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西野亮廣が“もう一つのえんとつ町の物語”「みにくいマルコ」に秘めた決意とは

2021/10/22 10:00

次回、次々回以降の絵本制作のほか、11月に日本武道館で行うイベント『~世界で一番楽しい学校~サーカス!』や10月下旬の『映画 えんとつ町のプペル』の限定上映の準備など、変わらず多忙な日々を送る西野亮廣
次回、次々回以降の絵本制作のほか、11月に日本武道館で行うイベント『~世界で一番楽しい学校~サーカス!』や10月下旬の『映画 えんとつ町のプペル』の限定上映の準備など、変わらず多忙な日々を送る西野亮廣

西野亮廣にとって、この1年はまさに激動だった。2020年末に公開された『映画 えんとつ町のプペル』が大ヒットを記録し、日本アカデミー賞受賞や10を超える世界的映画祭でのノミネートに導いた一方で、デビュー以来20年間在籍してきた芸能事務所を退所。そして、そんな波乱のさ中に創作し続けた最新絵本『みにくいマルコ〜えんとつ町に咲いた花〜』が5月31日に発売された。『映画 えんとつ町のプペル』がハロウィン限定再上映中だが、本作はその後のえんとつ町が舞台。切なくも美しい恋の物語でありながら、どこか今後の西野が進む道を「深読み」させる。はたしてどのような思いでこの作品を描いたのか、語ってもらった。

抱きしめようと思ったら傷つけてしまう。だから離れるしかなくなる

職を失ったマルコが流れ着いたのは、見世物小屋『天才万博』。舞台袖のマルコとステージ上の光のコントラスト表現が、20年間芸人として舞台に上がり続ける西野の心情を表している
職を失ったマルコが流れ着いたのは、見世物小屋『天才万博』。舞台袖のマルコとステージ上の光のコントラスト表現が、20年間芸人として舞台に上がり続ける西野の心情を表している 『みにくいマルコ~えんとつ町に咲いた花~』幻冬舎刊

――新作絵本の『みにくいマルコ』ですが、かなり生々しく西野さんらしさを感じたんです。「芸人という青春の時期があって、この作品でそれと別れを告げるような感じ」がすごくしました。

たしかに! 吉本退所の時期も重なっていたっていうのももちろんありますもんね。

――たとえば、モンスターたちが劇場終わりに皆でそぞろ歩きしている絵がありますが、なんとも西野さんらしい視点だな、と。

なんば・千日前に『baseよしもと』って劇場があったんですけど(キングコングは2003年の劇場リニューアルを機に卒業)、その劇場出番の終わりに皆で飲みに行くときとか、下北沢でライブして皆で「ちょっと打ち上げに行こっか」みたいなときのワンシーンですね。やっぱり、懐かしみながらこのページを描いてますね(笑)。

劇場終わりに、共に舞台に上がったモンスターたちとそぞろ歩くマルコ。夢を共有する仲間たちとの青春の日々を描いた美しいシーンであると同時にやがて訪れる決別の時を思わせる切ない一枚
劇場終わりに、共に舞台に上がったモンスターたちとそぞろ歩くマルコ。夢を共有する仲間たちとの青春の日々を描いた美しいシーンであると同時にやがて訪れる決別の時を思わせる切ない一枚 『みにくいマルコ~えんとつ町に咲いた花~』幻冬舎刊

――『みにくいマルコ』は『えんとつ町のプペル』の3年後の世界が舞台です。大きな変革を(えんとつ町のプペルの主人公の)ルビッチが起こして、社会がすごく変わりました。結果、いいことがたくさんあったんでしょうが、一方で“割りを食った”連中も出てきます。そんな新しい社会にうまく適合できなかった人間たちが、『天才万博』という見世物小屋で芸を披露して食いつなぐ。それがすごく芸人さんっぽいですよね。

まさに、まさに。うまく社会になじめなかった人っていうのは、そこに行くしかないっていう。僕がそうだったんですけど、学校の成績もあんまりよくなくて大学も行けないし、っていうヤツはそこ(芸人)ぐらいしかなくて。でも、そこだったら受け入れてもらえたし夢を見れたんですよ。ただ結論を言うと、あまり長居できなかった(苦笑)。先ほど話した絵、baseよしもとの終わりのあの感じとか、下北のライブのあの感じとか、むちゃくちゃ幸せだったんですけど、もう戻れないっていう。あの受け皿ですら「無理になっちゃったな」という感じですね。

――幸福を捨てても出て行かざるを得ない理由があったんですか?

