ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第117回ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演男優賞 受賞インタビュー

(C)TBS

堺雅人

今後「転機となった作品は?」と聞かれたら「VIVANT」と答えます

「VIVANT」(TBS系)の乃木憂助役で「半沢直樹」(2020年)以来、6度目の主演男優賞を受賞しました。

「VIVANT」は、原作・演出の福澤克雄監督を始め、たくさんの人の力が結集された作品です。本当に素晴らしい作品を素晴らしい方々とご一緒できたなという実感があって、感謝したいと思います。これだけ大きい座組でしたので、お礼しなきゃいけない人が多過ぎて、誰からどうお礼を言っていいかよく分からないという状態ですね(笑)。
僕だけでなく、作品賞、助演男優賞、監督賞、脚本賞、特別賞を受けたということが、作品の質を証明していると思います。


堺さんが「素晴らしい」と実感されたのは、この座組のどんな点ですか。

よく福澤監督がおっしゃるのは「ドラマ作りに懸ける情熱はもちろん必要だけれど、それだけでもダメだ」。まず、台本が練り込まれていなきゃいけないけれど、頭でっかちになり、娯楽作品を作っているという本質を忘れてもいけない。だから、「熱い心と冷たい頭」の両方が必要なんでしょうね。しかし、その二つはなかなかそろわない。やる気に満ちていても、つまらないことしか考えられなかったら意味がないし、逆に、すごく面白いこと考えていたとしても、熱い気持ちがなければ人の心は動かせない。熱い心を持って作った作品だと思います。


乃木は商社マンでありながら、その真の姿は「別班」として国家のために暗躍する男でした。

乃木は本心を隠し任務を遂行しているけれど、ただクレバーなスパイというわけではなく、タクシー運転手にだまされるなど、人間味あふれるヘマもする。その乃木と阿部寛さんが演じた公安の野崎の関係など、スパイ同士の頭脳戦として展開するのは簡単だったと思うんです。しかし、この作品の面白いところは、そこに人の気持ちというか心情が同じぐらい必要とされていて、後半、乃木が愛を探しに行くというテーマがあったこと。孤独な生い立ちである乃木に、愛を知らないという欠落したところがあるのが、演じていてすごく楽しかったですね。


二重人格のような設定で、たびたび「F」という、もう一人の乃木が現われる。投票では、その演じ分けが見事だったという声が多数寄せられました。

福澤監督からは構想段階でお話を頂いたのですが、その時点でほとんど全話が完成していました。最終回までどうなるかを知った上で、Fはもう一つの人格というより、モノローグにもあるように「ピンチになったときに助けてくれるもう一人の強い自分」だと解釈していました。つまり、自問自答するときのもう一人の自分というものが、すごくはっきりとした形になったような…。そんなイメージでした。


普段の乃木とFでは、声の高さや口調、表情を意識的に変えていましたか?

そうですね。いわゆる多重人格の演じ分け、ジキルとハイドのようなことなのかなと思ったんですが、ちょっと違うかなという気がして、実はあまり考えずに演じました。台本には「F」と書いてあるところも、そうでない場面もあって、福澤監督からは台本以外で「この場面は乃木で、ここはF」という指示はありませんでした。分かりやすくFが出てくる場面としては、「頭が痛い」というポーズをしてから話すところ、アリ(山中崇)を尋問する場面とかラストシーンで「おいおい」と声をかけてきたのもそうですね。


投票では「『半沢直樹』のような強いキャラと弱気なキャラがどちらも見られ、堺雅人の“全部乗せ”だった」「セリフ一つごとに人格を切り換えていたのがすごい」という意見もありました。

そもそも乃木の中にも、強くいなきゃいけないときと、そうではないときがある。例えるなら、太陽光線を7色にスペクトラルに分けたときの一番強い紫色がFという感じですね。福澤監督からは「Fは半沢直樹のような強いイメージ」と言われ、とすると、乃木から半沢を引いた全てのものが乃木憂助と言えるかも…。だから、紫色に近い乃木もいれば、あまり強くない赤外線のような乃木もいると思うんです。皆さんが「この場面はFなんじゃないか」と考察してくれたけれど、「実は乃木なんだけどなぁ」と思いながら演じたところもありました。


