池松壮亮、蒼井優出演の「斬、」と「ブリグズビー・ベア」が映し出す、人の弱さともろさと可能性<ザテレビジョンシネマ部>
『斬、』を観れば、どうしようもない人間の在り方をあなたは強く自覚することだろう。だが同時に、自身の在り方を自覚しているからこそ踏み出せる一歩があることも、明確な答えがないからこそ違う何かが生まれいづる可能性があることも、強く自覚できるに違いない。そう、そのための一歩や可能性の片鱗を感じさせてくれるのがこの作品。
誘拐事件を巡る善悪の問答や、一般的な常識を学んでこなかったジェームスの前に立ちふさがる無数の障害は、きっと観る者の倫理観を揺るがせる。皆分かり合いたいだけなのに、平和で穏やかで幸福な時間を過ごしたいだけなのに、誘拐されていたという消せない過去が原因で歯車がかみ合わない。
何が正しくて何が間違っているのか、誰が正義で誰が悪なのか、観ているうちにその境界線は曖昧になっていく。劇中のシチュエーションに近しい状況や、理屈だけでは到底解決できない問題が、現実世界にだっていくらでもあふれている。
互いに相いれない部分を持ち合わせながらも歩み寄ろうとしていく登場人物たちの姿は、今を生きる僕たちに必要な、明確な答えが存在しないこの世界で希望の明かりとなり得る勇気や愛を感じさせてくれるはず。
許せないことや割り切れないことばかりの世の中だけど、向き合い方を少し変えてみるだけで、世界はガラッと表情を変える。物事の側面にしか目を向けられないから、誤解や不和を招いてしまうだけ。
そう頭で分かっていても実践できないのが現実なのだが、その事実だけはきっと揺らがない。いまだ争い事から抜け出せない人間の愚かさを明らかにする『斬、』、どれだけの理不尽にさらされようとも希望を見いだしていくことのできる人間の素晴らしさを映し出す『ブリグズビー・ベア』。
両作品に触れることで、自らの在り方を、秘められた可能性を自覚し、地に足をつけて生きていく覚悟ができると思います。ぜひセットでご覧ください。
文=ミヤザキタケル
長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。