ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第95回ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞 受賞インタビュー

撮影=西田周平

宮藤官九郎

「木更津キャッツアイ」のスピード感でドラマを書きたくなったんです

今回で11回目の受賞となり、脚本賞はもちろん、全部門で最多受賞記録となります。今回の受賞の感想を聞かせてください。
最多受賞ですか、なんかすみません(笑)。このドラマを書いたきっかけは、3年前、「ごめんね青春!」('14年TBS系)を作っていたとき、TBSの磯山晶さん(編成企画)と金子文紀さん(プロデューサー/ディレクター)と3人で「次はどんなドラマを作ろうか」と話したことでした。そのとき希望したとおりの理想的なキャストが3年がかりでそろったこともあり「このメンバーを集めておいて普通に手堅いドラマ作ってもしょうがないんで」と宣言しました。磯山さんと「木更津キャッツアイ」(‘02年TBS系)を作ったのはもう16年前になりますが、あのころの情報量とスピード感でまたドラマを書いてみたくなった。ちょっと攻めるというか、ある意味、集大成のつもりで臨みました。
まさに「おばさん版木更津キャッツアイだ」という評も寄せられました。攻めるものを作ろうと思ったのはどうしてなのでしょうか?
磯山さんがリアルタイムの感想をチェックしてくれたんですが、「時間が行ったり来たりするのが分からない」という声もあったみたいで、そういうのが苦手な人が増えているという感じはしますね。僕は、時間を巻き戻したり、時系列をバラバラにするのが好きなんですが、「視聴者はSNSをやりながら見ているから分かんないんだよ」という声もあったりして、確かにテレビを集中して見ていないだろうなぁと…。でも、僕みたいな作り手が(ながら視聴向けに)“ちょうどいい”ドラマをやってもしょうがない。むしろスマホを触っている指を止めたい、ドラマがスマホに勝ってほしいという思いでした。だからあえて、見ていて混乱するような、話がどこに行くのか分からないものを目指したんです。どこかで「それを今、俺がやんなきゃな」という勝手な使命感がありました。
宮藤さんにとって磯山さん、金子さんはどんな存在なのでしょうか?
デビュー作からご一緒してますが、普段やらないことも磯山さん、金子さんと組むときはできる気がします。「監獄のお姫さま」はこの3人だからこそできた企画。3人のバランスがいいんですよ。金子さんは理系的な考え方の人なので、誰も気にしないようなことも気にしてくれる。だから、僕がその場の面白さだけで書いた台本じゃダメかと思い直せる。そして、磯山さんは客観的にこの作品がどう見えているかということを考えてくれるし、同時に磯山さん的に譲れないというか、趣味的な部分も持っている。どちらもドラマを作る人として信頼できるんです。かと言って3人だけで完結しているわけではなく、お互いに違う人とも組んでドラマを作っているわけです。外で受けてきた刺激や見たものを反映するからこそ長く続いているのかなと思います。僕にとっても、最初に連続ドラマを書いたとき(悪いオンナ「占っちゃうぞ」’00年TBS系)からの付き合いですから、ドラマ作りのベーシックな場になっていますね。ベースではあるけれど、このユニット自体も変わり続けているんですね。
宮藤さん個人で見ると、「木更津キャッツアイ」から「ゆとりですがなにか」(‘16年日本テレビ系)まで若い男性たちを描いてきたイメージが強いので、中年女性という題材は新機軸だったのではないでしょうか?
「木更津キャッツアイ」を書いたころは、主人公のぶっさんたちの会話がどんどんドライブしていくのが、自分としてもしっくりきたし面白かったんです。でも、今の僕から見ると、若い人たちの会話が、そつがないというか、本音で話していない感じがしちゃって、自分の思考が入れづらい。それよりは、おばちゃんたちのトークの方が、話題があっちいったりこっちいったり、言葉が出てこなかったりと無軌道で、入り込みやすい気がしたんです。それで3年前に磯山さん、金子さんと話したとき、「小泉今日子さんたちが刑務所の中にいてずっと仮想の話をしていたら面白いよね。それで年下の満島さんに怒られていたら…」と考えて、それなら何も事件が起きなくても書けるなって思ったんです。逆に今、「木更津―」のような話を書いてくれと言われたら、「ゆとりですがなにか」のように若い人たちがお互いに刺さることを言い合う形になっちゃう。それは自分のチャンネルとしてはありますけれど、「ゆとり―」でやったばかりだったので、今回はもっとどうしようもないことやりたかったんです。
完成したドラマを見て、キャストの皆さんの演技はどう思われましたか?