やはり印象的だったのは最終話、ノゴーン・ベキ(役所広司)がかつて自分を見殺しにした上官に銃を向ける場面。乃木は父親であるベキを撃てないと躊躇(ちゅうちょ)しますが、その後、実際に撃ったのはFだったのでしょうか。

僕の中では、どちらか決めていましたが、見てくださった方の解釈にお任せしたいと思います。ただ、物語全体が、悩みや決断を重ねていく、乃木の成長ストーリーになればいいなとは思っていました。乃木は、生き別れの父親であるベキに再会してからも、「お父さん!」と簡単にはいけないのが、ちょっと面倒くさい人ですよね。その段階で普通に心を開けたらいいんでしょうけど、そこで、いろいろ考えちゃうのが、乃木らしいというか…。もし、脚本が当て書きならば、福澤監督にとっては僕がそう見えているのかもしれないです(笑)。


ベキ役、役所広司さんとの共演はいかがでしたか。

役所さんとは初めて本格的に共演しました。ご一緒する一瞬一瞬が本当に幸せで、いろんな気持ちを引き出してくださる、すごい役者さんだと思いました。対峙していると、頭がほぐされて、言葉にならない気持ちが糸を紡ぐようにどんどん自分の中から出てくる感じがしましたね。


野崎守を演じた阿部寛さんは助演男優賞を受賞しました。

阿部さんが演じた野崎という役は、福澤監督そのものだと思います。スケールの大きさと頭の良さと計算能力の高さと気持ちの熱さ…。第3話でバルカから帰国した野崎が、公安の部下の人たちに「お前ら、金出せ」と言って財布を取り上げ、一文無しの乃木たちに渡すじゃないですか。あのぶっきらぼうな優しさは、もう福澤監督にしか見えなかったです。


監督さんたちのお話では、堺さんと阿部さんは事前に打ち合わせするというより、撮影で実際に演じてみてから、次のテークで微調整していたということでした。

そうですね。福澤組は基本的にリハーサルをせず、一発目からカメラを回していくので、その一回目の勝負で出したものを、お互いに「そういくんだ」と確認しつつ、次で調整していました。阿部さんも僕に合わせ調節してくださったと思いますし、僕もプランをガラッと変えたところもありました。乃木は、野崎が相手だとリアクションの芝居が多いので、阿部さんの出方を見てびっくりしたり、びっくりした振りをして誘導したりということが多く、まず阿部さんの出方をとても楽しみにしていました。


2カ月のモンゴルロケもあり、大変な撮影だったと思いますが、終わった今、振り返っていかがですか。

モンゴルロケは楽しかったし、モンゴル語のセリフも難しくて苦労しながらも、現地の人のイントネーションを実際に耳にしながら話せたのは、良かったです。これは、この作品に参加した皆さんそうだと思いますが、2カ月も日本を留守にして仕事に集中でき、本当に家族に感謝ですね。これだけのエネルギーを注ぎ込めたのは、周囲の理解と協力がなければ絶対にできなかったことなので、改めて家族に感謝したいです。


堺さんがこの作品を経験して得たことはなんでしょうか?

今後もし、こういう取材で「転機となった作品は?」と聞かれたら、「VIVANT」と答えます。やはり、役者としてこれだけたくさんの引き出しを用意してもらったし、この役で手持ちのカードは全部使った感じがするので、特別な作品になりました。

(取材・文=小田慶子)
VIVANT

VIVANT

堺雅人が主演を務め、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李、役所広司が共演するアドベンチャードラマ。「華麗なる一族」(2007年)、「半沢直樹」シリーズ(2013年ほか)、「下町ロケット」シリーズ(2015年ほか)などのヒットドラマを世に送り出してきた福澤克雄が原作・演出を手掛けるオリジナル作品。

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