ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第110回ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演女優賞 受賞インタビュー

(C)TBS

吉高由里子

今後も自分の中に大きく染みつく作品です

「最愛」で主演女優賞を受賞した感想を教えてください。

「最愛」はすごく熱量のある作品で、放送中は友達や仕事仲間から驚くほどたくさん感想をもらいました。メッセージには「この展開、嫌だぁ」「まさか梨央が犯人?」とあり、皆さん物語に入り込んでいるようで、最終回が近くなると、「終わってほしくない」という声も。「梨央と大輝に幸せになってほしい」「加瀬さん~(泣)」という感想もあって、みんなの推しが見えて面白かったです。
私としても、皆さんに愛される作品に出会えたという恵まれた瞬間をかみ締めていました。それだけにこうして受賞できて、うれしいです。


本作は、「わたし、定時で帰ります。」(2019年、TBS系)で組んだ新井順子プロデューサーが、サスペンスの主役として吉高さんを発想した作品ですよね。

私はサスペンス自体、あんまりやってこなかったので、新井Pはよくそんな発想をしてくれましたよね(笑)。たくさんの視聴者の方がいろいろ推理してくださって、“考察班”ってこんなにいるんだと、新しいドラマの楽しみ方をしている人たちを知ることもできました。


そんなふうに視聴者が知りたかった結末を、吉高さんは知っていたのでしょうか。

誰が殺人事件の犯人かというのは聞いていましたが、その人がどういう理由でどうやって罪を犯してしまうのかというのは知りませんでした。新井P、監督さんたち、脚本家さんたちが撮影を進めながらストーリーを練り、結末を決めたのだと思います。本当に切ないラストでしたが、犯人は苦渋の選択をしたわけで、それがすごく愛され注目されている人物だから成立したというか、皆さんの記憶と心に残った作品になったんじゃないかなと思います。


投票した読者、審査員、記者からは、吉高さんのリアリティーある演技が素晴らしかったという声が寄せられました。現場でも監督たちが吉高さんを天才だと絶賛していました。

ありがとうございます。でも、自分としてはいつもおびえながらやっていますよ。梨央は家庭環境が複雑な役で、悲劇に見舞われるわけですが、演じる上ではシンプルに「弟のために薬を作る」という目標を持ち続け、それがずっとぶれずにいるのが大事だなと思っていました。

高校生パートは制服姿が恥ずかしいので「早く終わってくれ」と思いつつ(笑)、まだ何も起きていない幸せな梨央を意識していました。大人になってからは、梨央というより周りで事件が起こっていくので、主演としてこの物語を引っ張っていくぞ!という感覚はあまりなく、むしろ受ける芝居が多かったですね。大ちゃんや加瀬さんをはじめとする周りに支えられ守られていたので、幸せでした。


大変なことが次々に起こり、梨央は泣くシーンが多かったですよね。

そうですね。「トレーニングかな?」と思うぐらい、毎回のように泣くシーンがありました。梨央が泣きだしたというよりは、泣かされたことも多くて、本番前のドライの段階で「こんな表情を見せてくれるんだ」と、相手役の人に感情を持っていかれホロっと涙が出たことも。やっぱり最初に演技を合わせるドライが一番新鮮なんですよね。

ただ、本番前がベストの芝居になったら、この仕事向いていないってことになっちゃうから、本番に自分のピークを持っていける技術を身につけないと、今後、長く俳優をやっていけないなとも感じました。そんなふうに客観的に感情の調整を考えたときも、もう芝居の流れに任せようと自分に丸投げしたこともあったし、すごく不思議な役でしたね。


泣くシーンが多いと消耗しそうですが、どのように乗り越えていたのですか? 特に第5話のラストで優(高橋文哉)が警察に連行されてしまうくだりは長い撮影になったそうですが…。

あの場面は一日中、泣いたり叫んだりしていて、もう鼻が取れるかと思いました(笑)。そういう日は、おうちに帰って乾杯ですかね。泣いて出した水分を取り入れる感じです。


梨央の恋人である大輝を演じた松下洸平さんと吉高さんのやり取りが、切なくて、かつほっこりすると好評でした。共演してみていかがでしたか。

松下さんは瞬発力があって演技の立ち上がるスピードが速い。それでいて自然な温もりもある人で、一緒にお芝居していて本当に面白かったです。現場では構えることなく、心をオープンにして新鮮な反応をしてくれる。返し方がとてもすてきなんです。例えば、梨央の部屋でご飯を食べた場面で座布団を取って渡してくれたのも、松下さんのアドリブ。そんなふうに予定調和にならないものを求めてくるというか、ハプニングを楽しむタイプでもあるので、大輝とのシーンはお互いのリアクションを楽しみにしていました。クランクアップのときは、松下さんと「寂しいね~」という話をしました。


梨央を高校生のときから支えてきた弁護士・加瀬を演じた井浦新さんとの共演はいかがでしたか。2008年に映画「蛇にピアス」でも共演していますね。

「蛇にピアス」は私がデビューして2年後の作品で、お互いにまだ場慣れもしていないし、場数も踏んでいない状態でした。不器用で尖っていた時期で、今だったら恥ずかしくて話せないことをむきだしで話していた相手で、井浦さんは恥ずかしい行動や思想をしていた私を知っているんですよね。

それから13年、お互いにいろいろな現場で頑張ってきて、この仕事が分かってきた今、また組んだので、感慨深いものがありました。井浦さんと一緒にいると、時間の流れを感じましたね。それがまた昔からお互いを知っている加瀬と梨央という関係性とすごく似ていて…。でも、社長と弁護士という立派な社会人役だったこともあり、2人で吹き出しながらやっていましたよ。「真面目な顔をして芝居をかけあっているのが本当におかしいね」って(笑) 。


「最愛」が終わったあとは、すぐに梨央役から抜けられたのでしょうか?

本当はもっと余韻に浸っていたいんですけど、すぐに次の作品の台本を読むことになりました。私は最近作品が切れ間なく続くことがなかったので、忙しい俳優さんはこうやって切り替えているんだなと…。違う服を着るとか、季節が変わってしまうという感覚で、ちょっと寂しいですね。とにかく今はクランクアップ後の打ち上げができないので、私から感謝の言葉を伝えることしかできず、スタッフさんがどういう思いでやっていたのかというのを聞く機会がないのが本当に寂しい。早く、一つの作品を作り上げて走りきったという感動を分かち合える時代に戻ればいいなと思います。


吉高さんにとって「最愛」はどういう作品になりましたか?

今後も自分の中に大きく染みつく作品ですし、これから懐かしさと愛おしさがどんどんふくらんでいきそう。こうやって多くのキャスト、スタッフさんと一緒に「最愛」に名前を刻めて良かったなと思います。原作のないオリジナル作なので、0から1を生み出し、それを10にするまでにはこんなに大変なんだと思い知った作品でもあります。完成させるまでの輪郭の整え方や物語の密度。そういった制作過程を一つ一つ見せて学ばせてくれたスタッフさんたちに、すごく感謝しています。

(取材・文=小田慶子)

最愛

殺人事件の重要参考人となった吉高由里子演じる実業家・真田梨央と、事件を追う刑事、そして、あらゆる手段で梨央を守ろうとする弁護士の3人を中心に展開するサスペンスラブストーリー。脚本はドラマ「リバース」(2017年)を手掛けた奥寺佐渡子と清水友佳子のタッグによるオリジナルストーリー。

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