現役時代は「メッシュのユニフォームを着ると『下着が透けてる』と騒ぎ立てられ…」
「その間も、セクシャルハラスメントの問題、生理を始めとした女性の体の問題、さらに昨今ようやく注目されるようになった盗撮問題などがあり、女性の立場を理解し、その意見を反映していく環境づくりが必要だと掲げられたガバナンスコードです。私自身は幸運にもあまりなかったけれど、それでもちょっと太ると激太りと言われたり、暑さ対策でメッシュのユニフォームを着ると『肌が透けてる』『下着が透けてる』と面白おかしく騒ぎ立てられたりしたことがあります。こういったアンコンシャス・バイアスが最近指摘され始めて、これから改善してくのかな。今、大きく変わろうとしているところだということを皆さんに知っていただきたいなと思います」と語り、ジャーナリストの治部れんげ氏も「当時は私も“森さんけしからん!”と思ったけど、男性もこれについて言及するようになり、逆にこれは大きく変えるチャンスだと思いました」と同調した。
障害者についても「現実を知ることが大切ですよね。マラソンと車いすマラソンのタイムって車いすマラソンのほうが1時間くらい早くて、いいなぁと思っていたんですけど、自分がやってみたら、歩いてる人に『大丈夫?』と心配されるくらいのスピードしか出ず(笑)。車いすを操るというスキルやパワーが必要だと実感しました。これを知るとやはり正当なリスペクトが生まれますよね。パラリンピックとオリンピックが一緒に活動するようになったのはここ10年くらいなのですが、一緒にやってみると、最初は距離を取っていた子どもたちも終わった後『車いす欲しい!』と言い出すくらい夢中になるんです」と柔らかい笑顔で語った。
ジェンダーギャップ指数の問題の解決には「まず、原因を探ることが大切。例えば今は、引退後に家庭に入ることが“常識”となっているので、いざ運営組織などに招かれてスポーツ界に戻ることになっても、ペーパードライバー研修が必要なほど、右も左も分からず不安で、居心地が悪くなってしまう。しかも男性ばかりの中に女性はほんと数人でアウェイで、私もかなり不安で、やりにくかったです」と、彼女のキャリアからすると意外な告白。女性が活躍できないのはその人の能力のせいではなく、環境とのマッチングにも原因があるとして、Eラーニングなどで女性リーダーの育成・支援をする「CareerUP」に取り組んでいることを紹介した。
さらに、「男だから、女だから、健常者だから、障害者だから…とパキっと分かれるのではなく、誰もが“らしく”生きられればいいと思います。将来目が見えなくなったら、マイノリティになる可能性があるので、今から他人との違いを見つけ、考えてみる。そして、反対意見があるときだけ声を上げるのではなく、賛成意見や感謝こそ積極的に表明して、コミュニケーションを取っていくことが大事なのかなと」とコメント。
「これからは多様性のターンだと考えると、自分も解放された気持ちになりました。自分がスポーツ界にいるのでその世界のみで解決しようと考えがちだけど、今日のように、企業で取り組んでることをスポーツに活かせないかとか、ロジックを応用して広がりを持たせるといいと気づきました」と語り、「現役のときも、目標を達成する近道は『今日1日をどう過ごすか』つまり足元を大事にすることでした。私だけじゃなくいろんな立場の人が、自分にできることを、関係ないと思わないでやると、本当に世界が変わっていくと思います」と締めくくった。
◆取材・文=坂戸希和美