綾瀬はるか主演の大河ファンタジー「精霊の守り人 悲しき破壊神」(NHK総合)で、ロタ王国の王弟・イーハンをディーン・フジオカが演じている。本作では、女用心棒・バルサ(綾瀬)と破壊神の力を宿した少女・アスラ(鈴木梨央)の旅が描かれるが、イーハンはアスラの母・トリーシア(壇蜜)のかつての恋人でもある。
3月4日(土)放送では、王になるための儀式を控えるイーハンが、アスラと初めて対面。母をロタ人に殺されたアスラを気遣うイーハンだが、その側近・シハナ(真木よう子)は、イーハンの王就任にアスラの力を利用しようとする。
そんなディーンを直撃して、兄の陰に隠れがちだったイーハンの成長や、イーハンのアスラへの思いについて聞いた。
――演じるイーハンは今作からの登場ですが、前シーズンはご覧になりましたか?
出演が決まってから、脚本と映像を見させていただきました。アクションが強調されていて、見る側としても楽しめる作品でした。僕はアクションが大好きなんです。馬も乗れるし、剣もさわれるし…と喜んでいたのですが、今作の台本を読むと僕の演じるイーハンはアクションシーンがなかったんです。
残念だとたびたび言っていたら、スタッフさんがストーリーに影響のない形で、アクションシーンを入れてくれました(笑)。
――念願かなってのアクションシーンのご感想はいかがでしたか?
正直に言うと…物足りなかったですね(笑)。もっとやりたかったです。
それから王になることで、衣装がかなり豪華になっていて、剣を振っていると絡まったり、装飾が落ちたりするんです。体裁を守りながらも、戦いの中に身を置く緊張感や、決して人を殺したいわけじゃないという内面の葛藤も表現しなくてはいけないので、チャレンジでしたね。
ただ、あらためてアクションというのは、気持ちの起伏を立ち回りの中に取り入れていくものだと実感しました。中華圏で活動していたときも、“どうして、こういう動きをするのか”、“なぜこのステップは前に向かうのか”と、全部初めに気持ちがあるんだということを厳しく言われてきたんです。それがまた違う国で発揮できたことはうれしかったです。
――前シーズンから激しいアクションをこなし続ける綾瀬さんは、ディーンさんから見ていかがでしたか?
タフだなと思いました。撮影は連日、長時間にわたる中で、集中力を切らさずに役でいられて、アクションの流れ、リズムをキープできるのは一つの技術だと思います。それを実際こなしている姿を見て、努力家なんだろうなと感じました。
――ご自身が演じるイーハンはどんなキャラクターとして捉えていますか?
すごくやさしい人ですね。ロタ王国は、民族間の差別や対立が激しいという設定ですが、制度や習慣にとらわれず、人の内面を見られるピュアなハートを持っている方だと思います。
最初は、兄・ヨーサム王(橋本さとし)が偉大過ぎて、それに頼ってしまったり、自分は兄のようなリーダーになれるかと葛藤したりするのですが、兄が亡くなるということで逃げ出すことのできない状況に置かれて、次第に自分の意志で戦うようになる。イーハンの部分だけ見ると、この作品は彼の成長物語でもあるんです。
――演じる上では、イーハンの成長をどのようなところで表現しましたか?
迷いがあるときは、口調やたたずまいに出ると思います。声のトーンや、間、そういったものは前半と後半でだいぶ変えました。もちろん、頭の悪い人ではないし、武術も出来て正義感もあって、行動力もあるのですが、前半ではここぞの踏ん張りが利かない。なので、責められてうろたえるなど、隠さずに弱さを見せていくことにしました。対して、後半は一つ一つに迷いがなく、理想も語るけど現実を見て判断していくリーダーとして映ればいいなと思って演じました。
――トリーシアとその子供たちは、イーハンにとってどんな存在でしょうか?
トリーシアは、イーハンの人としての在り方と、王家の者としての宿命、その両方を浮き彫りにするキャラクターだなと思います。民族の違いがなければ二人は結ばれていたのに、両民族の負の歴史があるために引き裂かれます。立場上は諦めなければいけないが、人としてのピュアな部分には葛藤が生まれ、イーハンは存在の根底を揺るがされるんです。
そして、アスラとチキサ(福山康平)は、この世からいなくなってしまったトリーシアの忘れ形見と言うか、イーハンにとっては少しでも彼女を感じられる存在ですよね。彼らをどう導いていくかというのが、王として国を導いていくことのメタファーとして、シンボリックに描かれていると思います。
――先ほどおっしゃったように衣装も豪華ですが、着用した感想はいかがでしたか?
とにかく、暑かったです。冬の素材で、着ているだけで汗をかくような感じですね。王様は、権力を持って快適な日々を過ごしていると思いがちですが、意外とプレッシャーの中にいるんだなというのを、衣装から感じました(笑)。
でも、この衣装が芝居に生きて来たんです。長ぜりふのスピーチをするシーンがあるのですが、ちょうど体調が悪くて、かなりきつい時期で。その衣装や病気による体の重みが、イーハン自身の運命と向き合う決意や、未来に向けて一歩踏み出す重みと不思議と重なって、スピーチは“魂の叫び”というか、だいぶ熱いものになったと思っています。
――セットもさまざまな国の要素を取り入れた、力の入ったものです。それを見て、ご自身が旅した国を思い出すことはありましたか。
まさにロタ王国は、いろいろな国の要素が顕著に表れているセットだと思いました。内装はアラブ的ですが、祭儀場はバリ・ヒンドゥーのような装飾が使われているし、石像はカンボジアのクメール系だな…とか、細かいところまで興味を引かれましたね。
おそらく美術の方や所作の先生など、皆さんがさまざまなリサーチをして、上手く整合性が取れるように、パズルをはめていったんだと思いますが、そういう見方でもこの作品を楽しめると思います。
――海外の現場を経験しているディーンさんから見て、そんな「精霊の守り人」の現場はどのように映りますか?
スタッフの皆さんの忍耐力がすごいと思います。本当に大変な撮影をしていると思うんです。
アメリカだとユニオンがあるから、余力を持って制作に当たれるように守られていて、だからこそ、いいものが出来て当たり前なんです。でも、この作品のスタッフの皆さんからは、ものすごく過酷な中でも、パッションや愛を込めて細部に至るまで諦めないという意志の強さを感じますし、だからこそ自分も頑張らないといけないと思います。
イーハンについて描かれる部分は、全体から見れば限られているのですが、ドラマチックなシーンが多いと思うんです。それに、脚本ではあっさりとしているように思っても、実際に撮ってみると心震えるシーンになっていたことも何度かあって。それは、それぞれの部門で、「さらに良いものを」と気持ちを込める現場だからだと思っていて、へとへとになって家に帰っても「俳優をやっていて良かったな」と思える達成感があります。