ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第119回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞 受賞インタビュー

(C)TBS

金子文紀、坂上卓哉、古林淳太郎、 渡部篤史、井村太一

理解し合うことで寛容になれるということを終始貫いて描けた(金子文紀監督)

「不適切にもほどがある!」で監督賞を受賞した感想を教えてください。金子文紀チーフ監督は「俺の家の話」(2021年TBS系)以来の受賞となります。

金子(第1、2、5、7、10話演出):ありがとうございます。この賞は何度もらってもうれしいです。今回の演出はこの5人。これまで僕の助監督をやってくれた人たちが、各話を担当してくれています。みんな、気心が知れているから楽しく仕事できるし、結果的に作品も良くなるのではという考えで組んだ体制だったと思います。
坂上卓哉:そうですね。とても楽しい撮影でした。僕は第3話を担当しました。こういったドラマ賞をもらうのは初めてで、すごくうれしいです。すぐ親に連絡しました(笑)。

古林淳太郎:私は第4話と第9話です。宮藤官九郎さんの作品もミュージカルも初めての挑戦で、受賞できたのは頼もしい役者さんたちのおかげだと思います。

渡部篤史:第6話を演出しました。僕もドラマの賞をもらうのは初めて。僕だけフリーランスなのですが、このチームに参加できて、とてもうれしかったです。

井村太一:監督賞、ありがとうございます。ずっと見てきた宮藤官九郎さんと磯山晶プロデューサー、金子監督の作品に参加することができて、楽しかったです。学生の頃はそれこそ、「木更津キャッツアイ」(2002年TBS系)などを見て「こんなに面白いドラマをどんな人たちが作っているんだろう?」と思い、こういう雑誌のインタビューなどを読んでいました。


投票した審査員、記者からは「第1話、突然始まったミュージカルシーンで度肝を抜いた」「毎回、ミュージカルのパフォーマンスや撮り方に工夫があった」という意見が寄せられました。

金子:最大の課題はそのミュージカルシーンでした。僕はミュージカルなんて撮ったことがなかったし、どちらかというと演出するのに苦手意識があるぐらい。どうしようかと思ったんですけど、撮り始めたら、宮藤さんの脚本の面白さと、阿部サダヲさんを始めとする役者の皆さんの演技力のおかげで、そんな不安はどっかに行っちゃいました。

古林:僕もミュージカルは初めてなので、手探りでしたが、役者さんたちは慣れている人が多かったし、慣れてない人はたくさん練習してから本番に挑んでくれました。特に第4話と9話はカラオケもあって歌唱シーンが多く、演出方法に悩んでいると、役者さんが一緒に考えてくれ…。本番ではもう普通にお客さん目線になって楽しんで、現場でこんなに笑いながら撮ったことがないというぐらいでしたね。

井村:本当にすごいキャスト陣でした。次はこういうニュアンスで演じてくださいとお願いすると、阿部さんのセリフのニュアンスが微妙に変わって、そのセリフを受ける人も反応していく。ここまで芝居を柔軟にできる人たちがそろっている現場は初めてで、感動しました。

渡部:演出した第6話のミュージカルは「17歳」という曲で、河合優実さん演じる純子が初めてソロで歌う回。河合さんの歌がすごく上手かったので、みんな感動して、「歌手活動をすればいいのに」という話になったぐらいでした。テレビ番組の撮影スタジオでたくさんの人が参加する曲でもあり、本番はにぎやかでとても楽しかったです。

坂上:僕が担当した3話は全体でも一番というぐらいコメディー要素が強く、八嶋智人さんがご本人役で登場し大活躍する回でした。撮影前からみんな台本を読んで爆笑しているし、八嶋さんはじめ、キャストの皆さんが充分に面白いので、僕が何かを付け加える必要はないと、自己流の演出は控えました。ただ、阿部サダヲさんがQUEEN風に歌う「Everybody Somebody's Daughter」だけは、スポットライトの照明にめちゃくちゃこだわりましたね。

金子:流れとしては、宮藤さんが歌詞を書き、それを作曲のMAYUKOさんがノリノリですぐ曲にしてくれる。ここまでのスピードは速いけれど、そこからキャストの皆さんが練習して先に録音をする。同時進行で、僕たちがどこで撮るかを考え、ロケハンをする。場所が決まったら、配置や人数、動きなど、ここならこういうことができるんじゃないの?といった全体のプランを考え、振り付けの八反田リコさんと打ち合わせして個々の振り付けを考えていただき、リハーサルでみんなに全部をマスターいただいてから、やっと本番でパフォーマンスを撮る。その繰り返しは、やっぱり大変でした。

