ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第117回ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞 受賞インタビュー

(C)TBS

八津弘幸、李正美、宮本勇人、山本奈奈

続編は分かりませんが、続きのストーリーは頭の中に…(原作・福澤克雄監督)

原作・演出を手掛けた「VIVANT」が脚本賞を受賞しました。長い時間をかけて準備されてきた作品ということですが、今、振り返っていかがですか。

ありがとうございます。作品賞を始め、脚本賞、監督賞など6部門受賞ということで、うれしいですね。この作品は、今の時代の流れで、地上波のテレビというものに危機感を抱かざるをえない中、ドラマを日本国内だけなく、「海外の人にも見てもらいたい」という気持ちを持って企画したものです。メインキャストの方々には、「もしかしたら大失敗するかもしれないけれど、他に誰も国外に出ていかないから、やりましょう」と言ってオファーしたところ、皆さん、脚本がない段階から即答で「やる」と言ってくださいました。

「半沢直樹」(2013年、2020年)の堺雅人さん、「下町ロケット」(2015年、2018年)の阿部寛さん、「陸王」(2017年)の役所広司さん、「ブラックペアン」(2018年いずれもTBS系)の二宮和也さんがそろい、まさに日曜劇場アベンジャーズといった布陣でした。

皆さんが集まってくださったのは、これまでの信頼関係もあるけれど、やはり、テレビ局がやってこなかった大型企画に参加したいと思ってくださったのでは。よく「海外ドラマに負けないものを」と言うけれど、海外の作品全てがすごいわけじゃない。でも、海外の優秀な作品のようにワクワクする面白いものを作ろうとは思いました。

まず、日本の治安維持のために暗躍する自衛隊の別班員を主人公にするということを決め、その物語をリアルに成立させるには、日本の会議室みたいなところで始めてはダメで、砂漠という舞台が必要だと思いました。それでモンゴルロケをすることになり、モンゴル人キャストにも出てもらって…とストーリーを考えていく中で、規模も膨らんでいき、当然お金もかかることですから、もしコケたらどうしようという恐怖はありましたね。正直言いますと、オンエア前は恐怖しかなかった。


今回の脚本は、福澤さんが原作をつくり、日曜劇場の作品を多く書かれている八津弘幸さんと、李正美さん、宮本勇人さん、山本奈奈さんという若い脚本家3人のチームで作ったそうですね。

今回は、私が原作者ということになっていますが、小説やプロット(あらすじ)を書いて渡したわけではありません。プロットで文章にしてしまうと、面白い台本はできないと思っているので、頭の中で映像を思い浮かべながら、李さん、宮本さん、山本さんに、毎日、会議室で一つ一つのシーンを書いてもらいました。「これは違う」と言うことも多かったけれど、それぞれの良いところを組み合わせて台本にまとめ…。八津さんはそれを最終的にチェックしてくれました。今回はその体制で若い作家を育てようとする新しい試みでもありました。


審査員や記者からは「たくさんの謎を仕掛けながらムダに引っ張らず、どんどん真実を明らかにし、スピード感があった」「先の読めない展開が続いた」「壮大かつ緻密な構成に脱帽」と脚本を評価されています。

そういったことは計算しましたね。とにかく連続ドラマのセオリーを崩したかった。日本のドラマは第1話で全てを説明してしまいがちだけれど、むしろ、何のドラマだか分からない、見る人が混乱するような出だしがいいのではと思いました。だから、第1話では「ヴィヴァン」という言葉が「別班」とは明かさず、全てを見せないようにし、第4話で初めて乃木が別班だと明らかになって、物語が加速していくように考えました。


主人公の乃木(堺雅人)には、もう一つの人格“F”があって、普段の乃木は弱気な商社マン、Fは強くて優秀なスパイという二重人格のような設定にしたのは、どうしてでしょうか。

無意識にスパイとして動くFがいないと、弱っちい乃木は全部芝居だったということになってしまう。それでは見る人に乃木を好きになってもらえない気がして、嫌でした。それに現実にも、もう一人の人格と話しているような人っているでしょう。そういうモデルもいたので、本当の乃木は弱いけれど、司令塔のような人格もあるという設定にしました。そのFは第1話で盗聴器を仕掛けられたことに気づいていたし、アリ(山中崇)のスマホからデータを抜き出そうとしていたというような伏線も随所で張りつつ…。


弱い乃木が人間ドラマのパートを担い、後半、生き別れの父親と再会したり、薫(二階堂ふみ)と恋愛関係になっていったりするというジャンルの転換も見事でした。

最初はそこまで計算していませんでしたが、乃木だけでなく、キャラクターを好きになってほしいとは思っていました。だから、バルカ警察官のチンギス(Barslkhagva Batbold)とドラム(富栄ドラム)の人気が出て、うれしかったですね。第1話から3話で、乃木たちがあの恐ろしいチンギスから追われ、死ぬ間際までいった逃走劇があったからこそ、最終回のチンギスの行動が生きてくる。そこはうまくハマったかなと思います。


劇中のせりふにもありましたが、乃木とチンギスの関係などを通し、所属する組織や立場の違いがあるから分断が生まれるけれど、それを乗り越えられるということを描きたかったのでしょうか。

そうですね。まずは面白い展開ありきでしたが、こういった世界を舞台にするからには、テロが起きる場には憎しみがある、起こす側にも理屈があるということは少し描きたかったですね。また、ベキ(役所広司)のセリフにも込めましたが、日本人には信仰が違う人たちも許容する良さがあるというのも描きたかった。


続編を望む声もたくさん寄せられています。実現しそうでしょうか。

それは私が決められることではないので、分かりません(笑)。ただ、続きのストーリーは頭の中にはあって。もし続編が作れて、それらのアイデアが形になったらうれしいですね。

(取材・文=小田慶子)
VIVANT

VIVANT

堺雅人が主演を務め、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李、役所広司が共演するアドベンチャードラマ。「華麗なる一族」(2007年)、「半沢直樹」シリーズ(2013年ほか)、「下町ロケット」シリーズ(2015年ほか)などのヒットドラマを世に送り出してきた福澤克雄が原作・演出を手掛けるオリジナル作品。

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