2020年にソロアーティストデビューを果たした声優・楠木ともりが、2ndEP『Forced Shutdown』を4月28日にリリースした。本作にはインディーズ時代に制作した「sketchbook」「アカトキ」「バニラ」の3曲リアレンジに加え、新たに書き下ろした表題曲を含む全4曲が収録されている。その作詞・作曲全てを自ら手掛けた楠木に、こだわりの詰まった新曲やアーティスト活動について聞いた。
――前作『ハミダシモノ』は名刺代わりになる一枚にしたかったとお話しされていましたが、今作『Forced Shutdown』はどのような一枚を目指されましたか?
「何かEPのコンセプトを決めてから取り組んだわけではありませんでした。ただ、前作が自己紹介としての一枚であるなら、今回は表面的な意味合いよりももっと深い、深層的な部分で、私の人物像を知ってもらえるような一枚になったかと思います」
――「Forced Shutdown」は制作過程で新しい試みがあったと聞いています。
「表題曲はいつもと作り方を変えていて。普段は作ろうと書き始めてから数日かけて作っていくのですが、この曲に関しては生活の中で少しずつ書き留めていったものを形にしました。この作り方は初めてだったので、他の曲より時間を長くかけた分、いつもとは違った雰囲気の曲になったかなと」
――作詞作曲する上でこだわった部分はありますか?
「今回のEPの中では『バニラ』は、私の想いを色濃く反映し、細かく描写しています。自分の気持ちや経験からできている曲ではあるけど、あまり具体的に書き過ぎたり、自分が考えている意見をはっきりと伝えたりせずにぼやけさせて、想像できる幅を持たせるようにしました」
――Forced Shutdownの歌詞にある、歌っていない「 」のフレーズにはどんな意味を込めていますか?
「サビの歌詞にある「 」はもともと入れていたものを一度消して、スタッフさんと話し合う中で再度入れ直した経緯があるんです。この空白を見た人が自分だったらどんな言葉を入れるか、考えてもらえたらいいなと思うし、その言葉によって曲の意味が変わってくると思うので、想像の余白として入れました。ここに皆さんが何を入れるのか、私自身もすごく興味があります」
――歌う上でどんなことを意識されましたか?
「今回のEPは曲のジャンルが幅広いので、曲に対してのアプローチや歌い方を変えました。歌い方によってどう聴こえるか、どんな映像が浮かぶかを想像しながら、歌の繊細な質感を意識して歌いました」
――MV撮影時のエピソードはありますか?
「皆さんから特に印象的だと言っていただくのが、サビ直前にカメラを見る目です。MV全体を通してあまり顔を見せないように横を向いたり、髪で顔を隠して表情が分からないようにしているのですが、表情のインパクトが一瞬でもいいから欲しいなと。ほんの一瞬のことなんですけど、皆さんの印象に残ったのなら狙い通りかもしれません」
――今回あらためて収録された「sketchbook」「アカトキ」「バニラ」の聴きどころもお聞かせください。
「『sketchbook』は、歌い方も声質も今までとテイストを変えています。質感にこだわった曲でもあって、音数を減らして没入感のあるアレンジにしていただいているので、曲の世界観に入れるようにイヤホンやヘッドホンで聴いてもらえたら嬉しいです。レコーディングではコーラスをたくさん録ったので、途中から酸欠状態になってしまって。初めて歌っている途中で休憩を入れました。それくらいこだわったので、ぜひ聴いてほしいです」
「『アカトキ』は、インディーズの音源をリアレンジしました。元々は落ち着いた曲調だったのですが、皆さんがライブで楽しんでくださっている姿を見て、クラップが似合う明るいアレンジに変えました。楽器もピアノ以外は生音で録っていて、リッチなテイストになっているので、ぜひ大きなスピーカーで聴いてほしいです。」
「『バニラ』はエモーショナルなロックバラードです。他の曲と違い、手紙や日記に近いテイストで歌詞を書いていて。皆さんに伝えたい気持ちが強い曲なので、手紙を読んでいるつもりで歌詞をじっくり読みながら聴いてほしいです。歌い方も気持ちを込めて、他の曲とは違うベクトルで歌っているので、皆さんへ向けて歌っているんだというのを、より実感しながら聴いてもらえたらと思います」
――その思いが「バニラ」のMVでの涙の映像につながっているんですね。
「何回も撮影をしているうちに気持ちが高まってしまい、思わず泣いてしまいました。タイミングが良かったので、目薬と思われる方もいるかもしれませんけれど、本当の涙です。打合せにもなかったので、監督も驚かれていました。編曲は、私が大好きなハルカトミユキさんのアレンジなどを手掛けられている、野村陽一郎さんににお願いをしました」
――最後にファンの皆さんへメッセージをお願いします。
「いろいろな方の音楽の好みに刺さる曲が、1曲はあったらいいなと思ってEPを作りました。でも、4曲を通して聴くと一見バラバラな曲の中に共通項が見えてきて。まるで映画を見終わった後のような満足感のあるEPになっていると思います。ぜひ、4曲通して聴いていただけたら嬉しいです」
文・撮影=永田正雄