<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「忘れないように、忘れられないように」【短期集中連載/第11回】
そんな感じで温もりたっぷりに完成した会場が僕は本当に大好きで、個展開催期間中は仕事場を丸ごと会場内に移し、毎日、『おとぎ前ビエンナーレ』の中で仕事をしていました。
ノンちゃんは、子供が工作を親に自慢するような調子で、会場に友達を連れてきては、自分が手がけた場所や、仲間が手がけた場所を懇切丁寧に説明し、説明が一通り終わると、会場内に設けられたカフェスペースで、またまたビールを呑みます。さすが酔っ払いは、仕事をしている僕にも容赦なく話しかけてきます。
「西野さんって、ディズニーを超えるんですか?」「超えるね」「マジっすか? ヤバイっすね」「ちょっと静かにしてもらえる?」「ちなみに、今、何を描いてるんですか?」「『えんとつ町のプペル』という絵本。ゴミ人間の物語」「ゴミ人間? ヤバーイ!」
『おとぎ町ビエンナーレ』は、人が人を呼んで、連日、たくさんのお客さんで賑わっていました。三角フラッグがたなびく会場内を、チビッ子が走り回ります。敷居の高さなど1ミリもなく、ノンちゃんの狙いどおり、とてもとても温かい空間になっていました。
今、こうして振り返ってみても、今の時間と、あの夏のあの場所が地続きにあるような気がしなくて、まるで夢の中のように、まったく別の世界の出来事のように感じます。とても不思議な感覚ですが、きっと『おとぎ町ビエンナーレ』に足を運んだ全ての人が、同じように捉えていると思います。あそこは、それだけ特別な場所でした。
同会場での来場者記録を更新し、あとは、この夏の終わりを皆で迎えるだけとなった8月24日。突然、ノンちゃんから、フェイスブックのDMが届きました。「どうせ、また呑みの誘いに違いない」と思ってDMを開いたところ、「すみません。個展のお手伝いができなくなってしまいました」という文字が飛び込んできます。DMの送り主はノンちゃんではなく、ノンちゃんのお母様。
ノンちゃんが交通事故で天国に逝ってしまったという連絡でした。
飲酒した男の車が、海水浴帰りにノンちゃんに突っ込み、その後、男は逃走。許すことができない事件でした。お母様から連絡をいただき、その日の仕事は全てキャンセルをして、ノンちゃんがいる神戸の御実家に向かいました。家の前に到着したことをお母様にお伝えすると、「すみません。今、ノンのお化粧をしているので、もう少しだけお待ちください」と返ってきました。交通事故です。否が応でも事情を察します。家の裏手が海になっていたので、行ってみました。
昨日まで前歯をムキ出しにして笑っていたウチのスタッフが、もうこの世界にはいないなんて、まだ、まるで信じられなくて、涙がこみ上げてくることはありませんでした。その間に考えていたのは、御家族の皆様との向き合い方です。どんな言葉をかけても刃になりそうな気がして、家に入ってからのシミュレーションを何度も何度もおこないました。まもなく連絡をいただき、家に上がります。ノンちゃんは、一番、奥の部屋で眠っていて、その横で、妹さんが泣いています。お父様とお母様は「西野さん。お忙しい中、本当にすみません」と何度も言います。気丈に振る舞っていますが、今にも崩れそう。
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PROFILE●1980年、兵庫県生まれ。芸人・絵本作家。1999年、梶原雄太と「キングコング」を結成。2001年に深夜番組『はねるのトびら』のレギュラー出演決定と同時に東京進出を果たす。2005年に「テレビ番組出演をメインにしたタレント活動」に疑問を持ち、「自分の生きる場所」を模索。2009年に『Dr.インクの星空キネマ』で絵本作家デビュー。2016年、完全分業制による第4作絵本『えんとつ町のプペル』を刊行し、累計発行部数50万部を超えるベストセラーに。2020年12月公開予定の『映画 えんとつ町のプペル』では脚本・制作総指揮を務める。現在、有料会員制コミュニティー(オンラインサロン)『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰。会員数は7万人を突破し、国内最大となっている。芸能活動の枠を越え、さまざまなビジネス、表現活動を展開中。
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