こんなことを言うと、ちょっとカドが立つし鼻につく話ではあるんですけれど、「会話」がうまくできなくなってしまった。「こんなことをしたら面白いかも」っていうことをやればやるほど、他人とズレが出てきてしまう。まさか誰かを攻撃しようと努力しているわけではないんですけど、結果的に僕の一挙手一投足が誰かを攻撃しちゃったりだとか、誰かを追い込んでたりだとか。頑張れば頑張るほど、他人と一緒にいられなくなってしまいました。

――物を作る人の常かもしれませんが、どんどんと孤独に向かっているような……。

『えんとつ町のプペル』を作っていたときはまだ、人とちょっとは会ってたんですよね。でも最近はあんまり会ってなくて。というのは、全然話が合わなくなってる。飲んでる席で、「世界一になろう!」なんて言うヤツは当たり前ですけど普通いないので(笑)。どっちが上とか下とかでは決してないんですけど、「レギュラー番組を増やしたい」って言う人たちの中で、「いや、世界を獲りたいんだけど」って言ったら、「何言ってんだ、お前」みたいになるじゃないですか。それがやっぱり……。昔はね、吉本に集まっている者同士、「そうだよね、そうだよね」って話が超合って、打ち上げしてるときとか、むっちゃ楽しかったんです。でも、むちゃくちゃ頑張って「次は海外だ!」ってぶち上げたら、この受け皿(芸人の世界)でも、受け入れられなくなっちゃった。それで結局、「人に会わなくなったなー」みたいな(苦笑)。

でも、だからこそ、「作品は尊いな」と思ったんです。人に会う回数は減りましたが、映画みたいな皆が見られる作品をボーンと出したら、たくさんの人、海外の人までもが観てくださる。「ああ、ここで、接点を持てるんだな」と思ったんです。だから、(映画の)『シザーハンズ』と一緒です。エドワード・シザーハンズっていう、手がハサミのヤツが、(愛する人を)抱きしめようとしたら肌を切っちゃったり、人を傷つけちゃうんです。結局アイツも人間の世界にいられなくなって、離れるしかなくなる。

――憧れて入った芸人の世界で大好きな人たちに近づけば近づくほど、本意ではないけれども相手を傷つけてしまう。そんな自分をモンスターのように感じて、(みにくいモンスターである)マルコに自分を重ねて描いた、ということなんでしょうか。

僕、こないだ芸人の先輩2人と飲んで、酔っぱらった勢いで「どこで折り合いつけてるんですか?」って聞いたんです。「このへんでいいや、っていうのがどこかにあるんですか?」って。僕はデビュー2年目ぐらいからインターネットというものがあって「世界」を意識することができましたが、先輩方には世代的にそういう意識はなかった。だから、「別に折り合いをつけてるわけではないんだけど、(世界なんて)考えたこともなかった」っておっしゃって。

そういう方々に対して飲んでる席で、「アメリカでね」とか「フランスでね」とかいう話をしたときに、「この人たちもすげえ頑張ってるのに、劣等感をおぼえさせるようなことをやっちゃってるよな」と思ってしまった。だって、立派なことじゃないですか。テレビの世界で頑張って、YouTubeもやって、ご家族を養って。だけど僕がそこに割って入って、自分が一番面白いと思うことをしゃべっちゃったら、「西野のあと、もう何も言えないじゃん」みたいな雰囲気になっちゃうっていう。ああ、これはなかなかシビアだなあっていうのがありましたねえ……。

