【テレビの開拓者たち / 郷田ほづみ】音響監督も務める人気声優が語る“日本アニメーションの未来”
粗製乱造に陥らないように、しっかりと腰を据えて質の高いものを作っていきたい
──郷田さんは現在、「伊藤潤二『コレクション』」の音響監督を務めていらっしゃいますが、この作品の魅力は?
「そもそも伊藤潤二さんの漫画が、世界観が独特で、内容もバラエティーに富んでいて、とても魅力的じゃないですか。その原作の魅力を、声優さんの芝居も含めて、どう表現していこうかと考えながら作るのが楽しいですね。田頭(しのぶ)監督からは、『昭和の実写ドラマのような雰囲気にしたい』という要望があるので、そういったことも声優さんに伝えつつ、演出をつけています」
──双一役の三ツ矢雄二さんをはじめ、ベテランの声優さんも出演されています。
「そうですね、小山茉美さんにも出ていただきました。三ツ矢さんも小山さんも僕より先輩で、そういった方々との仕事は勉強になりますね。実は三ツ矢さんも音響監督をされていて。ですから、僕が声優として三ツ矢さんの現場に呼ばれることもあるし、今回のように僕がお願いして来ていただくこともあるし、現場によって立場が違う、という(笑)。そういうのもすごく楽しいですよね」
──この作品ならではの注目ポイントは?
「劇中の音楽ですね。今回の作品はオムニバス形式で、全26話あるんですけど、汎用する曲とは別に、それぞれのエピソードをイメージした楽曲を26曲作ってもらっているんです。本当に贅沢なんですが、そのテーマ曲はその回でしか使っていないんですよ。作曲家の方に、『ちょっとコミカルな感じで』とか、『今回はシリーズ終盤にかけてのイメージで』というふうに、細かくリクエストさせていただいているので、全部違った音作りになっているし、エピソードによって楽曲を流すタイミングも違っていて。僕自身、そういう音楽の作り方は初めてだったので、とても面白かったですね」
──ところで、日本では現在、1クールに50本近くのアニメーション作品が制作されているそうですが、我が国のアニメーション界の行く末について、何か思われるところはありますか?
「アニメーションって、本来は子供のものだったのが、完全に違う方向に行ってしまったというか。今や、日本を代表する文化的な産業にまで成長してしまいましたよね。きっと、この流れは止められないと思うんです。だからこそ、粗製乱造に陥らないように、しっかりと腰を据えて質の高いものを作っていきたいなと個人的には思いますね。ただまぁ、仕事が多いに越したことはないし(笑)、質と量の問題というのは、難しいところではあるんですけど」
──では最後に、郷田さんの今後の活動の展望をお聞かせください。
「ディレクターとしては、これからもアニメーションに関わっていきたいのはもちろんですが、海外の実写作品の吹き替えの演出はまだやったことがないので、そろそろ始めてみたいと思っています。僕自身、海外のドラマや映画も大好きなので。
また、僕は今、劇団もやっているんですが、今後はそっちの認知度も上げていきたいなと。神奈川県出身の役者が集まった劇団で、市民劇団みたいな意味合いもあるので、自分のライフワークの一つとして、地域に根差した活動を続けていきたいと思っています」