プロデューサー宮瀬永二郎が語る「シャイニング ジャパン」の誕生秘話
人を変えることができる、それがドキュメンタリーの魅力
――「シャイニングジャパン」の反響はどうですか?
ありがたいことに見てくださった方からは「番組を見て、頑張る気になりました」とか中には「直接に応援をしたいので会わせてほしい」いうお声もありました。ドキュメンタリーの定義はありますが、僕は番組をご覧になった方たちが心温まるような応援したくなるような、見た人が頑張ろうと思えるような構成にしたいと思っています。
――裏で支える喜びや面白さって、何ですか。
人の考え方や気持ちを変えることができるっていうことです。「だめ」「無理」と言っていた人たちが変わるんですよ。そして自分も変わることができます。もちろん取材対象者もそのひとりです。
パラ陸上選手の高松佑圭選手の取材で、彼女は中度の知的障がいがありました。取材前、コミュニケーションがうまく取れるだろうか、インタビューの受け答えが出来るのか、僕は撮影自体するかどうかを取材の直前まで悩んでいました。で、腹をくくって実際に取材したら失敗の連続なんですよ(笑)。
「練習場に入るところを撮らせてね」って言ったら、撮られたくないから日傘で顔を隠して入って行っちゃうんです。その画は使えないじゃないですか(笑)。また、練習中も帽子を深く被って表情を撮らしてくれない。彼女にとっては取材されることなんて練習の邪魔でしかないんですよね。
そこで、高松選手との距離感について試行錯誤しました。そのひとつに彼女はある男性アイドルが大好きで、自分が東京パラリンピックに出場してメダルを取ったら会えるっていう夢を持っているんです。そこで僕はそのアイドルについて勉強しました。まったく興味がないのに(笑)。
――これまで「シャイニングジャパン」に出演された方たちの印象的なエピソードを聞かせてください。
ニューヨークのダンサー、NOBUYA(長濱修也)さんから「この番組のおかげで結婚できました」という報告がありました。ダンサーという職業は、日本人には仕事としてなかなか認知されないところがあって信用を得ることが難しいと言っていました。それが、「この番組を見て信用してもらえました」と言って喜んでいました。
それから、元シルク・ドゥ・ソレイユの縄跳びパフォーマーの船木さんは番組がきっかけで日本で仕事が見つかったそうです。船木さんは、話し下手なところがあるんです。もともと理系のガリ勉で宇宙が大好きで日本の某ロケット会社に就職したくて面接を受けたら開始5分で「君には向いていない」と落とされました。落ち込んでいる時にたまたま日本に来ていたシルク・ドゥ・ソレイユを観て、喋らなくても人を感動させることができることを目の当たりにして涙が止まらなくなったそうです。
それから大道芸人を始めて自分の縄跳びパフォーマンス映像をシルク・ドゥ・ソレイユに送ったら、なんとすぐ来てくれとなり、振り返ればシルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーとして6年間ですよ、元オリンピック選手やサーカスで身体能力の高いメンバーの中でガリ勉くんが(笑)。その異色の経歴がアメリカの地元雑誌にも取り上げられて広まると、NASAから夢を切り開くテーマについて講演をしてくれないかと依頼がきたんです。違う形で夢を叶えたサクセスストーリーですね。
グラミー賞を2度も受賞しているミュージシャンのヒロ・イイダさん。高校卒業後に当時日本では専門で学ぶことができなかったシンセサイザーを学びに単身でアメリカへ渡りました。それから30年経った今、世界中から年間1,500万人が集まると言われる数あるブロードウェイ舞台の音響システムを作る男へとなりました。ミュージシャンでありエンジニアでもるヒロさんの才能は、アメリカで有数の音楽家や舞台演出家もなくてはならない存在だと言います。
「トイレの神様」の歌で有名な植村花菜さんは、今はニューヨークでこれでもかっていうぐらい日本語で歌っています。日本語には日本語でしか表現ができない美しさがあるから、あえて英訳にする必要はないと言います。彼女の日本語の歌声は今、ニューヨーカーに親しまれ愛されています。
由水南さんは劇団四季で演技指導するぐらいの方でしたが、どうしても小学生から思っていたブロードウェイ俳優になる夢が諦められなくて30歳を過ぎてから再挑戦しました。100回以上のオーディションを受けてようやく夢がかないました。夢を追い20年、血のにじむような努力でつかんだのに、さらりと「運が良かった」って言うんです。カッコいいですよね(笑)
みんなそれぞれ魅力あふれる人物で話は尽きません。そういう方々の頑張りを見てほしいし、他にも伝えたい人物がいっぱいいます。アフリカにもヨーロッパにも大勢いますが、まだまだ伝えられていないのが実状です。そういう方々をこれからも「シャイニングジャパン」で伝えていければと思っています。
夢は本を書くこと
――宮瀬さんの経験をたくさんの人に伝えてほしいですね。そんな宮瀬さんの夢は何ですか。
僕はいつか本を書いてみたいと思っています。今までヨーロッパ、アフリカ、中東、オセアニア、北アメリカ、南米と世界中でロケをしてきて多くの文化人やアスリートと出会ってきました。またその地で触れ合った人や文化、映像で表現できなかった様々な出来事を、ほとんど本当のことは言えないかもしれませんが(笑)、いつか本に残せたらなぁなんて思います。
映像って残らないんですよね。放送したら終わっちゃうみたいな、"書"というのは時を経ても残りますよね。僕の取材に協力してくださった文化人やアスリートのその瞬間の、まるで歴史のような出来事を書き残すことが出来たらと思います。海を渡ってもたくさんの人に読んでもらえるような本をいつか書いてみたいです。
――「シャイニングジャパン」は配信ですが、地上波ではない魅力って何ですか。
配信っていろんな挑戦ができるし、内容の自由度も高くて可能性が詰まってます。若い世代にもぜひ見てもらいたいので、「シャイニングジャパン」が15分尺っていうのには意味があるんです。この15分は携帯電話で見ても集中できる時間だと思うからです。
――では、最後に番組の視聴者に向けてメッセージをお願いします。
この番組は「新しい発見」がキーワードです。様々な世界で挑戦をしている人がいるんだという発見する楽しみを持っていただき、ぜひその人たちを応援してもらいたいです。そして、見てくださった方々が絶対に元気になれる構成にしてあるので、元気のない方、ある方も一緒に世界中を旅して「新しい発見」をしてもらえればと思います。