羽海野チカ「神木さんは、指し方が美しくて棋士そのものです」
羽海野チカ原作の国民的人気コミック「3月のライオン」を、大友啓史監督と神木隆之介のタッグにて2部作で実写映画化。3月18日(土)より前編が、4月22日(土)より後編が全国公開となるが、このたび「3月のライオン」原作者の羽海野のオフィシャルインタビューが到着した。
'07年から青年コミック誌「ヤングアニマル」(白泉社刊)にて連載を開始し、17歳の将棋のプロ棋士を主人公としながら、男女・年齢を問わず幅広い読者層の心をつかみ、深く長く愛され続けている本作。
記念すべき連載10年目を迎える本年に実写映画が完成し、羽海野は完成した映画をいち早く鑑賞したそう。「ものすごい密度でした」と語り出すと、「気付くと作品の世界に引き込まれている」と絶賛。
主人公・桐山零を演じた神木をはじめ、原作で島田開八段のモデルとなった佐々木蔵之介、川本3姉妹(倉科カナ、清原果耶、新津ちせ)や幸田香子(有村架純)に対する率直な感想を述べ、興奮気味に語った。
そんな羽海野のオフィシャルインタビューは下記の通り。
──完成した映画(前・後編)をご覧になった感想を聞かせてください。
ものすごい密度でした。私は漫画を描くときに密度を濃く描くことで(本を)ずっと手元に置いてもらえるのではないかと心掛けていますが、映画も本当に密度が濃かった。
それがとてもうれしかったです。例えば川本家の食卓シーンは、料理・洋服・家具・そしてみんなの表情……ワンシーンの中にものすごい情報が入っていて、何度も見たくなります。気付くと作品の世界に引き込まれている…そういう力がこの映画にはありました。
大友監督は本当にすごい、大友さんが監督を引き受けてくださって良かったと心から思いました。また監督が「桐山零を見ていて、自分がこの仕事をすると決めて一本立ちをしたときのことを思い出しました」と仰ってくれたこともうれしかったです。
──桐山零役の神木隆之介さんはじめ、キャスティングについて感想を聞かせてください。
神木さんは、指し方が美しくて棋士そのものです。演じているというよりも役として生きているというか、まるでプロ棋士の対局を見ているのかと思うくらい、手つきも仕草も本物の棋士でした。
髪はボサボサで、神木さんが本来持っているかっこ良いところを少しも見せない、そういうふうに映ろうとかみじんも考えていないような姿で、なんてすごい俳優なんだろうと思いました。
実は、島田開八段のモデルは佐々木蔵之介さんです。漫画を描くときは、蔵之介さんの頭蓋骨を頭の中に思い浮かべて描いています。その蔵之介さんが島田役を引き受けてくれた! 漫画本の中から現実世界にそのまま出てきたようで、夢のようでした。
男性キャラクターたちの対局がとびきり格好良く描かれているのに対して、川本3姉妹や幸田香子、女性キャラクターたちは、何ともいとおしく描かれていました。あかり役の倉科カナさんは原作の体型よりずっとスタイルが良いのですが、あの衣装も髪形も居方もあかりさんそのもの、ずっと見詰めてしまうほどすてきな女性です。
ひなちゃんは本当は零ちゃんよりも強い心を持った女の子、清原果耶さんがその強さをしっかりと演じてくれたので、零ちゃんにはこの人がいれば大丈夫だって思いました。モモ役の新津ちせちゃんはかわい過ぎです! まだ4つなのに中身はとても大人で、しっかりしたレディーでした。笑顔としぐさが最高でした!!
香子は後藤正宗九段(伊藤英明)のことが本当に好きなんだ……という純粋で複雑な感情を、有村架純さんが素晴らしく演じてくださった。また香子と零の2人の関係性については、原作でまだ描いていない部分もありますが、この2人は過去にいろいろあったんだなぁということがちゃんと伝わってきた。
零と香子のシーンを見るとこの漫画が映画になって良かったと、しみじみ思います。
──特に印象に残っているシーンはどこですか。
全体を通して兎にも角にもロケーションが素晴らしかったです。実際にプロ棋士の方々が対局している将棋会館や椿山荘といった場所に加えて、映画ではドラマチックな場所がたくさん登場します。特にラストシーンは絶景、感動しました。
川本家も幸田家も島田の家もセットではなくロケ撮影で、漫画の中のあの家を現実に探し出してくれたんだ! と思うと、もう驚きと感動の連続です。
島田の自宅での研究会のシーンもお気に入りです。二海堂や桐山、みんなを自分の家に招いて、彼らと接しているときの島田さんの人柄がとても良かった。こんな人が先輩だったら男の子はついて行きたくなるんだろうなぁというあの雰囲気は、格好いいだけでは出せない、蔵之介さんだからこそ出せた雰囲気だと思います。
ある対局の後に、零ちゃんが大声で叫ぶシーンも感動しました。「将棋しかねぇんだよ!」っていう張り裂けそうな声、追い詰められて心から叫んでいるあの声に胸をつかまれましたね。
そして神木さんは、こんなに桐山零のキャラクターを深く掘り下げてくれたのかと、すごくうれしくなったシーンの1つです。