
蔦重の伝言を聞いた定信は、一人泣き崩れる…
「豆腐」が意味することをにわかに理解できない定信に、信義は蔦重の言葉を伝える。
「御公儀をたばかったことに、倉橋格としては腹を切って詫びるべきと、恋川春町としては死してなお世を笑わすべきと考えたのではないかと」。
蔦重の言葉はまだ続いた。
「一人の至極真面目な男が、武家として、戯作者としての“分”をそれぞれわきまえ、全うしたのではないかと、越中守様(※定信のこと)にお伝えいただきたい。そして、戯ければ腹を切らねばならぬ世とは、いったい誰を幸せにするのか、学もない本屋風情には分かりかねる――と、そう申しておりました」と信義。
信義を帰したあと、定信は布団が積み重ねられた納戸に1人入った。そして、倒れこむように布団に顔を突っ伏し、絶叫ともいえる声を上げて泣いた。
黄表紙好きの定信は、中でも春町ひいきだったと前回明かされていた。現代でいう“推し”だったのだ。図らずも自分が“推し”を死へと追い詰めてしまった。その胸中はいかばかりか。定信の慟哭が胸に迫る。
定信を演じる井上祐貴は、一人泣き崩れたシーンについて「定信にとっての恋川春町、その黄表紙というのは、自分の世界を広げてくれた存在。そんな大切な存在を自分の政策によって命まで絶たせてしまった。定信からすると、とても複雑で、僕には想像もできないようなことがたくさん頭の中を掛け巡ったシーンなのかなと思いました」とコメント。
視聴者からも「望んだわけではない結末」「定信は推しを自分の振り上げたこぶしによって亡くしてしまった」「声を漏らさぬよう、布団に突っ伏して泣くの。つらい」「自責の念に駆られてる姿は、本当に見ていてツラすぎるうぅ~」「もしかしたら、定信さまもただ恋川春町先生に会いたかっただけっていうこともあるかもしれないなあ…」などの声が上がった。
その中には「この松平定信、初めて好きな松平定信かもしれん」というものもあった。定信は世の中を良い方向にと思ってさまざまな策を練っているのは確かなこと。春町は”クソ真面目”と言われたが、定信もまた同じかもしれない。ただ、それが今回は悲劇を招いてしまった。もしも、春町が定信を皮肉った作品に込めた「躍起になって己の思うとおりにせずとも良いのではないか。少し肩の力を抜いてはいかがか」という思いが届いていたとしたら、何かが変わったかもしれない。そんなことも思わせる、人間味あふれる定信を井上が好演している。
◆文=ザテレビジョンドラマ部

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