ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第110回ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演男優賞 受賞インタビュー

(C)NHK

吉沢亮

オールアップの瞬間はブワーッときました

「青天を衝け」で主演男優賞を初受賞されました。感想を教えてください。

純粋にうれしいです。ドラマの賞をいただくのが初めてですし、「青天を衝け」は本当に思い入れがある作品なので。助演男優賞の草彅剛さんと一緒に受賞できたのも、さらにうれしいことです。

読者や審査員、記者から「渋沢栄一役はこれまでの吉沢亮と違う印象があり、最後まで高いエネルギーを持って演じ通した」と高く評価されました。やはりエネルギーというのは心掛けていたところですか?

そうですね。最終話も「青春はつづく」という題名だったように、渋沢栄一という人物は生涯チャレンジャーであり続け、一生が青春だったというのが演じる上でのテーマの一つだったので、彼から出てくるエネルギーとか生命力、その少年性みたいなものは、すごく大事にしていました。普段の僕のテンションを100とすると、7万くらい(笑)。そのぐらいまで爆上げして演じた感じでしたね。


栄一はどんな人物だと思いましたか。

クランクイン前からいろいろな資料を見たり体を作ったりもしていたけれど、結局、実感できたのはやっぱり演じてみてから。栄一は愛される人だなと思ったし、ただかっこいいだけではなく、成功した瞬間より失敗した瞬間の方が魅力的という人間くささがあり、仕事でも家庭でもいろいろやらかしてしまうところが僕は好きでした。


自分の中で栄一像を作り上げたという手応えはありましたか。

あれだけ長い間、一つの役を演じるということ自体、経験がありませんでしたし、自分の中に栄一という人物が入ってきたなという感覚はありました。ただ、年齢を重ねながらすごく成長していく人物なので、それに合わせ僕自身も成長しなきゃいけない。自分の中にいる栄一にいろいろなパーツを新たにはめていくなど、考えることもたくさんあったので、余裕という感じではなかったですね。最後まで気が抜けず、自分と向き合う時間が続きました。


イッセー尾形さんや中村芝翫さんといったベテランも出演し、「吉沢さんは完全に役に入り込んでいるので芝居のやり取りが楽しい」とコメントしていました。

イッセー尾形さんは、いろいろなことを面白おかしく仕掛けてくださる方で、僕も楽しかったです。そういうときは栄一としてその場にいないと笑っちゃうので、面白くても耐えるようにしました。中村芝翫さんもそうですが、僕が最初から栄一を演じているところに、新たに楽しい仲間が参加してくださったという感覚でした。大先輩を前にして緊張するというより、ワクワクのほうが強かったです。


中年期、老年期の栄一を演じるために体重を8kg増やしたそうですが、具体的にどうやったのですか。

スタートから中盤まではご飯を食べながら体を鍛えていたんですけど、栄一が40代に入ってからは筋トレを止め、ただただご飯を食べる生活に。朝もしっかり食べ、昼も大盛りのご飯を食べ、間食でおにぎりを食べ、夜もがっつり食べて寝る前にビールとカップラーメンみたいな(笑)。糖質オフの逆を行きました。

普段は少食なので、けっこう気持ち悪くなってしまって、それが一番ストレスでしたね。食事って本来は休憩時間で、おいしくいただきたいところなんですけど、全然体が休まらないという生活をしていました。増えた体重は、運動と食事制限、そして舞台稽古で戻せました。


吉沢さんは20代ですが、栄一の老年期を演じるときはゆっくり動くことを心掛けていたそうですね。

体の動きと会話のスピードはゆっくりに。ただ、最後まで栄一の少年性や熱が入ったときの迫力は失ったらいけないなと思ったので、そこが難しかったです。年を取りながらも栄一であり続けるというバランスが。

最終話、自宅でラジオ出演をするくだりは、栄一の最後のガッツあるシーンなので、どこまで元気に演じるかを監督と何度も相談しました。最初は「年齢を忘れて、20代の頃のエネルギーでやりますか」と話していたんですけど、「それはさすがにやりすぎか」とも考え、結果的にあの芝居に。なるべく若さは失わないように、でも、無理はしているというところを狙いました。


そしてついに栄一がベッドの上で亡くなった場面はどんな気持ちでしたか?

ひたすら「動いちゃいけない」というプレッシャーを感じていました。まつ毛がピクピクしてもダメだと。その緊張感しかなかったです(笑)。


すると、栄一役が終わったという実感はどの時点で?

やはりオールアップの瞬間です。NHKのスタジオでくす玉を割って、「渋沢栄一さん、オールアップです!」と言われたとき、号泣まではいかないけれど、ブワーッときました。クランクアップで涙が込み上げるというのは初めての経験でした。これまではわりとスンッとして、「ありがとうございました」と爽やかな感じで作品を終えてきましたけれど、栄一はやっぱりなかなかきました。


クランクアップのときは、「ハプニングや困難もあった」とコメントしていました。

撮影期間が延びたり、話数が短くなったりというのはありました。それは僕だけじゃなく、脚本の大森美香さんやスタッフの皆さんも大変な思いをたくさんしたはず。そんな中でもできる最大限のことをやり視聴者の方々に愛される作品になったのは、本当にプロ意識の強い人たちが集まっていたからだと改めて思います。


コロナ禍での撮影で、“主演である自分が体調を崩すわけにはいかない”というプレッシャーもあったのではないですか?

