第110回ザテレビジョンドラマアカデミー賞最優秀作品賞 受賞インタビュー

最愛

自由に展開していけるオリジナルの面白さを感じました(新井順子P)

「最愛」が作品賞、主演女優賞、脚本賞、監督賞の4部門を受賞しました。

このドラマはオリジナル作でオールロケ。撮影しながら本当に完結できるのかと思ったこともありました。それだけに選んでいただいて、ありがたいです。分かりやすい作りにはしていないので、おそらく皆さんは一つのエピソードを何度も見てくださったのではないでしょうか。

「最愛」の企画はそもそもどこから始まったのでしょうか。

湊かなえさん原作のドラマを3作品やって、同じスタッフでオリジナルサスペンスに挑戦したいと思ったのが始まりです。最愛だった人と容疑者と刑事として再会したら、どんなラブストーリーが生まれるだろうと想像しながら、サスペンスとラブストーリーを組み立てていきました。

企画書を作るときは、いつも役者さんをイメージしながら作ります。今回は「わたし、定時で帰ります。」(2019年、TBS系)でご一緒した吉高由里子さんに主人公を演じてもらえたら、すごい芝居が見られるんじゃないかと思い、彼女をイメージしながら作りました。企画が通った場合、いろいろな事情によってイメージした役者さんで実現しないこともあるのですが、今回は念願かなってまたご一緒することができました。

実際に、梨央を演じた吉高さんはいかがでしたか。

素晴らしかったですね。「(芝居が)うまかった」と言うと浅くなってしまうんですけど、瞬発力があるし、考えた芝居をやらない感じ。相手から出てきたものに対してどう反応するかというところで、私たちの想像を超えてくることが多かったです。泣くシーンも多くて、ここは泣かなくてもいいなと思っていたシーンでも、わーっと感情があふれていたので…。やっぱり梨央という役はつらいんですね。だから、吉高さんも自然に涙が出てきていたのかなと。本当に“役に生きて”いただきました。

大輝役の松下洸平さんはいかがでしたか。

松下さんには今回、無骨というか荒っぽく男っぽく演じてほしいとお願いし、役作りで陸上の練習に通ってもらったり、外を走って日焼けしてもらったりしました。その反面、ご本人の優しさが役に反映され、女性から見て「一緒にいたいな」と思える男性になりましたね。

恋愛ドラマの部分では、「ロミオとジュリエット」のような関係を意識されたそうですね。

そうです。「ロミオとジュリエット」のように結ばれてはいけない関係性を作ろうと思ったのがそもそもの発想だったので、そのコンセプトはたびたびみんなに話していました。つまり容疑者の梨央がジュリエットで、刑事の大輝がロミオだという…。

しかし、ベタな禁断愛というよりは重くならないようにしました。キスしない、なかなか手をつながないという関係が物足りなく思う人もいたと思いますが、大輝は刑事だし梨央は大きな秘密を抱えているので、なかなか先に進めない。井浦新さんが“ジリキュン”という言葉を作ってくれましたけど、まさにそんなあんばいを狙っていました。そこはうまく作れたんじゃないかなと思います。

大輝が梨央に言う「好きやよ」というセリフにときめいた人もたくさんいました。

1話で大輝から告白をする場面について台本の打ち合わせをしたとき、「タイプとして“どストレート”に言いそうだよね」という話になって、脚本の奥寺佐渡子さんが最初に書いてくれたのが「好き」だったんです。それを方言に変換すると「好きやよ」に。方言が入ってプラス3倍くらい、いい感じになりました。もう1回言わせたかったので、9話でも「入れてください」とお願いしました(笑)。

企画当初はもっとベタなラブシーンがあったそうですね。

「最愛」のプロット(あらすじ)を作っていたときは、「着飾る恋には理由があって」(2021年、TBS系)のクラインクイン前の台本を作っている時期で。なので、気持ちがちょっとラブに向いていて、大輝が梨央をバックハグしてプロポーズするというストーリーも考えていたんですけど、改めて台本にするときに「いや、これは無理だな」と(笑)。それでも、プロポーズめいたことはやろうと思い、脚本の奥寺さんにお願いしたら、8話で線路の横を歩きながら大輝が梨央に言う「先のことを考えたい相手は、他にはおらんで」というセリフが出てきました。

たしかに、梨央にとっては周りで殺人事件が起こったり会社の不正疑惑があったりと、恋愛でハッピーになっている場合ではないというか…。

なかなか事件が解決しないことがブレーキになっているから、吉高さんと相談しながら進めていきました。大輝と思いが通じあっても、手放しでは喜べない感じ。ラストシーンでも2人とも相手に黙っていることがあるわけで「どのようなテンションで、どんな表情をするのか？」などと話し合いながら演じていましたね。

