ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第119回ザテレビジョンドラマアカデミー賞最優秀作品賞 受賞インタビュー

撮影=石塚雅人

不適切にもほどがある!

宮藤官九郎さん、阿部サダヲさんの呼吸がぴったり合っていました(磯山晶P)

「不適切にもほどがある!」で作品賞を受賞した感想を教えてください。主演男優賞、助演女優賞、脚本賞、監督賞、ドラマソング賞も併せ6部門の受賞です。

磯山晶P:作品賞と6部門の受賞、とてもうれしいです。これまで宮藤官九郎さんと連続ドラマを10本作ってきましたが、3作目の「マンハッタンラブストーリー」(2003年TBS系)のときは視聴率が思わしくなかった中、作品賞を受賞できてすごくうれしかったことが記憶に残っています。
天宮沙恵子P:ありがとうございます。私は入社7年目で、まさに学生の頃から磯山さんと宮藤さん、金子文紀監督の作品を見てきました。今回、プロデューサーとしての初参加で、夢がかないました。


投票した方からは「ミュージカルシーンが斬新で毎週楽しませてもらった。昭和と令和の風潮や常識の違いをタイムリープという形で比較でき、分かりやすかった」という意見が寄せられました。昭和61(1986)年の中学校教師が令和6(2024)年にタイムスリップし、不適切発言をしまくる。しかも、毎回ミュージカルがあるという内容はどのようにしてできたのですか。

磯山:まず2年前にインド映画の「RRR」(※ナートゥダンスが話題になったミュージカル・アクション作)が公開されたとき、宮藤さんと「見ました?」「見ました、見ました」と興奮気味に話をしたんですね。そして、宮藤さん脚本の「いだてん~東京オリムピック噺~」(2019年NHK総合ほか)で阿部サダヲさんが演じた“まぁちゃん”(田畑政治)がオリンピックの選手村で踊るシーンがあって、それが素敵だったなという記憶もあり…。じゃあ、ミュージカルありきで、中年のおじさんが頑張っている話がいい、ということになったんです。

昭和には“まぁちゃん”のように遠慮なしに発言する人がたくさんいたと思うけど、もし今いたらすごく迷惑なはず。そんな人がタイムスリップしてきて不適切なことをどんどん言っちゃって、みんながあたふたする。そういう話を宮藤さんに書いてもらいました。


最初の方に出てくるテロップ「この作品には不適切な台詞や喫煙シーンが含まれていますが…(中略)1986年当時の表現をあえて使用して放送します」も話題になりました。

磯山:不適切なセリフにはピー音をかぶせようとも考えたんですが、そうすると何を言っているのか分からないので、まず、最初に“おことわり”を入れてしまおうと。「冒頭にテロップを出そうと思っています」って⾔ったら、みんなに「⾯⽩そうですね」と⾔ってもらえたので、いけるかなと思いました。結果的に「チョメチョメ」「ブス」と⾔っても、お叱りの声はほとんど来ませんでした。


令和をコンプライアンスに厳しい社会と描きましたが、市郎がテレビ局で働く展開にしたことで、「テレビ局も自主規制をしてきたのでは?」という視点も出てきました。

磯山:やはりテレビ局が不適切ということに対して最も敏感だし、放送で不適切発言があったらすぐ謝罪しなければならない。そういうリアルなことが描けるので、渚(仲⾥依紗)はテレビ局のAPにし、市郎も局で働くことにしました。宮藤さんと「(この表現は)ダメだって⾔われて、“じゃあ、どう⾔い換えよう?”みたいなことはよくあるけど、“なぜダメなのか?”ってことをみんなもっと話し合った方がいいですよね」と話していましたが、今回、それを描けたのはよかったと思います」


ドラマで描かれたように、テレビ局ではSNSでの反応をそんなに気にしているのかという驚きもあったのですが。

磯山:それは多少コミカルに描きましたし、現実には、ドラマのようにスタッフがテーブルを囲んでリアルタイムでSNSの感想を読み合うということはないですけれど、やっぱり見てはいます。「昨日こんなポストがありましたよね」という会話はスタッフ内でしますね。「世界トレンド1位」を取ったというようなデータが局内で回ったりもしますが、 “世界”と言っても、その時間帯に地上波放送を見て一斉にポストするのは日本人ばかりということだろうし、“そこまで大事な指標なのかな?”という気もしますね。


脚本賞を受賞した宮藤さん、主演男優賞を獲得した阿部サダヲさんのすごいと思うところは?