そのプレッシャーはすごかったです。クランクイン当初からギリギリのスケジュールだったので、もし僕が感染し撮影が止まってしまったら、さらに話数が減ってしまうかもしれない。その恐怖との戦いというか。だから、感染対策は徹底していました。撮影中は外食にも行かず、友達とお酒を飲んで騒ぐこともしなかった。ただ、それは、どこの現場、どのキャストもそうだったと思うし、それでもかかってしまう場合はあるわけで、「青天を衝け」の撮影が一度も止まらなかったというのは、めちゃくちゃ運が良かったんだなと思います。


2021年11月にクランクアップし、どの時点で栄一が抜けたと感じましたか。

今は舞台「マーキュリー・ファー Mercury Fur」の公演中で、その稽古が始まるまでは引きずっていたかも。それまで毎日ハードな撮影をしていたのに、終わった瞬間、急に何もしなくてもいい時間になってしまったので、「大丈夫かな」とそわそわしてしまいました。最初からずっと一緒にやってきた高良健吾さんや橋本愛ちゃん、プロデューサーさんや監督の皆さんに会わなくなったのも、寂しかった。その後、舞台稽古が始まり別の役に集中しなきゃいけなくなってから、何となく抜けてきたなという感じです。


助演男優賞を獲得した草彅さんにメッセージをいただけますか。

本当に草彅さんの慶喜あっての僕の栄一だったので、一緒に受賞できてうれしいです。僕にとって草彅さんは物心ついた頃からテレビで見てきたスターだし、そういうあこがれの気持ちも、“栄一が慶喜を尊敬している”という芝居に役柄を超えて乗っかっていたと思います。それで2人の関係性が表わせていたのかなと…。

草彅さんの芝居は本当に全てが印象的でしたが、やっぱり最後の共演場面になった40話、慶喜が栄一に「生きていて良かった」と言うところ。重厚感のあるシーンになるかなと思っていたら、草彅さんは淡々としていて、これまでの重厚感がありミステリアスな慶喜とは全然違う表情だったので、逆に食らいました。草彅さんのすごさが最大限に出た場面だったと思います。慶喜が爽やかに「快なり!」と言うので、リハーサルの段階で僕も言いたくなっちゃって「快なり!」と言ってみたんですけど、「あ、栄一が言うのは違うな」と思って止めました(笑)。


ドラマの後も草彅さんとは交流がありますか?

今、僕が出ている舞台「マーキュリー・ファー」の演出の白井晃さんが、直前まで草彅さんの舞台(「アルトゥロ・ウイの興隆」)を手掛けていて、その京都公演を見に行きました。慶喜とは全然違う、スター性全開でギラッギラの草彅さんがすごくかっこよかったです。僕の舞台も見に来てくださったらうれしいですけど、公演初日にはおいしい水の差し入れをいただきました。


大河ドラマ初出演で初主演。俳優としての評価も高まりました。ご自分で成長したと思うのはどんなところですか?

まずスケジュール的にこれだけ長期間の撮影を乗り越えた。「これが乗り越えられるんだったら、この先、どんなことでもクリアできるだろう」という思いがあります。でも、今の舞台は別の課題があり、またしてもパンチを食らってはいるんですけど。

演技の面では、セリフの言い回しや間の取り方、リズム感など、役者としての基礎的なスキルをものすごく考えながら演じる現場だったので、基本を鍛えられました。でも、正直、セリフが馬鹿みたいに多かったので、もしもう一度、大河ドラマに出られるのなら、セリフの少ない役がいいです(笑)。


2022年2月1日で28歳になりました。大河ドラマの主演という一つの達成を経て、これからどうしていきたいですか?

「青天を衝け」を経験し、今後も心から愛せる役や作品をやっていきたいなという思いが、より強くなりました。ここまでじっくりと役柄や作品全体のことを考え、渋沢栄一という人物をここまで深く好きになれて、ようやくこういう芝居ができるのかと。

もちろん未熟な部分もたくさんありましたが、こうして皆さんに愛していただける結果になったのは、結局は作り手側が作品を心から愛していたから。すごく愛のある現場だなと思ったし、そうじゃないとやる意味はないのかなとまで思いました。これからも「なぜ自分がこの役をやるのか」ということをもっと深く考えながら、芝居をしていきたいです。

(取材・文=小田慶子)
青天を衝(つ)け

青天を衝(つ)け

「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一の活躍を吉沢亮主演でドラマ化。幕末から明治へ、時代の渦に翻弄(ほんろう)され挫折を繰り返しながらも、高い志を持って未来を切り開いていく姿を描く。脚本は連続テレビ小説「あさが来た」(2015年9月〜2016年4月)などを手掛けた大森美香が担当する。

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