有馬記念でメイショウタバルが背負う亡きオーナー・松本好雄の遺言、ドバイ参戦の裏話も…武豊、石橋守らチーム・タバルが語る人馬の奇跡

バラエティーレビュー

2025/12/17 08:00

メイショウのオーナー・松本好雄氏を振り返る「船越英一郎の昭和再生ファクトリー」が12月18日(木)にBS12で放送※提供写真

2025年8月29日、メイショウのオーナーで知られる馬主・松本好雄氏が逝去した。6月にメイショウタバルが宝塚記念を制してから2か月後の出来事だった。12月18日(木)放送の「船越英一郎の昭和再生ファクトリー」(毎週木曜夜9:00-9:55、BS12 トゥエルビ[BS222ch]※全国無料)では、この宝塚記念勝利の裏側にあった松本氏の生産者への思い、人馬の物語に密着。武豊騎手、石橋守調教師、三嶋牧場関係者へのインタビューなどのほか、競馬ファン撮影の秘蔵映像も公開される。WEBザテレビジョンではこの放送回の見どころを紹介する。

石橋厩舎で語られる、繊細な馬だったというタバルの2歳時

同番組では2024年3月、昭和の苦労人騎手・石橋守と雑草馬・メイショウサムソンとの出会いから日本ダービーでの勝利、馬主・松本氏の思いと武豊騎手への乗り替わりエピソードなど、当事者のインタビューを交えた「人と馬の縁」を放送した。今回はその人馬がつないだ奇跡の物語の続編となる。

タバルを預かるのは、かつてメイショウサムソンで悲願のGIジョッキーとなった石橋守騎手が開業した、石橋厩舎だ。騎手引退後、2014年に開業してから11年。GIジョッキーから今度はGIトレーナーになった石橋。それも「松本会長が預けてくれたメイショウタバルのおかげ」と感謝を言葉にする。

石橋厩舎で語られるのは、怪我、病気のため順調ではなかった2歳、3歳時のタバルの状況だ。メディアでは皐月賞での敗因はゲート難、気性が問題と取り上げられたが、じつは違った。「繊細な馬だった」というそのときのタバルに言葉をかけ、寄り添い続けた調教助手・上籠三男の姿は胸を打つものだ。

宝塚記念優勝に繋がったドバイターフ参戦の裏話

番組のスタッフはタバルが生まれた北海道浦河町の三嶋牧場にも足を運び、タバルに目を止まらせた松本氏のエピソードも語られる。父はGI6勝馬のゴールドシップだが、母は1000万下を勝ち上がれなかったメイショウツバクロ。良血ではあるものの、タバルは決して高値が付く超優良血統という馬ではなかった。

しかし、血統より馬の能力を信じるという哲学を持っていた松本氏は、50年にわたり日高産(北海道浦河郡浦河町にある日本中央競馬会日高育成牧場)にこだわり、浦河町の牧場から競走馬を買い付けていたという。
　
三嶋牧場の繁殖担当・芦田康一、専務の三嶋健一郎から語られる、人との絆を一番大切していたという松本オーナーの人柄は印象的だ。

また、最下位に沈んだ皐月賞後、松本氏がタバルのローテーションを相談した相手、それは天才騎手・武豊だった。父・武邦彦の代から松本氏と深い縁にある武。番組ではインタビューを受ける武が、松本氏から相談を受けたときの状況を回顧。「このときの成長が宝塚記念に繋がった」という、ドバイターフ参戦の裏話も明かされる。そして、宝塚記念出走を希望した、松本氏の生産者への思いも語られる。

歴史的偉業の個人馬主JRA2000勝、それを成したのは松本氏の人望

松本氏はサンデーレーシングのようなクラブ法人の馬主ではなく、個人馬主だ。番組後半では、松本氏に個人馬主史上初の偉業“JRA2000勝”を達成させようと、氏を慕う関係者が総力を挙げてメイショウをレースに送り込んだことを振り返る。8月には中京、札幌の土日のレースでメイショウが11頭出走するという日もあった。そして、悲願の2000勝目を飾ったのは、三嶋牧場の生産馬であった話も。

しかし、2000勝を達成した6日後、松本氏は87歳で逝去。武が松本氏の病のことを知ったのは宝塚記念の後だという。普段は行くことがない北海道の三嶋牧場になぜか急に赴く気になったこと、たまたまそこに松本氏がいたことを述懐する。

松本氏の馬主歴51年の生涯成績は、JRA2004勝、地方競馬1057勝。GI馬はメイショウサムソン、メイショウタバルなど6頭を持つ。石橋や武が、「この先出ることはない」「考えられない」という個人馬主による偉業になった。

日高を愛し、生産者、厩舎、騎手を支え、誰からも好かれ、感謝されていた松本氏。死去後、松本氏が好きだった阪神競馬場のスタンドには献花台が設けられた。番組映像には多くの競馬ファンが献花に訪れたのと同じく、武や石橋、三嶋たちをはじめとした松本氏を慕う関係者たちが献花を行う姿も収められている。

「人のつながりを一番大事にしていた方。そういう方と勝ててすごくよかったと思います」と語る武。松本氏は、宝塚記念のあとは「天皇賞とか有馬記念はでたいなあ」と話していたという。それを直接聞いている武は、亡き恩人への思いを言葉にする。

今年の有馬記念は12月28日(日)。鞍上の武は、松本氏への思いを乗せてタバルの手綱を取る。

◆文＝鈴木康道