漫画家・ちくまサラさんは育児漫画やエッセイ漫画をSNSやブログで発信している。実体験を元に描かれた『10歳で性被害にあいました 誰にも相談できない』は「小学生の性被害」の実態がリアル描かれ、読者から「夢中で読んだ」「いろいろな視点からの気付きがあった」などの声が寄せられた。今回は、性被害にあった子どもと母の関係性について、作品に込めた想いを作者に聞いた。
※本作にはセンシティブな表現があります。閲覧には十分ご注意ください。
上級生からの性被害がエスカレート「誰にも相談できない」と一人で悩みを抱える娘
餡藤みどりは、単身赴任中の夫と小学4年生の娘・なるみの3人家族。なるみは気が弱く繊細だが、真面目で優しい子に育ち、みどりは自分たちは平穏な生活を送っていると感じていた。
5か月前、なるみは学校で放送委員会に参加することになる。頼もしい上級生に憧れて「私も早く放送できるようになりたい」と胸を高鳴らせ、活動の様子を母に報告していた。
ある日、6年1組の担任の先生に「放送当番、討田くんと一緒でしょ？大丈夫？」と声をかけられる。なるみはそのとき意味がわからず「大丈夫です」と答えたが、後になって先生の言葉の意味を理解する。6年生の討田ゲンシは、たびたび性的な発言や行動を繰り返す問題児だったのだ。
性的な言葉をヘッドフォンで下級生の女子に聞かせ復唱させようとしたり、体を触ったり――。同じ6年生の委員長が注意しても体が大きいゲンシを止められず、放送室は次第にゲンシの独壇場となっていった。
なるみは、放送委員会での出来事を誰かに相談したいと思ったが、学校でも家でも性教育を受けていなかったため、誰にどう話せばよいのか分からず悩んでいた。さらに、以前母に体の変化について相談をした際に笑い飛ばされた経験があり、打ち明けることをためらってしまった。
そんなある日、放送室でなるみとゲンシは二人きりになり、事件が起こるーー。
「子を思う行動が傷つけてしまうことも」著者が語る、母娘関係に込めた思い
自分の子どもが性被害にあったとき、どう行動していいか悩む人も多いのではないだろうか。著者のちくまサラさんに作品の中で描かれた母娘の関係性、母・みどりのとった行動について話を聞くと「子のためを思ってしたことが、その子にとってはNG行動だった…という経験は、子供に関わっていると大なり小なり経験します。今回は『繊細な子と大雑把な親』というパターンで描きましたが、全ての親子関係で起こりうることだと思っています。子と向き合う時は、自分の感覚やものさしだけで子を見ていないか？ 子の気持ちを十分に理解できているか？ と立ち止まることが大切だと自戒をこめて描きました」と語ってくれた。
本作で最も印象に残っているエピソードについては、「性被害の事件ももちろん大事ですが、個人的には親子の関係も大事」と話す。特に、『子ども視点で見た親』と『親視点で見た親』の違いは、自身が親になっていなければ描けなかったという。
「なるみが母・みどりに対して思っていたことや執着を、最後に手放せたのは、私にとってとても大切なシーンです」とちくまさんが語るラストシーンは必見だ。性被害をきっかけに、母の愛情を感じながらも、その行動をどうしても許せない娘。そして、娘のためを思っての行動が傷つける結果となり、寄り添うことができなかったと悔やむ母。複雑に交差する親子の感情がどのような結末を迎えるのか、ぜひ最後まで見届けてほしい。
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