自分の話しか描かない、そういうことにした

【画像を見る】絵本のカバーを飾る、西野による主人公・マルコのスケッチ画。口を縫われた異様な形相だが、そこには今後展開される物語のカギを握る深い理由が…
【画像を見る】絵本のカバーを飾る、西野による主人公・マルコのスケッチ画。口を縫われた異様な形相だが、そこには今後展開される物語のカギを握る深い理由が… 『みにくいマルコ~えんとつ町に咲いた花~』幻冬舎刊

――今回の絵本の主人公であるマルコですが、カバーのスケッチ画を見ると、口が糸で縫われていて耳もちぎれていて、と異形です。このような設定にした理由は何でしょうか。

作品の中の理由と、僕の気持ちはちょっと別なんです。作品の中では理由を説明していないんですが、「えんとつ町の秘密を知ってる」からなんです。絶対に知られちゃいけないえんとつ町の秘密を知ってるから、えんとつ町を支配してる人に「しゃべるなよ」ということで縫われてしまっている。一方で、僕のほうに置き換えると、「もうお前はしゃべるな」っていう(笑)。いまはSNSで、何かの事件や現象に意見を言うだけでポイントが獲れるじゃないですか。もっと言うと、それでお金稼ぎもできて生活していくこともできる。でも、それをして何になるんだって。それは誰かに任せて、お前は作り手なんだから、「黙って作っとけ」っていうことで縫いました。……ときどき漏れますけどね(笑)。

――中を見ていくと、『天才万博』の舞台袖にたたずむマルコと光あふれるステージの絵ですが、光と影のコントラストが強烈で、ものすごく距離を感じます。でも西野さんは、NSC在学中に注目を浴びて若くして成功を収められました。それでも「心情的に、舞台が遠い、スポットライトがまぶしい」という感覚があったんですか?

『baseよしもと』は230人ぐらいのキャパの、ほんとにちっちゃいちっちゃい劇場だったんですけど、舞台袖から、フットボールアワーさんとか、ブラックマヨネーズさんを観たときの感じがこれで、あまりにも遠くてキラキラしてて、まあ歯が立たないんですよ。僕らはこないだまで高校生だし、まだ(養成学校に)在学中だし。先輩方はどっかんどっかんウケていて、そのあと自分たちが出て行ってもウケない、毎日そんなんなんですね。そうするとステージ上の演者さんがもう輝いて見えて。隣に『なんばグランド花月』っていう劇場があるんですけど、そこに行ったら師匠方が1000人を相手に落語をされたりだとか、漫才をされたりだとか、それも輝き過ぎていて。たった5、6メートルの話なんですけど、もう、遠すぎて。あそこにいつ行けるんだ僕は、みたいなことを描いたのがこのページですね。

――次ページの、カーテンコール時にスポットライトを浴びる仲間たちの輪に入れないマルコの絵も、当時の西野さんの心情を表しているんですか?

そうですね。普通、ステージに立つのって(デビューして)5年とか6年とかやってからだと思うんですけど、幸か不幸か僕らは1年目から立たしてもらってはいたんです。ただ、「全然スポット当たってねえな」っていう感じはありました。ただ出てるだけで、自分たちのことは誰も観ていない、っていう。タモリさんとかがあそこにいて、あそこに行けねえなあみたいな感じはやっぱありましたね。ほとんどの芸人さんはこれですよ。芸人さんの話ですね、これは。

――そこで仲間ができて、助けてもらって。でも、やがて離れて行かざるを得なくなる。本筋はマルコとララの美しい恋の物語ではあるんですが、芸人・西野亮廣の物語でもありますよね。

そうですね。自分の話しか描かない、そういうことにしましたね。

――今回、過去作と比べたときに、「絵」がより立体的だったり「動的」であるように感じましたが、映画の影響が大きくあったのでしょうか?

