ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第115回ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞 受賞インタビュー

(C)日テレ

バカリズム

自分のやりたいことがほぼ100%できました

「ブラッシュアップライフ」で初めて脚本賞を獲得しました。受賞の感想を教えてください。

もうめちゃくちゃうれしい、単純にうれしいです。この作品では、通常の連続ドラマなら、制作費やロケ場所の都合、その他いろんなしがらみから発生する「これは無理です」という駄目出しがなく、台本の直しもなし。大変なのは単純に物語を生み出すことだけで、自分のやりたいことがほぼ100%できました。ドラマをやっていて、こんなに恵まれた環境はないという奇跡のような座組で、本当にキャストとスタッフの皆さん、監督さん、プロデューサーさんたちのおかげだと思いますね。

“あーちん”こと麻美(安藤サクラ)、“なっち”こと夏希(夏帆)、“みーぽん”こと美穂(木南晴夏)の仲良し3人組のやり取りについて、「女性のたわいない会話をこんなにリアルに書けるのはなぜ」という声が審査員や記者から寄せられました。

僕としては、そこはそんなに意識してないんですよ。わざわざ「女性の気持ちになって女子トークを書こう」としたわけではなく、「男でもこういう会話ってするよね」という感覚。わりと自分目線で女性でも男性でも共感できるようなことを描いたつもりです。それがたまたま今回は女性が主人公だから、女性特有の会話のように見えただけじゃないかな。


麻美は人生を何周もやり直し、市役所職員から薬剤師、テレビ局員、研究医、パイロットといろんな職業を経験していきましたが、脚本を書くために取材をしたのでしょうか。

そうですね。今回はその取材が大変でした。それぞれの職業の人にオンラインで話を聞いて、のべ50人以上の方に協力してもらいました。やっぱり実体験を細かく聞くと面白い部分が出てくるので、普通だったらドラマにならないようなことばかりしつこく聞いて(笑)。

例えば、理系の研究職の人に「研究室の顕微鏡は前の人が使った後、いちいち元の高さに戻さなきゃいけなくて面倒なのでは?」と完全に想像で質問してみたら、「まさにそういうことがあります」と言われました。薬剤師さんからは、薬局のオープン前に来ているのに頑なに自分で鍵を開けようとしない同僚がいると聞いて「何ですか、そのこだわり」みたいな感じで面白かったので、まんま反映させてもらいましたね。


第3話からはテレビ局が舞台になり、日本テレビの「花咲舞が黙ってない」「家売るオンナ」など、ヒット作の裏側が再現されていましたね。

テレビ局編は小田玲奈プロデューサーをはじめ、取材できる人がいっぱいいるので、かなり生々しい話も聞けました(笑)。それを台本にしたら「ちょっと生々し過ぎるからマイルドにしてもらえませんか」というリクエストもあったんですけど、「いや、これぐらいやらないと面白くないですよ」と説得し…。

実際のドラマを題材として使わせてもらうには権利関係でいろいろあるけれど、その作品を取り上げることによって配信で見る人が増えるというメリットを小田Pたちがプレゼンしてくれました。「お互いウィンウィンになれば協力してくれるんじゃないか」みたいな…。それにしても、「家売るオンナ」の仲村トオルさんなんて、ほとんど1シーンだけなのによく出てくれましたよね。「本当にいいのかな?」と半信半疑でした。


初めて組んだ安藤サクラさんはどんな俳優さんでしたか?

「こんなやりやすい人はいない」というぐらい素晴らしい女優さんです。最初は、安藤さんの民放連ドラ初主演ということで、「数々の映画で賞を取ってきた安藤サクラの顔に泥を塗るわけにはいかない!」というプレッシャーがあったんですよ。それで緊張もしていたんですが、実際に撮影が始まると、安藤さんの感情表現やリアクションが素晴らしく、自分が描いたものを何倍にも面白くしてくださる。キャラクターの心情を全部くみ取ってくれるというか、なんなら近藤麻美のことは僕よりも安藤さんの方が知っているという状態になったので、もう安藤さんにお任せしようと思いました。


バカリズムさんの台本は、ト書き(人物の行動や表情の説明)があまり書いていないですよね。例えば「麻美、笑顔になる」とか「涙を流す」のような…。

もともとト書きは多い方じゃないんですけど、安藤さんは細かく指定されるのが苦手かなと思ったし、お任せできる状態だったので、どんどん書かなくなっていきました。麻美が泣きたい時は、安藤さんが泣くだろうと…。特に、第8話でお葬式の後、麻美が朝までカラオケにいて帰宅する場面は、ト書きに「3人と歩いた通学路を1人で歩く麻美」としか書いていないんですよ。そしたら、あんな名シーンにしてくださって、やっぱすごいなって。もう安藤さんが麻美本人でしたね。


麻美が死んだときに行く真っ白な空間では、バカリズムさんが「受付の人」として来世か今世かを選ばせていました。脚本家と2人で演技するのは、安藤さんにとってやりにくかったのでは?

