あの“お顔”は“跳ね返しの顔”だった
――「まさゆめ」は、SNS上でもかなり話題になりました。企画当初からこのような反響は予想されていましたか?
構想段階では、さまざまな反響があるということは想定していました。でも実際には、本当に多くの反響をいただいて、中には予想できなかったこともたくさんありました。あらためて、作品を展開することの意義や、その伝え方も含めて今何ができるか、ということをチームでたくさん話しあうことになりました。仲間がいることで、いろんな方法を模索したり次の段階への挑戦ができているんだということを実感しています。
個人的には、作品を見てくださったいろんな方々の視点で作品を捉えたいと思い、記録写真などを見ていたのですが、その時々の撮影者の心境によっても驚くほど風景の印象が変化することを感じ、他者の視点になって、もう一度この作品を見ることをまさに今経験しています。
――「実在する一人の顔」として実際に東京の空に浮かんだあの“顔”は「顔収集ワークショップ」やWEB応募で集まった1000人以上の“顔候補”から選ばれたもの、とのことですが、どのような基準で選んだのでしょうか?
1000人以上の顔からお一人を選ぶって、自分達でも何を基準に選んだら良いか分からなくって(笑)。そんな中でたくさんの方に集まっていただいて、「どんな顔が空に浮かぶべきか」を考えるという「顔会議」を開催しました。
その中で、いろんな人の視線を跳ね返してくれるような存在、“跳ね返しの顔”というキーワードが出てきて。興味深く思い、そのキーワードを基準に顔を選ぶことになりました。
顔を選定する際は、たくさんの“顔”を見ていると、不思議なことに、だんだんと顔がその意味から離れ、どこか物体的というか、石や惑星のように見えてくるのですが…。
いったん10人くらいに絞ってから、顔をトリミングして東京のさまざまな景色の写真に当てはめていくという作業を行ったのですが、風景に溶け込みすぎてしまったり、あるいは際立って見えてしまったりなかなか答えが出せず、また全ての作業を一からやり直して。でも最後はそんな作業の中で奇跡的に1名だけ、こちらの存在を問うような、“跳ね返しの顔”と言えるような顔を見つけたんですよ!
そのお顔は、どの風景に当てはめても我々人類の視線を“跳ね返し”てくれるようなしっくりくるお顔を選びました。
――色彩はなぜモノクロにされたのでしょうか?
カラーだと、印刷物特有の質感が出てしまい、作り物に見えてしまうんです。山も、近くだと鮮やかな緑ですけど、遠くに行くにつれてモノトーンのように見えるじゃないですか。モノクロにして、黒を本当の風景の影と同じくらいにぐっと沈ませることによって、風景に溶け込むんですよね。