皆さん素晴らしかったのですが、特に馬場カヨを演じてくれた小泉さんがすごく新鮮だなぁと思いました。「マンハッタンラブストーリー」(‘03年TBS系)のとき、小泉さんは30代で、恋愛体質のタクシーの運転手役。当時の小泉さんにとって新しい役どころだったと思いますが、今回は“愚鈍なおばちゃん”という役柄になって、あんなにうまく演じてくれるとは思いませんでした。馬場カヨという人物のどこが面白いかっていうことを自分で見極めて、そこからあえてズラしていくというか外していくというか、そのさじ加減が絶妙でしたね。15歳ぐらい下の塚本高史くんとの恋愛も成立するかなぁと思ったけれど、まったく違和感がなかった。それでいて「あまちゃん」(‘13年NHK総合ほか)の春子みたいに強気な部分もちょこちょこ出てくる。見ていて筋が通っていて面白かったですね。
今回、助演女優賞は“先生”こと刑務官の若井ふたばを演じた満島ひかりさんが受賞されました。満島さんの演技はいかがでしたか?
「監獄のお姫さま」は前回、満島さんに出てもらった「ごめんね青春!」を書きながら考えたストーリーで、最初のアイデアは「満島さんが年上の女性に当たり散らす」というものでした。それで、刑務官という設定なら囚人のおばちゃんたちも力関係があるから逆らえない…。それがそもそもの発端なので、満島さんが若井を演じてくれなければ、このドラマ自体、成立しませんでしたね。そして、仕上がりを見ると、満島さんの演技が毎回すごい。刑務官としてビシっと決めてほしいところは決めてくれるし、婚活に走るような女子力を出してほしい場面はちゃんと出してくれるし。特に第8話で、馬場カヨが出所トレーニングする場面は若井も思わず涙ぐんでしまうんですが、真に迫っていて、あんなふうに演じてくれると、脚本家としてはなんの心配もいらないですよね。あと、第4話で「何か言いたいのは分かるけど何が言いたいのか分かんないのよ、おばさんは、愚鈍!」と言う場面、「愚鈍」の言い方が完璧だったのは、さすがだったなぁ。「そうそう。そういうふうに言ってほしかったんだよ」って思いました。僕の作品だけでなく、「カルテット」(‘17年TBS系)の満島さんも全然違う人物になっていて素晴らしかったし、満島さんの中に “演技の正解”ってあるんだろうなぁと思いますね。
伊勢谷友介さんが演じる吾郎が、馬場カヨの夫として出てくるなど、いろんな男性を演じていました。これは宮藤さんのアイデアだったんでしょうか。
そうですね。彼女たちにとっての悪い男を全て伊勢谷さんにやってもらって、吾郎という男が世の中のイケメン&クズ男代表に見えればというねらいでした。それはまず僕の作品に伊勢谷さんが出てくれるのは初めてだったので、どんなふうにお芝居をする人なのか、いろいろ演じてもらって早めにつかんでおきたかったんです。それに、展開上も吾郎には誘拐されてからずっと縛られているという制約があったので、回想シーンでカヨの夫や千夏(菅野美穂)の父を演じてもらいました。逆に決めていなかったのは、第9話で千夏が殺されたユキ(雛形あきこ)に成り代わる場面。そのアイデアが浮かんだので、菅野さんの衣装をユキに似た衣装に替えてもらいました。それで菅野さんが「ライク・ア・バージン」を踊るあの場面になった。まったくの思いつきですが、連続ドラマってそうやって途中で変わっていくのが面白い。最初に決めたとおりやるんだったら面白くないし、窮屈ですよね。今回は意外に決まりごとが多かったので、それを壊したいという気持ちもありました。ルールを自分で作って自分で壊すということができるのが連ドラを書く面白さ。左脳で考えて右脳で壊していた気がします。
最終回では「どのおばさんも、みんな、誰かの姫なんだよ」という、もう若くはない女性を肯定してくれるセリフが出てきて、画期的でしたし感動的でした。
やっぱり塚本高史くん(宮藤作品4作に出演)にはいいセリフを言ってほしいと思って、最終回にとっておいたんです。そもそもの発想として、ドラマの世界では中高年女性の役が限られているような印象がありました。さっそうとしてバリバリ仕事ができる女性という描き方しかないのかと…。現実社会で女性が置かれている立場が厳しいから、そういったキャラクターに憧れるのかもしれませんが、だったら “愚鈍な”女性も魅力的に見せられるんじゃないかと。町をスエットはいて歩いているような女性もちゃんとかっこよく描けるんじゃないかと思いました。「監獄のお姫さま」ではそれが目標だったので、ラストは馬場カヨたちが法廷で吾郎に勝つところをきちんと描きたかったんです。そして、最後は「更正するぞ」という掛け声が「更正したぞ」になりました。今回、そんなふうに女性を描けたということで、自分の中にまたひとつ新しいチャンネルができたという感じがしています。

取材・文/小田慶子

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