そりゃ、やりにくいですよね。安藤さんは「気を遣う~」と言っていました(笑)。僕はあの受付にいる時点で、演者でしかないんですけど、脚本家が現場に来ていると、チェックされているみたいで嫌だという、その気持ちもよく分かる。だから、出番があるとき以外は極力、行かないようにしていたけれど、脚本家の孤独を感じました。


「架空OL日記」(2017年日本テレビ系)でおなじみの夏帆さん、臼田あさ美さん、山田真歩さん、三浦透子さんも出演しました。

みなさん、よく出てくれましたよね。「架空OL日記」は僕が主演だったので、ずっと出ているうちにOL役の皆さんと仲良くなり、ドラマや映画版が終わった後も、年に1回ぐらい、みんなで焼肉とかに行っています。舞台になった「みさと銀行」から「みさと会」と名付けているんですが、本当に同僚みたいな感覚で付き合っていますね。


麻美が人生を5周するうちに、いろいろな伏線が回収されていくストーリー構成も高く評価されました。どうやって展開を考えたのですか?

最終的な形は見えてなかったですね。わりと慌てて足した部分もあり、つじつまを合わせるのは大変でした。例えば、真里(水川あさみ)が最終的にああなるのは、第2、3話を書いている時点では思い浮かんでいなかった。真里がパイロットというのも女性の憧れの職業を探していて、女性パイロットはまだ珍しいから、「同級生がなったというのは結構インパクトがあるな」というだけで設定したので、終盤、麻美までパイロットになるなんて考えてもいませんでした。4人組にするつもりもなく、「これがもともとは4人組だったら面白い」と途中で思いつき、まだ第1話を撮る前だったから、ファーストシーンに鳩が4羽いるというのを決定稿に付け足して…。そんなことの繰り返しでした。


最終話で、麻美たち4人は40歳になっているけれど誰も結婚せず、最後は老人ホームで仲良く暮らしている。そんなラストも画期的でした。

実は最初にバトルがあったんですよ。もともと僕は他人の恋愛に全く興味がないので、ドラマでもラブストーリーには反応しない。でも、プロデューサーさんからは「恋愛要素を入れましょう」と言われ、僕は「いらない」と反発したという…。その間を取って麻美の元カレを出すということになりました。40歳以降も結婚しない人というのも、実際に少なからずいますよね。結婚する人もいれば結婚しない人もいる。いろんなパターンの人生があるから、それぞれ幸せになってくれればいいなと。多様性が求められる今の時代を意識したつもりはないんですが、単純に自分がそう思っていました。


最後の質問ですが、投票した記者から「こんなに面白いドラマを書けるなんて、バカリズムさんは人生何周目ですか?」というのが来ています。

そろそろここらで言っちゃいますか。いや、どっかでは言わなきゃいけないなと思っていたんですけど、実は「ブラッシュアップライフ」を書いたのも…みたいな。劇中でも麻美が自分の人生をドラマにするという展開がありましたから、あの辺でバレるかな?と思ったんですけど。まぁ、人生何周目かだと思われても仕方ないかなということで、にごしておきましょうか。はっきり言っちゃうとね、ザワザワしちゃうので(笑)。
(取材・文=小田慶子)
ブラッシュアップライフ

ブラッシュアップライフ

安藤サクラが主演を務め、バカリズムが脚本を手掛けるタイムリープヒューマンコメディー。市役所で働く実家住まいの独身女性・近藤麻美(安藤)が、ある日突然、人生をゼロからやり直すことになる。気が付くと産婦人科のベッドの上にいて、目の前には若き日の父と母の姿があった。麻美の2周目の人生が始まる。

第115回ザテレビジョンドラマアカデミー賞受賞インタビュー一覧

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