第1話の「話し合いまSHOW」では、最初の打ち合わせから本番まで1カ月以上かけられたので、最初にミュージカル経験のない磯村勇斗くんが歌い出すという、このドラマの成否がかかった出だしも時間をかけて準備できたけれど、やっぱり後半はどんどん時間がなくなっていきましたね。

最終話の「寛容になりましょう!」は、昭和と令和のキャストが17人も勢ぞろいしたから、大変でした。準備時間もなかったので、パフォーマンスとしてはそんなに難しいものにせず、みんなで楽しく踊れるものを…。あの曲は植木等さん風なんですが、そういう楽しさ、明るさは出せたんじゃないかと思います。


昭和61(1986)年の風景、室内はどうやって映像にしたのでしょうか?

金子:その当時、僕は中学3年で井上(中田理智)たちの一つ上。実家から昔のノートとかウォークマン、クルクルドライヤーを持ってきて、純子の部屋などに飾りました。磯山Pも私物を出してくれましたね。美術、小道具さんも頑張って骨董市などで昭和のものを集めてくれました。

問題は外の景色で、ロケハンするまでは「全部背景CGにしなくちゃいけないのかな」「いっそ生成AIで昭和の街を描いてもらうか」とまで想像がふくらんでいたけれど、いざ舞台となる墨田区や葛飾区の下町に行ってみたら、商店街や住宅地には古めの建物が多くあり、実はそんなに昭和と変わっていない。きらびやかな看板や自動車さえ映さなきゃ大丈夫だと分かって、そこは意外と苦労しませんでしたね。引きで撮ったとき、スカイツリーを消す必要はありましたが。


テレビ誌の記者からすると、TBSのドラマが長年撮影されてきた緑山スタジオ(横浜市)のエレベータ付近が出てきた(第3話)のが面白かったです。そのまま昭和のテレビ局として使えたんですね。

金子:たしかに。昭和57(1981)年にできたスタジオですからね。そのまま使えた。

坂上:僕の演出回でしたが、ここ数年で壁を塗り替えたから、白くきれいになっちゃっていましたけれど、作りはほぼ当時のままでしたね。

金子:でも、1986年の物語を1981年に建てられたところで撮るんだから、まだ新しくてきれいだったということでいいんじゃない?

坂上:なるほど、そうかもしれません(笑)。


「いろんな人の考え方や対立を描きつつ、こうしましょうというメッセージはミュージカルで伝えるという手法が新鮮だった」という感想もありました。

金子:一番伝えたいメッセージを普通にセリフで言うのはどうも照れくさいというか、下手したら「寒い」と思われかねない。宮藤さんの作品では、説教くさいものとか野暮ったいことを極力やらずに何十年もきたので、今回はそれをミュージカルにすることでうまいこと作れたんじゃないかなと思います。歌詞にテロップをつけるから、むしろ普通のセリフよりも文字でダブルに伝わるというのも良かったです。


金子さんは「親ゆび姫」(1999年)、「池袋ウエストゲートパーク」(2000年共にTBS系)の頃からずっと宮藤さんと組まれてきましたが、いつになくメッセージがストレートに出ている作品だったのでは?

金子:僕たちも年齢を重ね、今の世の中に伝えたいメッセージというか、「こういうことなんじゃないの?」と提案するような年代になったんだなと思いましたね。僕の解釈では今回の宮藤さんのメッセージは「昭和は良かった」「いや、令和がいい」ということではなく、お互いに理解し合うことで寛容になれるし、前向きに生きていけるよということ。それを第1話の「話し合いまSHOW」から最終話の「寛容になりましょう!」まで、終始貫いて描けたことは本当に良かったと思います。

(取材・文=小田慶子)
不適切にもほどがある!

不適切にもほどがある!

阿部サダヲ主演の“意識低い系タイムスリップコメディー”。ひょんなことから1986年から2024年の現代へタイムスリップしてしまった“昭和のおじさん”小川市郎(阿部)が令和では考えられない不適切な言動を繰り返していく。共演は仲里依紗、磯村勇斗、吉田羊ら、脚本は宮藤官九郎が手掛ける。

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