ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第115回ザテレビジョンドラマアカデミー賞最優秀作品賞 受賞インタビュー

(C)日テレ

ブラッシュアップライフ

ドラマプロデューサーとしての“2周目”が始まりそうです(小田玲奈P)

「ブラッシュアップライフ」で作品賞を受賞した感想を教えてください。

ありがとうございます。主演女優賞、助演女優賞、脚本賞、監督賞も頂きましたが、作品賞は、このドラマに関わった全員が受賞したということ。うれしいですね。映画はどちらかとえいえば監督のものというイメージがありますが、ドラマはみんなでアイデアを出し合うもの。今回はバカリズムさんの素晴らしい企画を基にみんなで作ったという、連続ドラマならではの醍醐味(だいごみ)がありました。

投票した人たちから「人生を何度もやり直すというありえない設定だが、描かれる人生はとてもリアルで共感できた」という意見が寄せられました。そもそもこのドラマはどうやって始まったのでしょうか。

私は「ZIP!」内の連続ドラマ「生田家の朝」(2018年ほか日本テレビ系)で初めてバカリズムさんとご一緒したんですね。バカリズムさんは日常の細かいニュアンスを面白く描く天才だと感動し、ぜひGP(ゴールデンプライム)帯で一緒にドラマを作りたいと思いました。

それで、いくつか企画を出してもらっていた中の一つが「ブラッシュアップライフ」でした。バカリズムさんの意図としては「タイムリープという仕掛け自体は壮大だけれど、やりたいのは普通の女性の地味な物語」だと。GP帯に地味な話をやっても大丈夫だと思えたのはやはり「生田家の朝」が面白かったから。あの作品がなければこんなドラマにはなっていなかった。全てがあそこから始まったという感じがします。


脚本賞を受賞したバカリズムさんの魅力はどこにありますか。

バカリズムさんにかかれば、家庭の話でも会社の話でも、どんなシチュエーションでも、リアルな会話になる。演者の方たちは、バカリズムさんの書くセリフをしゃべるのがすごく気持ちいいみたいですよ。セリフの量はあるけれど、説明ゼリフがなく、ストレスがない。何げない日常の会話なんだけれど、ツッコミもあってちゃんとオチをつけるところがすごいですよね。“極上の日常会話劇”という感じです。


台本を読むと、ト書きは少なくセリフの掛け合いでどんどん進んでいく感じですよね。

台本をもらったキャストやスタッフは、ある意味、挑戦状を受け取ったような気持ちになりますよね。「セリフとセリフの間で何をするんだろう、セリフを言いながらどんなことをするんだろう」と書かれていない部分を考えなければいけない。また、それをしたいと思わせてくれるホン(脚本)です。今回、その余白を表現することに対して、監督や安藤サクラさんをはじめとするキャストの人たちは本当に真摯(しんし)に取り組んでいました。


主演女優賞を受賞した安藤サクラさんの演技の素晴らしさはどういうところにありますか。

安藤さんはバカリズムさんの描く極上の日常を見事に表現していました。例えば、風が吹いてきて鼻がムズムズしたら、鼻をかむ。そのムズムズ感も芝居に採り入れ、そこから麻美は風邪を引きやすいという設定が出来たり…すごくないですか? やはり俳優さんとして最高峰の人だとは思うんですけど、さらに、その安藤さんと一緒にお芝居をしたいということで、普段ならゲスト出演はしないキャストにも出てもらえました。そういう点でも経験したことがない現場になりましたね。プロデューサーとしてはバカリズムさんと安藤サクラさんという天才二人をそろえられた時点で、もう勝ったなというか、面白いものになるという手応えはありました。


安藤さん演じる麻美が人生3周目で日本テレビのドラマ制作のAP(アシスタントプロデューサー)になる展開は、まるで業界ドラマのようでした。

そうですね。「小田P」という私に似たプロデューサーも出てきました(笑)。実は、「生田家の朝」の後にバカリズムさんと、実名を出してTV業界の裏話を描くという企画を考えていて、それがこのパートに生かせました。

でも、私は「日本テレビ」という名前にするのは嫌だったんですよ。会社の中でたくさん気を遣わなきゃいけないから、「『テレ日』がいい」と言ったら、バカリズムさんに「何ひよって(弱気になって)んですか」と言われ…。覚悟を決め、日本テレビの内部やドラマの裏側を赤裸々に見せました。でも、そうなると、うちのスタッフが衣装合わせやクランクアップの場面などで「実際はそうじゃない」とダメ出しするので、大変。“監修する人多過ぎ”問題で、エキストラさんにはご負担をかけてしまいました。本当に、テレビ業界編は撮影している間、変な汗が止まらないという感じでしたね。


小田さんの制作作品には「家売るオンナ」(2016年ほか)、「悪女(わる) ~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~」(2022年ともに日本テレビ系)などがありますが、このドラマでも自立した女性を描こうと意識しましたか。

今回、それはあまり意識しませんでしたね。そもそも企画の段階ではシスターフッドの話になるとは予想もしていませんでした。麻美の来世も鳩ではなくバッタとかシャケとか言っていたぐらいで(笑)。最終話の麻美たちも40歳になった後に誰かが突発的に結婚してあっという間に離婚したかもしれないし…描いてない部分は何が起きているか分からないですが、最終的には4人が高齢者施設で一緒に暮らす結果になった。そういう未来っていいなと思います。そもそも、女性が集まれば恋の話しかしないわけじゃない。なんなら、リアルではしないですよね。そういう現実をバカリズムさんが描いてくれました。


視聴者からの反応で印象的だったことはありますか。

スタート前は不安で仕方がなかったんですよ。麻美と同じ30歳前後の女性は共感してくれるだろうとは思っていたけれど、もっと若い層の人はどう思うのか、男性が見たらどうかと心配していましたが、先日取材で会った町工場の工場長も、寿司屋の大将も見てくれていたし、TikTokでPR動画を展開したのが効果的で、若い人たちも見てくれました。TikTokで面白いシーンを見て「本編も面白いのかも」と思って放送を見たらハマったという反応が多かったですね。

初回は視聴率的に良いスタートを切った感じではなかったけど、2回目、3回目と数字が伸びていったのは、そういうことだと思います。地上波のドラマは先細っていく一方だとも言われますが、そうではなく、やはりオンエアという同時代性があるので、みんなで一緒に楽しめることがまだまだ機能するのかなと、未来を明るく捉えることができました。


今回、高い評価を得たことは小田さんにとってどんな意味がありますか。

私はもともとバラエティからドラマに異動してきた畑違いの人間であるはずが、何本か作るうちにいつの間にか「ドラマはこうやって作るもの」というルーティーンにはまってしまっていたんでしょうね。がんじがらめになっていたというか…。今回、そういうセオリーに縛られないバカリズムさんや安藤さんの高い創造性に触れ、「こんな方法もあるんだ」と目が覚める思いでした。今は、ここで変わった意識を早く次の現場で実践したい気持ちで、今後もドラマをたくさん作っていきたい。ここから私のドラマプロデューサーとしての“2周目”が始まりそうです。
(取材・文=小田慶子)
ブラッシュアップライフ

ブラッシュアップライフ

安藤サクラが主演を務め、バカリズムが脚本を手掛けるタイムリープヒューマンコメディー。市役所で働く実家住まいの独身女性・近藤麻美(安藤)が、ある日突然、人生をゼロからやり直すことになる。気が付くと産婦人科のベッドの上にいて、目の前には若き日の父と母の姿があった。麻美の2周目の人生が始まる。

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