磯山:やっぱり宮藤さんは阿部さんのお芝居に対する信頼と想像と理解が深くて、すごくいいことを言う場面も、不適切なこと言う場面も、その表現のさじ加減で、おふたりの呼吸がぴったり合っていてすごいなと思います。宮藤さんの台本だけ見ると「ここはもう一言あってもいいのでは」「ちょっと言い過ぎなのでは」と思う場面が、阿部さんが演じると、ちょうど良くなる。最終話の卒業式では中学生を送り出す市郎が「もう一個ぐらい泣けること言ってもいいんじゃないかな」と思ったけれど、阿部さんが「お前らの未来は面白えから」「大人の話なんか聞かなくて結構!」と言うだけで、泣けてくるんですよね。


宮藤さんと阿部さんは同じ劇団のメンバーで32年の付き合いにもなるわけですが、磯山さんから見た2人の関係とは?

磯山:どうでしょう。長年組んできた漫才コンビみたいな感じですかね。そこにはすごい信頼関係があるけれど、楽屋は別々みたいな(笑)。

天宮:私から見ると、宮藤さんと磯山さんのコンビネーションも、すごいと思います。おふたりの間には目指したい作品の方向性や伝えたいメッセージが明確にあるんですよね。宮藤さんならではの感性と、磯山さんの「ここはブレさせたくない」という思いがすごく絶妙なバランスで交差し、いい作品ができていく過程を、今回、間近で見られて感動しました。


毎回、新しい曲でミュージカルをやったことでの苦労はありましたか。

磯山:まず宮藤さんが台本に歌詞を書き、それに例えば「QUEENみたいに」というイメージを付けて作曲のMAYUKOさんにお願いするんですが、すごく速くて、1⽇ぐらいで曲が送られてくる。MAYUKOさんは元々、めちゃくちゃミュージカルオタクだったらしいです。キャストの歌の録⾳をディレクションしてもらうのですが、柿澤勇⼈さんや池⽥成志さんのときは特にテンションが⾼かったです(笑)。楽しそうにやってくださってうれしかったですね。その後の本番もたいていはスムーズでしたが、第9話の「決めつけないで」で、古田新太さんが団地の外で歌うワンマンショーは大変でした。

天宮:あのときはすごい強風で…(笑)。

磯山:とにかく暴風で花粉も飛んでいたので、みんな撮影に集中できない状態になり、“足のステップに気を取られると、口が開いてない!”といった地獄のような状況になりました。古田さんには苦労をかけてしまいましたね。


撮影スケジュ―ルの大変な連ドラで毎回違う曲のミュージカルを見せられたという達成感はありましたか。

磯山:そうですね。その意味ではちょっと可能性を広げたかもしれませんが、それは今回の役者さんたちが、みんな歌がうまかったから成立したと思います。ダンスを覚えるのも早かったですし…。笑いとミュージカルがあることで、いつも以上に楽しんでもらえ、エンタメのパワーを改めて感じました。


最終話のミュージカルでは「お互いに寛容になりましょう」というメッセージを伝えていました。

磯山:そうですね。そして、最後のテロップで「2024年当時の表現をあえて使用して放送しました」としたように、現時点での私たちの理解の範疇で描いたけれど、少し後の時代にこのドラマを見たら、きっと「令和、かなりやばい」ということになる。でも、私たちは今後も進歩するはずだから、この時はこんなことで悩んでいたんだねという一つの記録になるといいなと思います。

(取材・文=小田慶子)
不適切にもほどがある!

不適切にもほどがある!

阿部サダヲ主演の“意識低い系タイムスリップコメディー”。ひょんなことから1986年から2024年の現代へタイムスリップしてしまった“昭和のおじさん”小川市郎(阿部)が令和では考えられない不適切な言動を繰り返していく。共演は仲里依紗、磯村勇斗、吉田羊ら、脚本は宮藤官九郎が手掛ける。

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