殺人事件の謎解きでは、新井さんがプロットを書いた時点で、犯人はこの人と決めていたんですか。

そうですね。決めていました。梨央のためにあんなことをするのは、この人しかいないかなという。最初は、彼には梨央に対してどのぐらい恋愛感情があるのかということも話し合っていたんですけど、どの時点からか「そういうのはもうないね」ということになり…。そこにあるのは本当に家族みたいな愛情で、妹を超えた存在だと思っているのではないか。結婚したいのかと考えたら、たぶんしない。そういうことを井浦さんにもお話しました。

井浦新さんを加瀬役にキャスティングしたのはなぜでしょうか？

「アンナチュラル」(2018年、TBS系)の中堂役ではぶっきらぼうな感じでしたが、普段は周囲にものすごく気を遣われる優しい方だし、ふわっとして柔らかい印象があったので、そのままで加瀬を演じてもらえればいいのではと。加瀬のしたことは許されない行為ですが、井浦さんが演じることで「気持ちは分かる」と共感してもらえると思いました。でも、紙一重ですよね。陸上部の寮で人が死んだあの状況で、ほとんどの人は梨央の父親の達雄(光石研)の頼みを断るんでしょうけど、加瀬さんと同じ選択をする可能性もある。それほどの“最愛”がそこにあったということを描きました。

井浦さんは最初から事件の真相を知っていたのですか。

クランクイン前、衣装合わせの段階で「最終回はこうなります」という話はしました。加瀬はなぜそうするのか、こういう動きをしてここでこうなってと全て説明して。もちろん、光石さんにも同じことを話しました。台風の日に加瀬さんと会っていて、優から呼ばれてこうなりますよと。そして、酒向芳さんも殺される側なので、この3人だけに真相を書類2枚ぐらいにまとめて渡しました。そのときの意識がない梨央と優には説明しませんでしたが…。「いろいろと教えてもらえない」とよく言われました(笑)。

そういう経緯があったので、事件の場面は何回かに分けて撮ったんですね。

撮影が始まってすぐ全てを撮ってしまうと、俳優さんのセリフや気持ちが乗らないじゃないですか。台本を渡しても梨央たちと過ごした時間を撮影していないので、なかなか心の芯から出てくるお芝居とするのは難しいと思うんです。脚本家さんも全10話を執筆していく中で、キャラクターの造形がされて言葉が出てくる。加瀬さんがそれぞれの事件でどんな言葉を発するのか、何を言うのかということは最後まで書いてみないと描けないと思いました。どのようにして加瀬さんが罪を犯したのかは決めていても、そのシーンのセリフを書けるのはやっぱり最後なので、撮影も最後に回しました。

他に、撮影をしながら変わっていったことはありますか？

もちろんベースの物語は決めていましたが、実際に撮影してみてこっちの方がいいから脚本家さんにこう書いてもらおうとか、展開もこうした方がいいんじゃないかというフィードバックはしました。それは放送が始まってからもあり、皆さんの考察コメントを読んで、意図とは違うように読み取られているところは、脚本に加えることもありました。

オリジナルでストーリーを構成していくのには、やはり大変な苦労があるわけですね。

オリジナルは自由な分、難しいですね。特に後半はもう、リアルに頭が痛かった…(笑)。ゴールは見えていたんですけど、9話から最終話、そこまでの展開をどうするのか。何回もプロットを書き直してもらい、脚本家さんと一緒に乗り越えました。

スタジオで撮影をしないオールロケ作でもありました。

スタッフはものすごく大変だったと思います。ドラマの現場にいるベテランスタッフたちに「今までで一番大変でした」と言われたぐらいなので(笑)。今まで最もハードだった番組は「最愛」と同じくオールロケだった「MIU404」(2020年、TBS系)だと思っていたんですけど、それを超えたと言われて、驚きました。

視聴者の皆さんからは「本当に続編はやらないのか」「続きを書いてくれ」というリクエストもいただいていますが、私たちの中では完結したという感じが強いので、最終話のその先は皆さんの頭の中で想像し、梨央たちの物語を続けてくれればと思います。

改めて、新井さんにとって「最愛」とはどういう作品になりましたか。

湊かなえさん原作の三部作を作ったときに反省点や改善すべき点があり、今回、それを踏まえてオリジナルで作ってみたら、さらにまた学ぶべきことがありました。同時にオリジナルサスペンスの可能性も実感したので、またオリジナルで作るとしたらどうするかなという想像はしています。もちろんキャラクターが破綻したりとんでもない展開になったりするのはダメですが、オリジナルでは自由な発想ができるし、自由に展開していける面白さを感じました。監督もカメラマンも役者も、みんなで意見を出し合い、「そんな考え方もあるのか」「じゃあそうしてみようかな」とうまく工夫しながら作れたので面白かったですね。

(取材・文＝小田慶子)

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