むちゃくちゃあります。(前作絵本との間に)アニメーションを挟んだのはやっぱりでかくて、それで結構、絵本のスタッフさんと衝突したんです。「キャラクターが止まってる」「ダメだ」って。動作中の動き――力の入り方とか、筋肉の浮きどころとか、骨の位置……何回も直して送って、それはむちゃくちゃ衝突しました(笑)。だって、絵本『えんとつ町のプペル』のときはオッケーだったものを、映画を挟んだとたんに「そんなのダメだ」っていうのは、スタッフからしたら「お前、こないだまでこれオッケーって言ってたやないか!」って話なので。

――その甲斐あって、寄り引きのメリハリとブレによる躍動感が素晴らしいですね。

たしかにカメラ的、一眼レフ的ですよね。絵本って平面で、輪郭がちょっとぼけてたりだとか、ピント合わせとかないですもんね。やっぱり、すごく映画の影響はでかいですね。

下に続きます
■書籍情報
絵本『みにくいマルコ ~えんとつ町に咲いた花~』
2200円(税込) 発売中
幻冬舎

『えんとつ町のプペル』から3年後の世界を描いた、もう一つの「えんとつ町」の物語。青い空と星空を取り戻した代償に、割を食い職を失った者たちもちらほら……。そんな中の一人、みにくいモンスターのマルコは行き場を失い、『天才万博』という見世物小屋に流れ着く。そして出会った少女と許されない恋に落ち――。西野亮廣ならではのハッピーエンドの在り方と映画制作を経たことによる絵の進化に圧倒されること必至!
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『みにくいマルコ ~えんとつ町に咲いた花~』に、西野亮廣がスペシャルバージョンのサインを書き入れたものを5名様にプレゼント! 応募はザテレビジョン公式Twitterから。詳しくは下記のURLをクリック。
https://mobile.twitter.com/thetvjp/status/1451352855802122240

■『映画 えんとつ町のプペル』が帰ってくる!
2020年末に公開され大ヒットしたプペルが、2021年10/22(金)~31(日)の10日間、再上映されることが決定。ハロウィンの夜に魂が蘇ったことで起こる奇跡を描いたこの作品を劇場で楽しむラストチャンスだ。
https://poupelle.com/

■関連書籍情報
エッセイ集『ゴミ人間 ~日本中から笑われた夢がある~』
1540円(税込) 発売中
KADOKAWA

西野亮廣にとって世界進出の“名刺代わり”となる作品『えんとつ町のプペル』ができるまでの裏側の物語を綴った自叙伝的エッセイ集『ゴミ人間』。西野作品をより深く読み解くための副読本としてもぜひ!
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みにくいマルコ ~えんとつ町に咲いた花~
みにくいマルコ ~えんとつ町に咲いた花~
にしの あきひろ (著)
幻冬舎
発売日: 2021/05/31
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  • 次回、次々回以降の絵本制作のほか、11月に日本武道館で行うイベント『~世界で一番楽しい学校~サーカス!』や10月下旬の『映画 えんとつ町のプペル』の限定上映の準備など、変わらず多忙な日々を送る西野亮廣
  • 【画像を見る】絵本のカバーを飾る、西野による主人公・マルコのスケッチ画。口を縫われた異様な形相だが、そこには今後展開される物語のカギを握る深い理由が…
  • 職を失ったマルコが流れ着いたのは、見世物小屋『天才万博』。舞台袖のマルコとステージ上の光のコントラスト表現が、20年間芸人として舞台に上がり続ける西野の心情を表している
  • 劇場終わりに、共に舞台に上がったモンスターたちとそぞろ歩くマルコ。夢を共有する仲間たちとの青春の日々を描いた美しいシーンであると同時にやがて訪れる決別の時を思わせる切ない一枚
  • 断崖に咲くタンポポ。数年前まで煙に覆われ花の存在を誰も知らなかったえんとつ町では、何気ないこの花も貴重な存在だ。花言葉は「別離」「真心の愛」。壮大なエンディングにつながる
  • 社会の大きな変化に取り残され、閉ざしてしまったマルコの心を溶かしていく可憐な少女、ララ。ちなみにこのヒロインの父親は、『えんとつ町のプペル』でも重要な役割を果たしたあのキャラクター!

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