池松壮亮、蒼井優出演の「斬、」と「ブリグズビー・ベア」が映し出す、人の弱さともろさと可能性<ザテレビジョンシネマ部>
誰かが耐え忍ばなければならないが、誰もそんな役回りなど担いたくない。心にたまった鬱憤は晴らしたくなるからこそ、怒りや憎しみは連鎖し続け、争いの火種はいつの世も消え去ることがない。
僕たち人間には対話という解決手段だってあるとはいえ、事が大きくなればなるほどに、対話による解決は極めて難しくなっていくのも事実。決して不可能ではないが、投げ出してしまう人がほとんど。
なぜならば、暴力・権力・威力などを行使した方が時間もかからず優位な状況を築きやすいから。人生、思いや気持ちだけではどうにもならない理不尽なことであふれている。譲れないものや守りたいものがあるのなら、無力のままではいられない。
心の鍛錬に比べれば、肉体の鍛錬の方がたやすく、心が不安や恐れにとらわれてしまえば、物理的な力に固執する。そういった即席の力に頼れば心は弱まっていく一方で、対話による問題解決の可能性などついえていく。タイトルが『斬』でもなく『斬。』でもなく『斬、』なのは、一度人を斬ってしまったが最後、一度力の恩恵にあやかってしまったが最後、「。」で終止符を打つことなど許されず、争いや殺戮の輪廻から抜け出せなくなってしまうからではないだろうか。
刀も銃も携行できない今の日本ではあるが、正しく対話を行える者など一握り。むしろ、本来対話に用いるはずの言葉を凶器に変え、自分も他人も傷つけてしまっている者の方が多いはず。
劇中世界と僕たちが生きる今、混沌としているのは一体どちらだろう。相も変わらず平和へと至らぬこの世の中で、どうしたら争いの呪縛から抜け出すことができるのだろうか。
シンプルなストーリー展開に加え、80分という尺の短さ。それは余計なものを極力排除し、本当に必要なものだけに絞った故のこと。その潔さと鋭さがあるからこそ、観る者の心に強く突き刺さり、答えを得られぬ問いに向き合うためのキッカケを与えてくれる。
『ブリグズビー・ベア』(2017)
『サタデー・ナイト・ライブ』の演出&脚本を務め、2019年、エマ・ストーンとの婚約でも話題となったコメディ・ユニット“Good Neighbor”のデイヴ・マッカリー監督作。
25歳まで自分を誘拐した犯人2人を実の両親だと信じて生きてきたオタク青年ジェームス(カイル・ムーニー)が仲間とともに映画づくりに没頭していくさまを通し、どんな現実であれ、希望を抱いて生きていくことの価値を映し出す。