“ホームドラマ”貫いた『スカーレット』喜びも哀しみも…“何気ない日常”の尊さ伝える
本日3月28日(土)の放送で最終回を迎えた連続テレビ小説「スカーレット」(NHK総合ほか※NHKオンデマンドで配信中)。同作について、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(※以下、最終回までのネタバレが含まれます)
喜美子の人生は哀しみの連続
全150話の物語の最終回を迎えた「スカーレット」を振り返ると、日常の生活に降りかかる哀しみを闇として捉えず、違う角度から見ることで、光に変えていく、そんな物語に見えた。
主人公・喜美子(戸田恵梨香)がやっている陶芸は、土と水と火と風(空気)でできる。土が水でこねられ空気を含みながら形ができあがり、火で燃やすことで風合いが変わる。スタートからゴールまでどんどん見た目が変わっていくものである。最終週では、冷やすことで入るひび(貫入)で音がするという現象すら見せて(聞かせて?)くれた。
そんなふうに苦しみや哀しみを、人や自然の力で変えていくことができる、そんな希望の物語。
振り返れば喜美子の人生は哀しみの連続であった。昭和22年、9歳から昭和62年、49歳まで喜美子の半生はざっとこうである。
・大阪で戦争に遭う。妹・直子が空襲の恐怖からPTSDになる。
・戦後、父の借金のため信楽に引っ越す。父・常治(北村一輝)は悪い人物ではないが酒浸りが欠点で、母・マツ(富田靖子)は病弱。
・家が貧しく、進学を諦めて大阪に出稼ぎに行き家族に仕送りをする。
・自分のための貯金もできたので大学に行こうとすると、またまた家が困窮、地元に戻って陶芸会社で働く。
・火鉢の絵付けという職を得るが、時代が変わり需要が減ってしまう。
・会社で知り合った八郎(松下洸平)と結婚し陶芸家としての道を歩むも、芸術と夫婦生活に対する価値観が合わず離婚。
・母ひとり子ひとりで生きてきたら、息子・武志(伊藤健太郎)が白血病になって闘病の末、亡くなる。
従来のドラマであれば、終戦後の苦労。妹のPTSD との闘い。酒浸りで何かと子供を叱りつける父との愛憎。出稼ぎ先での孤独。職場の女性差別。時代に取り残される不安。夫の浮気疑惑。両親の死。離婚後、ひとりで仕事をしながら子供を育てる苦労。陶芸で一人前になるまでの奮闘……などなど喜美子がぶつかる「壁」にフォーカスし、乗り越えていく姿を劇的に描くものなのだが、「スカーレット」では苦しみもがく姿も、それを乗り越えたときの爽快感も見せ場にすることなく、その触りをさらりと見せるくらいであった。それは、哀しみに限ったことではなく。喜びや楽しみさえも。
「禍福は糾える縄の如し(かふくは あざなえる なわのごとし)」という言葉の如く、人生には苦労もあれば福もあるもので、喜美子も困難と困難の間には、友情、恋、結婚、芸術との出会い、出産、成功等々、喜びがはさまってくる。ところが、結婚式や賞受賞の瞬間や個展開催などイベント的なこともほぼ描かれなかった。