シリーズの共通企画である朗読劇(手紙をモチーフにした井上ひさしの短編集『十二人の手紙』から一編を選んで朗読)で披露されたのは『ペンフレンド』。北海道に一人旅をすることになった若いOL・弘子が、雑誌の文通欄で旅に同行してくれるガイドを募集、理想的と思われる男性を選ぶが…という内容だ。
好奇心旺盛でイキイキした魅力が文面にあふれる弘子を演じるのは小泉今日子。本多劇場には「隠れる女」(2010年、岩松了作・演出)で初めて立ち、10月には18日間に渡ってイベントをプロデュースするなど、自身にとって思い入れがある舞台だ。甘さと癒やしが並立する唯一無二の声と、ほとんどNGのない技術はさすが。
対するのは大人計画の皆川猿時で、弘子の文通相手の候補3人を次々と演じ分ける。その度に着替えるのだが、年齢もキャラクターもまったく異なる男性達が、皆川の瞬発力で見事に誕生する。つい大笑いしてしまうが、ベースの演技力が高いことがよくわかる。
今回皆川は大活躍で、朗読劇以外にも、下北沢の街と劇場内をレポートしながら俳優という職業を理解していく男子中学生・皆川利美に扮し、柄本佑や要潤、阿部サダヲを始めとする大人計画劇団員と絡んでいく。百人組手のようなやり取りに注目だ。
三宅弘城は体操選手の衣裳に身を包み、細川演出の「正しい平台(舞台の床などに使われる木製の台)の持ち方」に取り組む。あくまでも真顔で、特に決まりがあるわけではない「正しい平台の持ち方」を何種類も披露していく。
三宅は「僕、どうやら本多劇場の舞台に最も多く立った俳優らしいんです」ということから、ゆかりのある劇作家によるスペシャル座談会の進行も担当。宮藤、細川に加え、岩松了、倉持裕、赤堀雅秋の5人からは、滅多に聞けないエピソードやこの顔合せだからこその本音が飛び出した。
もう一つの目玉は、荒川良々が初挑戦する講談。稽古をつけたのは、なんと神田伯山。これは仕掛けなしの真っ向勝負で、名作『中村仲蔵』をベースにしつつ、宮藤が生まれて初めて講談を書いた。
内容は、松尾スズキから「本番でウケを取れ」と厳命を受けた顔田顔彦(実話)が、プレッシャーから下北沢をさすらううちに一人の老人と出会い、身の上話を聞いていくと、どうやら本多劇場のオーナー・本多一夫氏で…というもの。
荒川は稽古期間が短かったことが信じられない落ち着きと迫力で、ほとんど淀みなく通しを2回行った。駆けつけた伯山も収録を見守ったが、終わった途端、「素晴らしい、何も言うことはない」と絶賛していた。
参加した人が皆打ち解けた表情を見せていたのが印象的で、これもまた本多劇場の力だろう。劇作も演出も演技も、ここで上手くなった人が楽しそうに恩返しをしているように感じられる収録だった。
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