又吉直樹と西野亮廣 対談「替えの効かない存在になりたい」(連載第四回)
又吉 ライブも、美術セットができあがっていく時とかドッキドキするし、「照明、今回こうやっていくんや」とか、準備の時からずっと楽しい。なんか僕のライブ、女性が多かったけど、最近男性が増えてきましたね。
西野 僕は今、半々、ちょうど。原因はビジネス書だと思います。ビジネス書を買う人って、だいたい男性なんで。たぶん、「この本を書いた奴のお笑いってどんなの?」って様子見で来てるのかな。
又吉 本のお渡し会とか、出版寄りになると男性が増えます。一番後ろのほうに座って笑ってない男の人とか、「何かあったんかなー」と。殺しに来たんかなと思う時ありますね。目立つから。絵本は読者対象はあんの?
西野 基本的に絵には対象年齢がそもそもない。東京タワーがいいっていう子供もいるし、興味ないおばあちゃんもいるから。でも、常に意識している人たちはいるよ。僕はすごく貧乏したわけでもないし、いじめられた過去もないし、これっていうコンプレックスがないままこの世界に入って。苦節十年みたいなことだったら、苦労している人たちの代弁者になれたんだけど、そういうわけでもないし。結局、誰の代弁者にもなれないっていうのがずっとあって。「これは弱い」と思ったんですよ。僕のことを応援する理由が、お客さんにないと思って。でもないもんはしゃあないなと思って、諦めかけてた。
又吉 僕は西野くんと逆ですね。学生時代のコンプレックスが。僕はサッカーやってて、それなりにできてたし、彼女がおったこともあるし。ただ僕は一個の失恋に対する傷つき方が常人の四倍くらいとか、人に嫌なこと言われた時の憎しみの記憶力が百倍とかで、ネガティブな感情を自分でめちゃくちゃデカくできるんですよ。しかもいいことは忘れていく。で、そこだけしか覚えてないから、それが結構パワーになってて。
たまに西野くんのそういう言葉を聞いたり、あと、みうらじゅんさんの『アイデン&ティティ』の主人公が「僕には不幸なことに、不幸なことがなかった」というセリフがあって、そんなん聞くと、「えっ」って、ちょっと待ってって思う時があるんですけど。僕もほんまにあったんかって(笑)。もの作る時って、ネガティブな要素が必要なんじゃないかってどこかで思ってて、そういう奴が強かったり、やりやすかったりするから。だから、西野くんとか綾部とか、見た目もきれいやし、モテてこなかったみたいなことがないところから、ものを作れる人はすごいなぁって。まぁ、綾部は作ってないですけど。そっからやるのって結構、難しいんちゃうかなって。
(次回は1月16日更新です)
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