“乾いたもの”じゃないというか。不思議なんだよね」と、同作の撮影手法についてしみじみ語った。技術が進化した今こそ、物理的な工夫がもたらす“温度感”こそが視聴者の心に届くのかもしれない。
さらに加藤はもう一歩踏み込み、“制作側の自己満足”の境界について話す。巨額の費用をかけてCGに頼らない実物のセットを作り上げたとしても、視聴者に伝わらなければ自己満足に終わってしまう。アナログでなければ表現できないことはたしかにあるが、CGで実現できることとの“違い”が見る人に伝わらなければ意味はないのだ。
“視聴者に制作側の熱意が伝わる境界線が変わってきているように感じる”とこぼした加藤。これを受けてよしひろは「そこをクリアするための条件は、とにかくシナリオが良くないとダメっていうことです」と指摘する。
CGやAIなどが進化し続けている昨今だが、必ずしも最新技術に頼るだけでは視聴者の心に響くとは限らない。アナログに頼らざるを得なかった時代の「ツイスター」だが、今回議題に上がったCGと実物セットの境界を味わえる作品でもある。今こそ見直す価値が生まれてきた、映画づくりにおける熱意と執念がにじみ出る90年代の名作。次回の「とよしひろのサンデーシネマ」でも、名作に隠された裏側から新たな発見が得られそうだ。
「ツイスター」あらすじ
幼い頃、竜巻に父親の命を奪われたジョー。成長して竜巻観測の専門家となった彼女のもとに、離婚届のサインをもらうため、夫ビルが新しい恋人とともにやって来た。かつてジョーと同じ観測チームにいたビルは、竜巻観測機“ドロシー”を見て心を揺さぶられる。それは彼自身が考案した機械で、彼がチームを抜けた後、残されたメンバーが完成させたものだった。そんな時、竜巻が発生したという情報が入る…。
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