ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第110回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞 受賞インタビュー

(C)TBS

塚原あゆ子、山本剛義、村尾嘉昭

こだわったのは“最愛”を見せようということ(塚原あゆ子)

「最愛」は作品賞、吉高由里子さんの主演女優賞、脚本賞も獲得しました。改めて、監督賞を受賞した感想を教えてください。

吉高由里子さん、松下洸平さん、井浦新さんをはじめとする、素晴らしいキャストの皆さんが演じてくれた群像劇が評価されたのだと思うと、うれしいです。
吉高さんは最後まで集中力を切らさず、座長として現場を引っ張ってくれました。


「最愛」の演出で苦労されたのはどんなところでしょうか?

私はサスペンスの演出をするのが久しぶりだったので、連続ドラマで謎解きを展開するのは難しいと改めて思いました。全10話のどの時点でどのぐらい真相を隠しておくか、いつ謎を明らかにするかというあんばいが悩むところで、隠し過ぎると、見る人はもう知りたくなくなってしまう。

緊張感をキープするための特殊な方法論があって、それができたのは、過去に湊かなえさんの小説を基に「夜行観覧車」(2013年、TBS系)「Nのために」(2014年、TBS系)「リバース」(2017年、TBS系)を作り、脚本の奥寺佐渡子さん、清水友佳子さんと組んできたからこそですね。そこが難しかったし、楽しかったところでもあります。


タイトルバックに出てくるブラックボックスが開くと、真実が明かされ、最終話ではその箱が消えるという仕掛けも好評でした。

ブラックボックスが開いたときには、誰の視点でもない真実が明かされるようにしました。最初に1話の編集作業に入り、台本に書いてあっても「これは隠した方がいい」と判断した部分があり、そのときにブラックボックスを使って分かりやすくすることを思いつきました。2話の時点では、最終話で箱が消えるようにしたいと考え、脚本の奥寺さんに相談しましたね。


謎が謎を呼ぶ展開をどうやって構成していきましたか?

今回は原作のないオリジナルストーリーだったので、新井順子プロデューサーの書いたプロットを奥寺さん、清水さんがふくらませ、4人で話し合いながら10話分の台本にしていきました。そこから実際に撮影して現場で生まれたものをフィードバックするのは、私たち監督の仕事。「こんなキャラクターになりそうだ」「本人とやってみたらこっちの方がうまくいきそう」ということを、脚本のお2人に伝えました。キャラクターが最後まで謎を抱えていくにしても、そこで泣くのか笑うのか。俳優部からもヒントをもらって、台本に反映していきました。


撮影してから変えたところは具体的にどこですか?

それはもう、あらゆることです。梨央の髪は長いほうがいいかどうかから始まり、松下さんを見ていたら、大輝はもうちょっとぶっきらぼうな男性の方がいいのではという印象を受けたので、台本をそうしてもらい…。どの作品の監督もすることですが、今回のチームで組むのは4本目なので、より密にフィードバックできたと思います。


殺人事件などの謎解きがあり、過去と現在が交錯し、舞台も白川郷と東京を行き来するなどたくさんの要素が詰まっていましたが、ぶれないようにしたのはどんなところですか?

サスペンスとしてギミックに走るのではなく、“最愛”を見せようということですね。最後に「犯人が分かりました。終わり」では10話見てくださった方に申し訳ない。謎解きはあくまで入り口であり、人が誰かのことを最愛だと思い、その最愛の人の敵が他の誰かの最愛だったときにはどんな選択をするのか、ということを考えてもらえたら…。ラストで最愛の人に別れを告げるとき、その言葉がこんなにも味わい深く聞こえるんだと思ってもらえればいいと思いました。


高校生の梨央が襲われた後の場面には誰がいたのかということは、初めから決まっていたにもかかわらず、何回かに分けて撮影したそうですね。

「リバース」のときは原作小説があり、また舞台を雪山にしたので、事件の顛末(てんまつ)を1話の時点で撮り切りましたが、今回はオリジナル。あの血まみれの場面を何回も撮ったので、吉高さんは大変だったと思いますが、何回も倒れてくれて、ありがたかったですね。


物語のキーパーソンである加瀬は、井浦新さんにどう演じてほしいという話をしましたか?

基本的に私から俳優さんに「こう演じてほしい」とお願いすることはありません。15年前の事件の場面にしても、井浦さんとどういう状況なのかを話しただけで、とにかくその場で感じたことを大事にして演じてもらいました。井浦さんはリアルに加瀬という人物を作り上げ、素晴らしい演技をしてくれました。


オールロケだったので、スタッフの皆さんはロケ場所を見つけたりスケジュールを組んだり変更したりするのに苦労されたそうですね。

今回は山本剛義監督、村尾嘉昭監督を始め、これまで何度も組んできた人に集まってもらったので、“あうん”の呼吸があり、これだけの撮影ができました。例えば5話、高速道路で梨央が乗ったバスを大輝たちが追いかけた場面も、「MIU404」(2020年、TBS系)でカーチェイスを撮ったスタッフだから、何度も打ち合わせしなくてもスムーズに撮れました。ですが、初顔合わせだったらおそらくこなせなかったでしょう。全員がスキルアップし、連続ドラマというスピード感が必要な仕事の中で力を出せているなと…。本当に、うちのスタッフは優秀です。


塚原さんにとって「最愛」はどんなドラマになりましたか?

久しぶりにサスペンスに取り組み、毎週の放送で最初から見ている人と途中から見てくれる人がいる中、見せ方のバランスをどうするかという問題など、昔と同じ壁にぶち当たりました。一方、最強のチームで「最愛」を作ったことでサスペンスをやる面白味は増したので、まだまだやれることがありそう。毎回、ドラマが終わったときは、「もうちょっとうまくできたのでは」という思いが残ってしまい、“反省しきり”なのですが、またこの枠でチャンスがあったら、さらに良いものをお届けしたいです。

(取材・文=小田慶子)

最愛

殺人事件の重要参考人となった吉高由里子演じる実業家・真田梨央と、事件を追う刑事、そして、あらゆる手段で梨央を守ろうとする弁護士の3人を中心に展開するサスペンスラブストーリー。脚本はドラマ「リバース」(2017年)を手掛けた奥寺佐渡子と清水友佳子のタッグによるオリジナルストーリー。

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