
後世で「書をもって世を耕し続けた」と言われたいと蔦重
そんな中、蔦重は「脚気(かっけ)」を発症する。江戸から国元に帰った武家が治ることがあったことから別名「江戸患い」とも呼ばれたが、多くは死に至る病だった。
ていは「命に過ぎたる宝なし」と心配するも、蔦重は「もうすぐ死ぬやつが必死で作ったってなりゃ、『ひとつ買っといてやるか』ってなんじゃねえかって」と一儲けにつなげようとする。罰当たりだと怒るていだが、ひかない蔦重。ていは、食事をきちんととることや無理をしないことなど約束事をして、許した。
南畝(桐谷健太)、喜三二(尾美としのり)、重政(橋本淳)、政演(古川雄大)、馬琴を集めた蔦重は、「死んだあと、こう言われてぇのでございます。『あいつは本を作り続けた。死の間際まで、書をもって世を耕し続けた』って。皆さま、俺のわがままを聞いちゃもらえねぇですか」と新作を頼んだ。蔦重はそれぞれに合った、面白く、人々の興味を引くようなテーマを提案していく。
もちろん歌麿とも仕事は続く。「新しい女絵」との依頼で、歌麿が描いたのは色っぽい山姥と金太郎の画。それは歌麿自身が「おっかさんとこうしたかった」というのを託したものだった。
「この先、見たかねぇか。この二人がこのあとどうなってくのか」と歌麿。蔦重は「…見てぇ」と答える。歌麿は「なら死ぬな」と力強くも切実な声で言い、蔦重は「合点承知」とほほ笑んだ。

蔦重の最期は、1話から続いたあの演出で
蔦重の病気をえさにした企みは当たり、本が売れる。そんなある日の明け方近く、ていに内緒で煙管に火をつけた蔦重は、拍子木の音が聞こえた。
すると、目の前に、かつて吉原で助けた九郎助稲荷(綾瀬はるか)の化身が現れた。九郎助稲荷は、「今日の昼九つ、午の刻(※12時)に迎えに来ます」と告げる。合図は“拍子木”だという。
朝になり、蔦重は、そのお告げをていに伝え、手代のみの吉(中川翼)は関係者に知らせに走った。だが、布団の上に座った蔦重をていが支え、皆を待つも、誰も来ない。
その間に、蔦重はていに自分が死んだあとのことを話す。すると、二代目のこと、仕事の頼み先のこと、さらに通夜から戒名のことまで準備万端に整えていたてい。「こんなもの屑屋に出せるようになるのが一番と思いつつ」というのには、愛する者を失う日が迫り、何かをしていなければもたないという悲しみがあったのだろう。
“屑屋”は、蔦重がていを初めて見た日に、ていが言っていたこと。そこからこれまでの日々、自分の仕事のことを思い返す蔦重。ていは「『笑い』という名の富を、旦那様は日の本中にふるまったのではございませんでしょうか。雨の日も風の日もたわけきられたこと、日の本一のべらぼうにございました」と語った。
その言葉に満足そうにうなずいた蔦重だったが、意識が遠のき始める。そこに歌麿をはじめ皆が次々に駆け付けてきた。そのとき、午の刻を知らせる鐘の音が鳴る。蔦重は「皆様…まこと…ありがた山の寒が(らす)…」と言い切らないうちに目を閉じた。
遅れて養父の駿河屋(高橋克実)ら吉原の面々がやって来た。そこで南畝が「呼び戻すぞ」と立ち上がり、屁踊りを皆に促した。絵師や戯作者たちとの思い出の屁踊りだ。蔦重を支えていたていも、義兄の治郎兵衛(中村蒼)に代わってもらって加わった。
「へ、へ、へ」と言いながら蔦重をぐるりと囲んで踊るみんなの顔は涙に濡れていた。すると、蔦重が意識を取り戻したことに治郎兵衛が気付く。蔦重は「拍子木…聞こえねぇんだけど」とポツリとつぶやき、皆が「へ?」と言ったところで、拍子木が鳴り、本作の幕を閉じた。
毎話の終わり、次回予告に切り替わるときを彩ってきた拍子木の音が、蔦重の最期の鍵となった。クスっと笑えて、でも悲しくて、粋な展開。実は拍子木の件は本物の蔦重の墓碑に書かれたとおりのことなのだという。ラストまで、史実とフィクションを見事に織り交ぜた痛快エンターテイメント作だった。
一足早くBSプレミアム4K、BSでの放送があったことで、本放送前からタイトルがトレンド入りしていたが、本放送終わりには日本のみならず世界トレンド1位になった。SNSには「最高に粋だった」「笑いながら泣いた」「拍子木にも泣けた」「1話から聞いてた拍子木の演出にしびれた」「実にべらぼうらしいラストシーン」「1年通してすばらしかった」「人生で初めて屁で泣いた」「しばらくロスから抜け出せそうにない」など、反響の投稿が上がり続けた。
◆文=ザテレビジョンドラマ部

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